uncut stone
「きっかけと勇気」の別視点のお話です。
よろしければ、そちらもご覧になって下さい。
梅雨時のじめじめした教室でのHR。
それは生徒の苛立ちを募らせるだけで、話し合いの解決には一向に役に立たない。
ちなみに、今日の議題は間近に迫った文化祭のことだった。
そして、現在の課題提供者―――俺。
それは、俺がリーダーを務める係りが人手不足なため、増援を求めた物だった。
「―――誰か助っ人やってもらえませんか?」
そう締めくくった俺の救援に答えてくれる声はない。
まあ、仕方ないか。予想の範疇だし。
言い出した俺が、多分クラス内で一番楽観的に教室を見渡していた。
だって、やってくれそうな人はもう大抵何らかの係りのリーダーとかをやらされているし。
そうでない人は部活が忙しいか、文化祭に興味がないかどちらかだ。
私立校の自由な文化祭と違い、公立の、しかも進学校の文化祭は、規制が多くて楽しいものでもない。
だから、クラス内ではやる気のある人とやる気のない人で二分されている。で、前者は・・・。
そこまで考えて、俺はふと思考を停止させた。
はて。
俺は間違いなく後者に分類される人種のはずなのに、何でリーダーなんかやっているんだろう。
回想―――に入ろうかと思ったけど止めた。
もう一度、教室内を見渡す。隣の席の人と話す人たち。課題をやっている人たち。
読書――いや、次の授業の単語テストの勉強か・・・。
俺もやらなきゃな。
気がつけば、皆好きなことを始めていて、教室内の雰囲気は騒がしいものへと変わって言っていた。
うーん・・・。これは・・・。
このままタイムオーバー、かなぁ。
教室の時計は、授業終了五分前を示している。この様子だと、このまま進展はなさそうだ。
「静かにしてください」
見かねたのか。評議委員が注意を呼びかけた。あ、少し静かになる。
流石、クラスで一番怖い(仮)評議委員さんだ。そんなことをのほほんと思っていると―――
「あ、あの・・・」
どこからか、声、がし、た?
「わ、わたし、やります・・・」
それは、まったくの予想外な人物の声だった。
久々に彼女の声を聞いたなぁーなんて、間抜けな感想を述べてみる。
今では彼女と普通に会話できる人が皆無に等しいからね。
ましてや、男子の俺が、彼女と話すことは滅多にない。
クラス一おとなしくて、人見知りで、人と話すのも苦手な彼女。
そんな彼女の発言は、クラスメート全員を驚かせたご様子。教室は、静まりかえっていた。
さて、これからどうしようかぁ・・・。
彼女も固まっちゃったし、俺がこの空気を何とかしなくちゃいけないなんかいけない、気もするけど。
なんて暢気に考えているとチャイムがなった。ひとまず、日直の号令により、その場は終了を迎える。
さてと、後で彼女に話し掛けに行かないといけないと。
でも、いままでの経験上、話し掛けると「逃げられるor固まられる」だから、対策が・・・必要、かな?
無駄に頭をフル回転させ、そんなことを考えていると俺に話しかける人物がいた。
もちろん彼女―――ではない。
「おい、次英語だぞ」
友人に言われ、指差されて見た先には・・・見事に数学が用意されていた。
うーん・・・。
ドジだな、僕も。
「彼女のこと、どうするんだ?」
「何が?」
「何が、って」
「まぁ、どうにななるでしょ」
「相変わらず楽観的だな」
それが僕のいいところさー。なんて言ったら「キモッ」って返された。失礼な。
さて、でも実際どうしようかなぁ・・・。何て話しかけるか。
―――そうだなぁ。
「おい」
「んー?」
「口元、にやけてるぞ」
おっと、いけないいけない。
でも、つまらなかった文化祭が、ちょっと楽しくなりそうだ。
俺さ、
「彼女のこと、意外と気に入ってるんだよね」
「・・・彼女も災難だな。お前なんかに気に入られて」
隣で何か言ってるのが聞こえたが、すごく失礼な言葉だった気がするのでシャットアウトした。
さーて。
のんびり考えますか。
これからは、退屈せずにすみそうだ。
―――ねぇ、助っ人やってあげようか?
―――え・・・?
―――文化祭の助っ人のお礼に。
君が変わっていくための助っ人。
きっと、君の役に立てるって自負してるんだけどな。
―――えっと、その、あの・・・
―――きっかけと、勇気。
俺がきっかけで、あとは勇気だけ。
お買い得だと思うよ?
こんなこと、滅多にないからね。
―――あ、あの
よ、よろしくおねがいします!
I found you.
―君を見つけた!―
‐end‐