XVIII
あけましておめでとうございます。
そして、お待たせしました。
「「お待たせ致しました」」
そう言ってブランとノワールが持ってきたのは、僕より遥かに大きい巨大な熊だった。一応嗅覚の鋭い動物の候補として上げたけど、よりによってこれかぁ。
『別のを改めて頼みますか?』
いや、僕の記憶だと山に住んでいる可能性が高くて鼻が効くのはコイツだ。だから候補としては最高なんだけど……、ちょっと大きさがね。さっき大量のゾンビを取り込んだ時の事を考えると、丸ごといく訳にはいかないかなぁ、って思ってね。サイズの指定をしておくべきだったな。よし!
気合を入れて熊の首を触手で包み取り込む、ついでに体から滴る血も吸っておこう。残りは戻ってからにしよう。結果は……オッケー、生成可能だ。やっぱり哺乳類なら生成出来るみたいだな。早速作って土台に寝かせたアンジェリカの元に向かう。
ゾンビの事はまだ話せていない、今のアンジェリカに追い打ちをかける様な事は気が引けたからだ。だから足の治療の事だけ伝え、同意の上で足を繋げた。麻酔が上手く効いたのか、グッスリ眠っている。
『私の配分は完璧です』
うん、それについては信頼してるよ。それにしても、アンジェリカの言い分には驚いた。麻酔を入れる前に聞いたのだ、どうして怯える程に怖い僕達に助けを求めたのか。返ってきた答えが、
「利用出来るものはなんでも使え、ってお父さんに言われたから」
だって。娘にそんな事を教える親も親だが、それを実行してモンスターに助けを求めるこの娘も変わっている。商人って言うのはみんなこうなのかねぇ?
さて、アンジェリカの匂いは覚えた。彼女は家族一緒に馬車で移動していたのなら、その馬車にはアンジェリカの匂いがしっかり残っている筈。これで後を追える筈だ。問題はブランとノワールだな。う〜ん、よし。僕は洞窟から出て外で待機しているブラン達の元に向かう。
「ブラン」
「はい、マスター」
「君はここに残ってアンジェリカと熊の体を守ってくれ。一応、血は抜いたけど鼻が効く動物が群がってくるだろうからね」
「お任せ下さい」
「ノワールは僕と一緒に山賊のアジトを探しに行くよ」
「かしこまりました」
ノワールを連れて行く理由は、彼女にここの守りを任せるのが不安だったからだ。仮にアンジェリカが目を覚ました場合、どんな対応をするのか予想出来ない。完全無視なら良い方、もしかしたらさっき提案した事を実行しかねない。それならブランを残した方がまだなんとかしてくれそうだ。では、出発だ。
☆
ノワールを連れゾンビと戦った場所まで戻ってきた。どうやら木を伝って動いた分ショートカットになっていた様で、さっきより来るのに時間が掛かった。アンジェリカの匂いを辿ったら、馬車の残骸とまたゾンビが数体見付かった。今回は用が無かったからゾンビを無視し、馬車が来た道を辿ったのだ。
『ですから私が案内すると提案したではないですか』
きちんと嗅覚で道を辿れるかの確認も兼ねてたからこれでいいんだよ。どんな能力だって使いこなせなきゃ意味がない、ってよくアニメの師匠ヅラする人や強敵が言ってたし、何よりぶっつけ本番は勘弁してほしいしね。
「……むぅ」
「そうむくれるないでよノワール。流石に今回は僕じゃないと、ね?」
コネクターとそんな事を言い合っている僕の後ろを付いてくるノワールはおすねタイムの真っ最中だ。理由は僕を抱えられないから。アンジェリカの匂いは風で大分薄れてしまっていて、地面に鼻先を擦る様に近付けないと匂いが辿れなかったのだ。
「むぅぅ……」
ダメだ、ほっぺを膨らませて話を聞いてくれない。仕方ない、用を先に済ましてしまおう。探すのは馬車の痕跡とその匂い、もしくは山賊の痕跡と匂いだ。木片の匂いから馬車の匂いは分かるんだけど、馬車そのもの場所は分からないからな。風に紛れて流れて来てくれないものか、……そう上手くはいかないよな。
え〜と、これが馬車のタイヤの後だから、その間にある蹄の跡が引いてた馬の足跡だな。あれ? 一台だけがアンジェリカの匂いに沿って進んで、もうニ台は引き返しているな。確かアンジェリカから聞き出せた内容によれば馬車はアンジェリカ一家、叔父一家、祖父母と冒険者達の計三台だった筈だ。これは逃げ出せたのは一台だけだった、と言うことか? しかし、冒険者と戦った山賊らしき足跡はあるのに、馬車を襲った山賊の痕跡が見当たらないのは何故だ?
『同胞と共有した情報に【ホバイク】と言う、空気を圧縮し吹き出す事で浮遊する乗り物があるそうです。これならば、痕跡を残さず奇襲が可能です』
マジか!? ……いや、魔法の大砲がある世界だ。空を飛ぶ乗り物位あっても不思議じゃないか。だけど、アンジェリカの家族が使っていたのは普通の馬車。これを動かした時の痕跡が残っている。まだ、追える筈だ。ん? ちょっと暗くなった?
ゴロゴロゴロゴロ……
ヤバい、雷雲だ。見上げれば月の側に大きくて真っ黒な雲が見える、これはいつ降り出してもおかしくないぞ。雨なんて降られたら車輪跡も匂いも消えてしまう、急がないと。だけど今の僕の体じゃ――なりふり構ってられない、か。仕方ない。
「ノワール、僕を持って道の反対側に続いている車輪の跡を追、おう!?」
「お任せ下さい主様!!」
指示を言い切る前にノワールが僕を抱え上げ、そのまま翼を広げ車輪の跡を追える様にか低空で飛び出した。いやぁ、速い速い。僕と言う荷物を抱えているのに、全く苦にはなっていないらしい。改めてヤバいな天使。
車輪跡が消えたのは山の中、どれくらい深くまで入ったかは分からないけど、周囲の木々の様子から人の手が入らない程奥なのは間違い無いと思う。馬車は崖にぽっかり空いた洞窟の入口、その手前に馬四頭と共に止めてあった。ここが山賊の根城、と言う事か。ん?
「降ってきたか」
ポツポツと言う音と共に地面が濡れだし、あっという間にザーザーと言う音に変わり周辺を濡らす。とりあえず馬車の中に入り込んだ僕達はこれからの事を相談する事にした。ただ、残念な事に、
「主様の御心のままに」
と言った感じでノワールが役に立たない。てな訳で、いつも通りのコネクターと相談だ。さて、とりあえず僕の作戦を聞いてくれる?
『おや、作戦なんてもの立てられたのですか?』
まあね。と言ってもゲーム知識から考えた素人丸出しの奴だけど。それじゃ早速、オホン。え〜まず、目的はアンジェリカの家族の救出、これは彼女の話と僕が取り込んだゾンビの性別と数からほぼ間違い無く生きている筈だ。ついでに護衛の生き残りを救えたらなお良しとする。失敗条件はもちろん僕の死、それと救出対象の死も含めよう。
フィールドは洞窟だから潜入からの奇襲作戦。もちろん見付からずに救出出来たらその方が良いけど――無理だろうね。絶対僕の姿が近付いて来たら驚くだろうし、最悪悲鳴を上げる可能性だってある。仮に上手く連れ出せても周囲が暗すぎし、野生の獣程度ならともかく、この世界だとモンスターにに出会す事だってある。
そんなのが潜む暗い山道を女子供だけで歩くなんて自殺行為だ。
よって山賊の全滅、もしくは洞窟から撃退する事を前提に動く。まあ、僕の姿を見て救出に動いているなんて思わないだろうから、モンスターの襲撃と勘違いして山賊も対応する筈。救出対象に危険が迫る可能性は限りなく低いだろう。ここまでに意見は?
『そこまで想定できているのであれば、こちらからは特に指摘する事はありません』
そう? だったらこのまま行こう。あっ、そうだ! 少しでも戦力を分散させる為にノワールに騒ぎを起こしてもらおう。そうだなぁ?
「ノワール、洞窟の中が騒がしくなったら入口で適当に暴れてくれる? 不利になりそうだったら逃げて良いから」
「主様を残して逃げるなどありえ――」
「ちょっと!? 声が大きいって」
「モゴモゴ!?」
大声で反論するものだから慌てて口元を触手で巻き付けて塞いだ。その状態で洞窟の入口を視覚、聴覚、熱で確認、幸いバレなかったようで動きはない。ふう、危ない危ない。奇襲どころじゃなくなる所だった。
「ノワール、静かに頼むよ」
「しかし、主様」
「逃げるのが嫌なら隠れるでもいいから、とにかく命を大事に。良いね?」
「かしこまりました、主様」
はぁ、忠誠心? が高過ぎるのも問題だなぁ、後でなんとかする方法を考えよう。
さて、とりあえずこれで準備は完了、救出開始だ。
本当はもう少し早く更新するつもりだったんですが、先の展開をちょっと重くしたら気も重くなってしまって書く気が無くなってしまいました。
文字にする時には相当マイルドにする予定なので、18禁に移動する事は無い、筈です。次いつ更新出来るか分かりませんが。
それでは今年も宜しくお願いします。