XI
軍隊の人達が邪魔で部屋の様子が見えない。仕方ないので【熱感知】で奴の姿を確認する、どうやら天井付近に何か居るようだ。……これは鍾乳石に擬態しているのか? 天井からぶら下がっている様に見える。
『敵影確認! 種族名【エンペラーバルド】! 推定クラス【ハイ・キング】!』
『各位! 対空準備! 攻撃隊! 大盾隊前へ! 堅実に行け!』
『『了!!』』
ブランとノワールが念話で言葉を訳してくれる。コネクター、エンペラーバルドってどんなモンスター?
『種族【エンペラーバルド】、バット系の進化の一種です。平均体長約五メートル、翼を広げた時の全長は約十五メートル。体が大きくなりすぎたらしく空中戦よりも屋内戦闘を得意とし天井を這うように移動します。主な攻撃は鋭い牙による噛みつきと毒爪の引っ掻き。もっとも危険度の高い攻撃は発達した声帯から放たれる超超音波による衝撃波〈インパクトボイス〉、そして超超音波を収束して放たれる音の砲撃〈ソニックボム〉。どちらも不可視攻撃でまともに受けると鼓膜を破かれます』
じゃあ僕達がここに居たら鼓膜破かれるんじゃない? 離れた方が良いかな?
『あなたの場合は元々無い機関ですから破かれても大きな問題はありません。破かれた瞬間に多少視界がぶれる程度でしょうか? ブラン、ノワールは見た目は幼くとも天使、あなた以上に頑丈ですので問題は無いでしょう』
ならいいや。さて、コネクターが説明してくれている間に軍隊の布陣が完成していく。おかげで人がバラけ部屋の中を見通せる様になった、それじゃ【熱感知】は解除っと。
さて、黄色く輝く刃を持つ剣に槍、斧、後はハンマーを持った人達が【エンペラーバルド】が居る場所に向かって走り出し、その後ろには青く輝く大盾を持つ者達が横並びに続き、入り口を守るように並び立つ。
大盾を持つ者達の後ろには赤く輝く矢を番えた弓を構える者と白く輝く玉が先に浮いた杖と思われる棒を持つ者。そして黒い銃のような者を構えた恐らく遠距離攻撃部隊が控えている。
そして最後尾。扇子の様な者を片手に忙しなく指示をとばしている。その隣にはタブレットの様な長方形の板を持った人がいて扇子を持った人に何かを伝えている。あれが指揮官と軍師と言った感じかな? 扇子を持っている人は部屋で休む様に指示してた人だし、多分合っている筈。
それにしても【エンペラーバルド】が動かないね。何か分かる?
『ダンジョンの基礎情報によると、ダンジョンボスと呼ばれる協力な個体は条件を達成すると動き出す様になっている様です。基本はルームに入ったら、次点で攻撃を受けたら。この情報からあの者達は遠距離部隊での攻撃にシフトすると思われます』
まあそれしかないよね、あの輝く武器を投げつけるとは思えないし。ところでなんであの武器光ってるの? 【熱感知】で見ると熱いどころかむしろ冷たいみたいなんだけど?
『あれは魔力です。どうやら本来目に見えない魔力を圧縮、変換することで可視化している様です。色が違う理由は分かりかねますが、大方色でどの武器種かを分かりやすくしているのではないでしょうか?』
ふ~ん、なら黄色は近接で青は盾だから防御。白が杖、魔法かな? でも赤の矢で黒が銃が分からない。この世界の文明の詳しい情報が欲しいなあ、特に武器に関する情報は急務だな。そういえば、【ハイ・キング】って何? クラスとか言ってたたけど。
『言動から察するに人類が独自に定めた強さの基準だと思われますが、詳しい事は分かりかねます』
そっか、じゃあそれも確認しとかないとな。おっ! 始まったぞ。
『弓矢隊、ってぇ!!』
まず動いたのは予想通り後方部隊、しかし攻撃を開始したのは弓矢部隊だけだ。赤い矢が【エンペラーバルド】に殺到する。だが【エンペラーバルド】も素直に矢を受けたりはしない、体を包んでいた翼を広げ矢を跳ね返す。
「キュアアアアアァァァァァァ!!!」
と同時に咆哮、一瞬周りにいる全員が動きを止める。部屋から離れて見ている僕も触手が動かなくなった、幸い耳を塞ぐ程ではなかったからなのか視線は動かせる。軍人もヘルメットのおかげか耳を塞ぐ程ではないようだ、僕の知ってる狩りゲーならスタンと呼ぶ。
咆哮した【エンペラーバルド】は天井から地上に降りた、今度は着地時に発生した風圧で近接舞台が飛ばされる。
『発砲!!』
そこに後方の銃撃部隊が発砲、【エンペラーバルド】の翼膜に小さな穴が開いていく。銃の貫通力が高いのか、翼膜が脆いのか。どっちにしろあれといずれ戦うと考えると対抗策が必要か、この甲羅で耐えられるかな?
『強化魔法用意! 付加された者は突撃せよ!』
おっと、ついに近接部隊が動くようだ。え~と、魔法部隊と呼ぼうか。魔法部隊が持つ杖から白い光が溢れ、近接部隊が白い光に包まれる。近接部隊は光を確認するとそのまま【エンペラーバルド】に跳びかかる、銃撃部隊は近接部隊が白く光った時点で攻撃を止め銃を構えるだけの状態になっている。同士討ちしないようにしているみたいだ。
「キュアアアアアァァァァァァ!?」
黄色い剣が、槍が、斧が体をすり抜け【エンペラーバルド】が悲鳴を上げる。どうやら実体が無いらしいがしっかりダメージは入ってるようだ、物理防御が仕事出来ないなんて最悪じゃないか。【エンペラーバルド】も爪を振り回し攻撃しているが、数が多く対処しきれていない。ようやく不利を察したらしく天井へ飛び上がろうとしているのか天井を見上げている。
『盾隊! チェーン射出!!』
指示を出した直後に【エンペラーバルド】が天井へ飛び上がる。その着地点に青い盾の中央にある黒く丸い部分から鎖が飛び出す、鎖は【エンペラーバルド】の体に当たると先から細い鎖が幾つも飛び出し体に巻き付いた。
『今だ! サンダーボルトを放て!!』
魔法部隊の杖からバチバチと白い電気が現れ杖の前で頭位の大きさの玉に変わり、鎖に向かって発射された。鎖に当たると鎖が白く点滅し、盾隊と【エンペラーバルド】に向かって伸びていく。盾隊に向かった電撃は盾で止まる。盾隊の人は平然としている事から電撃は通ってない様だ。
「ギュアアアアアァァァァァァ!?」
それに対し【エンペラーバルド】の方は悲鳴を上げながら地面に落ちる。あれだね、効果はばつぐんだ! ってやつ。そしてそこに群がる近接部隊、連携がしっかりしてる。強いねあの軍人さん達。僕じゃすぐに倒されるだろうなあ、……人と戦うのはもっと強くなってからの方が良さそうだ。あっ! 近接部隊が【エンペラーバルド】から離れて盾隊の後ろに下がった。どうしたんだろう?
よく見れば【エンペラーバルド】に巻き付いていた鎖が千切られている、どうやら拘束を振りほどき自由を取り戻したようだ。今は両翼の爪を地面に食い込ませて口を大きく開けて頭を上げる、いや違う、あれは大きく息を吸ってるんだ。
『【対音衝防御】展開!! 同時に【召喚陣】の用意!』
指示を受けた盾隊の盾が離れた所に立っている盾隊の盾に向かって伸びてリング状になった。更に盾は上に向かって伸びていき、最後には【エンペラーバルド】を包むドームへと姿を変える。中では【エンペラーバルド】が大口を開け、周囲の地面が抉れドームの中を跳ね回っている。どうやらあれが【エンペラーバルド】の咆哮を完全に防いでいるみたいだ。
しかし、あれだけ派手に瓦礫が飛び交っているなら盾を持つ人は相当な衝撃を受けている筈、と思い盾隊を見ると先程まで【エンペラーバルド】に攻撃していた近接部隊の人達が数人がかりで盾隊の人を支えていた。なるほど、陣形が崩れない様に支えている訳だな。
その間に魔法部隊は指揮官の前に集まりこちらも円を描くように並び立ち、その中央に幾何学模様の輝く円が現れる。あれが【召喚陣】だろう、ゲームでよく見た演出だ。【召喚陣】の中央から何か出てくる、あれは……大砲?
『リバーブレーションガン、召喚完了しました!』
『魔晶石、魔力残量八〇%。発射可能です!』
『現存魔力量での撃破成功率九三%!』
『よし、魔昌石装填! 照準【エンペラーバルド】』
リバーブレーションガンと呼ばれる、砲身が細く長い大砲の横部分に菱形の石が嵌め込まれた。直後、大砲は回転しドーム内で暴れる【エンペラーバルド】に砲身を向け、
『リバーブレーションガン、放てぇ!!』
指揮官の指示がとび大砲から白い光線がドームに向かって飛び出す。光線はドームを破壊することなく【エンペラーバルド】を貫く、更に光線はドーム内で分裂反射し次々に【エンペラーバルド】を体を貫いていく。一部地面を貫いて消えた物もあるみたいだけど、【エンペラーバルド】の大きさではあれを避ける事は無理だろう。
幾つもの光線に貫かれた【エンペラーバルド】は地面に倒れ動かなくなる、まだ残っている光線が更に体を貫いている。そして、光線が無くなりドーム内で動く者が居なくなった直後、
『生体反応消失、【エンペラーバルド】討伐完了しました!』
指揮官の側に立っていた人がそう声を上げたのだった。