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スタッグビートルセネピートを倒したあと僕達はまたダンジョンを彷徨った。バットを倒し、隠れていた『ケイブマウス』と呼ばれるネズミを倒し、時たま壁を突き破って来る大きなモグラを倒し、洞窟内を疾走するセネピートを倒した。
コネクターのナビ、そして圧倒的な力と魔法でワンパンしていくノワールとブランが居てこそ出来た事だ。もし僕だけだったら、間違いなく途中で死んでいただろう。そして僕は新たな姿へと進化した。ステータスはこんな感じ。
名前【 】
種族:キメラローパー
Lv.1∕50
技能:熱感知
触手再生
怪音波
異常液
部位複合
スライム
秩序の種子
耐性:異常耐性
寒熱耐性
音波耐性
スライム耐性
『キメラローパー』、複数の動物の部位を体のあちこちに複製する事が出来るモンスターだ。本来は自然発生はしない種族らしい、なんでも人間が合成したモンスターにのみ神が付ける名前だそうだ。
えっ? なんで神が名付けるのかって? この世界では種族の名前を神が、個人の名前を人類が付けるのがルールなんだって。正確には知的生命体? がその権利を持つらしい。一応僕も知的生命体の部類に入るのでブラン達に名付ける事が出来たそうだ。どうせなら自分自身にも名付けが出来たら良かったのに。
あとスライムがカンストした、簡単に言うと体をスライムに出来る。この粘液ベトベトの触手を形を維持したまま液体状に変える事が出来るうえ物理攻撃に対する防御力が上がる、と言うかほぼ無敵かする。大顎での攻撃しか脳の無いセネピートはもう怖くない。……嘘です、突撃してくる姿は未だに怖いです。はい。
体をスライムに変える事で出来る事も増えた。まずは食事、いままでは管を刺して血を吸っていたが、今は丸飲みに出来る。おかげで複製する為に必要な血液を簡単に集められる様にもなった。相変わらず味は分かんないけど。いや、コウモリとかの味を知りたいとは思わないけどさ。
それと触手その物のサイズも変える事が出来るようにもなった、複製部分の大きさも変幻自在だ。触手の先を動物の頭に変えれば八岐大蛇擬きにもなれる。……今はコウモリとモグラ、あとネズミにしか変われないから気持ち悪いだけだけど。
ああ、触手の先を頭に変える事が出来る様になったのはスキル【部位複合】のおかげです。最初は複製出来る部位を合体させるスキルと思ったんだけど、いや実際それも出来るのだがこの体の部位もそこに含まれていた、と言うわけだ。
『新しくなった御自分の体の調子はどうですか?』
「悪くはないよ、出来る事も増えたしね。甲羅も新しくなったし少しは気も楽だよ」
そう、砕かれた甲羅は進化の時に新しくなった。いつもの様に頭の中で見せられた形状は巻き貝ではなく完全に亀の甲羅だった。まあ触手を出す為に一部開閉出来る様になっているのが僕の常識から離れた所かな。この世界の進化はなんでもありみたいだ、僕としては助かるけど。
さて、無事進化も終えたわけだがここで問題発生だ。いままでモンスターばかりでだったこのダンジョンに初日以来の人間が現れた、それも大人数で。装備のデザインにアレンジはあるけど色とか形が似てるから、多分軍隊じゃないかな?
ブランとノワールだけならなんとかなるかもしれないが、僕は出会い頭に討伐されてしまう可能性が高い。ここは様子見だな。僕達はブランの天魔法【ミラージュベール】に包まれた状態で通路の岩の後ろに隠れて様子を伺う。
「■◆▲◆●」
「■○▲●◆▲●■▲○」
相変わらず何言ってるのか分からない。コネクター、あの人達は何をしに来たの?
『恐らくダンジョンの攻略に来たのでしょう。モンスターを産み出す危険な場所ですから』
となるとここを知らせたのは僕達が初めて遭遇した冒険者っぽい人達かな? 他に人を見てないし。しかし困ったな。これじゃいままでみたいに動けないぞ。コネクター、どうすればいい?
『このまま様子を伺うのがよろしいかと。あなたも進化したばかりですし無理は禁物です』
結局動けないわけね。せめて言葉だけでも分かれば今後の計画を立てられるんだけどなぁ。
「マスター、私達言葉分かるわよ」
ええっ!? 本当!?
「はい主様。神より賜ったこの身体は『人の選定』の任も持っています。その為に人との接触を図る必要がある為、活動を始めた時点で最新の言語がインストールされます」
なるほど。流石天使、チートだな。それじゃ早速通訳よろしく。
「はい。え~と『魔力探査によるダンジョン内部の解析率八八%、最深部と思わしき部屋を発見しました』」
「『現在地からの最深部到達予想時間は?』」
「『およそ二十分』」
「『よし、ここで野営を行う。その後ラストアタックを実行する、各自しっかり休め』ですって」
ブランとノワールが交互に通訳をしてくれた。だけどわざわざ口調までマネなくていいんだよ? 意味さえ分かれば良いからね。
『口に出すのも問題です。発見のリスクが高まりますから次に行う時は【念話】で行う方が良いでしょう。伝えてください』
ん? コネクターが直接伝えたら良いのでは?
『私が意志疎通可能なのはあなただけです、よってあなたが伝えるしかないのです』
そうなんだ。あれ? でもあの子達を起こしたのはコネクターでしょ?
『私が出来るのは天使のシステムに干渉する事ぐらいです。コミュニケーションは取れません』
そっか。それじゃ伝えておくよ。
『お願いします。所で彼等がルームに留まるならその間にレベルを上げるのはどうでしょうか? 哨戒はするでしょうがそれほど遠くへは動かないでしょう』
しょうかい? って言うのはよく分かんないけど離れれば問題ないって事だね。それじゃ早速動こう。ブラン、ノワール行こう、会話は念話でね。
『『はい、主様』』
それから数時間、ダンジョン最深部へ向かうと言う軍隊が動き出す直前までレベル上げに費やした。いや~、この甲羅凄いね。一回セネピートに捕まったんだけど、アイツの大顎が全く通らなかった。むしろ甲羅中から出した触手で縛り上げて飲み込んでやったよ。相変わらずセネピートの身体を複製出来なかったけど。出来る可能性があるとかコネクターが言ってたけど、ダメだったみたいだ。ちなみにコネクターにこれを聞いたら、
『モンスターと動物、主に哺乳類系しか複製できないのかもしれません。未確定ではありますが』
って言ってた。とりあえず虫は無理って事は確定かな? おっとそれより軍隊だ。ルームに組まれたテントの類いは僕達が覗き見している間に撤去され今は装備の最終点検中だ。しかし、あれは武器なのだろうか? 少なくとも僕が知ってる武器じゃないな、だって持ち手部分しかないんだもの。もしかしてあれか? ビーム状の剣がブシュウって出るやつ。どうなのコネクター?
『私はこの世界の歴史と神々より預かった権限の一部のみを使用出来るだけですので人の作る武器、文化等は詳しくお答えする事が出来ません。世界に甚大な被害を及ぼした兵器ならお答えできるのですが』
マジか、結構能力限定されてるんだなコネクター。それじゃあしょうがない、自分の目で確認するとしよう。僕の使命的にも知っておいた方が良いしこのまま付いて行こうか。
それから数分後、軍は最深部へと出発した。道中モンスターに遭遇することなく進む事約二十分、ついに彼等は最深部に到達した。そこは僕がずっと近寄りたくないと思っていた巨大な熱源が居る部屋だった。