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異世界転生したくないか?

あのさ、異世界転生したいって考えたことないか?


こんなにもダメな自分でも生まれ変わって、やり直して、凄い力を手に入れたら、世界とか救えるんじゃないかと妄想したことが、1回ぐらいはないか?


不良に絡まれてる女の子を見てもビビって逃げちゃうような俺でも、魔法みたいな凄い力さえあれば、誰かを助けられて、皆から感謝されたりするんじゃないかと思わないか?


俺は何回もあるよ。


ずっとそんなことばっかり考えてる。


違う世界に行けば何か変わるんじゃないかって。


転生者-宮崎日向なら何か出来るんじゃないかって。


お前もそういうこと考えたこと、ないか?


***********************


「ないね」


即答だった。


「だろうなあ」


俺は思わず嘆息する。


「あーあ、日向からご飯に誘ってくるなんて珍しいと思ったらこれだよ。期待しちゃったボクが馬鹿みたいじゃん。何で高校生なのに来世のこと考えてるのさ」


高らかにMという看板が掲げられた変態度が高い某ファーストフード店の二人席。向かい側に座る北海釧路は呆れ果てたような顔をした。


まあ、バレンタインデーにチョコを渡すための行列が出来るような、しかも全国模試で上位に食い込むぐらい頭も良くて、付け加えれば陸上部では1年生エースなんて呼ばれている“恵まれている”幼馴染には分からない感情だろう。


予想通りと言えば予想通り。


俺のように「あいつはブタブタの実を食べたブタ人間だ」と噂される負け組の気持ちなんて分かるはずもない。


当たり前の話だ。


「で? まさか、ボクを呼び出したのはこの話をするためだったとか言わないよね? もしそうだったら怒るからね。激怒だよ。激怒」


「いや、普通にこの話するためだけに呼び出したんだが。もう帰っていいぞ」


というか他に用があるわけないだろ。こんなリア充(リアル能力値が充実しているの略だ)と一緒にいても悲しくなってくるだけだ。何かもう生きる気力が消えてく。


『 天は人の上に人を造らず』


誰だって知ってるとは思うが、この言葉はフィクションだ。天は人の上に平気で人を造る。野球少年全員がプロ野球選手になれるわけじゃない。アナウンサー志望の少女の一部しかアナウンサーにはなれない。


結局この世は持って生まれた才能ゲー。


だから、才能がなかったら異世界にでも転生して人生をやり直すしかない。皆そう思ってるからネットには異世界転生ものの小説が溢れているんだろう。


と、俺が物思いに浸っているとプルプルと震えていた釧路が涙目で睨みつけてきた。こいつまだ帰っていなかったのか。馬鹿なのか?


「……だから日向は童貞なんだよ」


グサリ。


「童貞は関係ないだろ!」


「うるさい死ねクソ童貞」


グサリ。


「童貞って言うな!」


「童貞!童貞!童貞!童貞!童貞!」


グサリ。グサリ。グサリ。グサリ。グサリ。


「俺が悪かったからやめてくれ……」


まだ卒業してないだけだから……。転生してチート能力を貰ったら余裕で卒業出来るから……。そもそも転生する方法が分からないのが問題なのだが……。


「じゃあ、日曜にデートしてくれたら許したげる」


釧路の言葉に、俺は一気に現実に引き戻された。


「……そういうのやめろって」


「ボクは日向のこと大好きだからやめない」


凛とした声。


本当にこういうところは昔から変わらない。好きなものをちゃんと好きと言える。それだってやっぱり才能だ。……俺にはない才能。


「俺とお前じゃ釣り合わない」


「恋愛って釣り合うとかじゃないじゃん」


「いい加減にしろよ」


思わずそんな言葉が漏れる。


昔は良かった。


幼稚園の頃は、俺と釧路は毎日のように仲良く遊んでいた。将来は結婚するんだって約束もしたっけ。


小学生の頃も、最初は良かった。お互いに宿題を教え合って、放課後は毎日のように鬼ごっこをしていた気がする。


でも、高学年になって気がついた。

 

俺と釧路は釣り合わない。


何時の間にか釧路は教科書の問題なんかで悩まなくなっていた。鬼ごっこでも幾ら頑張っても追いつけなくなった。


クラスメイトは釧路に「なんで日向なんかと仲良くしているの?」って不思議そうに尋ねていた。


そりゃそうだ。俺はブサメンで馬鹿な運動音痴。釧路は可愛くて頭もよくて運動神経抜群。釧路と俺が一緒にいたらおかしい。誰だって分かる理屈だ。


なのに付き合う?


きっとデートなんてしたら変な目で見られるに決まっている。釧路は気にしないかもしれない。でも、俺はそんなことに耐えられない。


だって、惨めじゃないか。


凄く凄く惨めだ。


だから嫌だ。


「……帰る」


俺は一言告げて席を立った。逃げ出すように出口に向かって歩く。


「待ってるから」


背後から泣きそうな声が聞こえた。


ズキリと胸が痛む。


……俺だって。俺だって、もっとイケメンで、頭が良くて、運動神経が良かったら釧路と付き合いたかった。


釧路が可愛いからじゃない。


釧路が大好きだからだ。


子どもの頃からずっと好きだったからだ。


でも、無理なんだ。


俺は出口のドアをゆっくりと開け、外に出ようとした。その瞬間に、すさまじい振動が俺を襲う。


地震!?


でも、何か変だ。空間そのものが震えているような感覚。尻餅をついた俺はそのまま頭を抱えてブルブルと震える。悲鳴。怒声。ガタガタと色々な物がぶつかる音。そんなものに混じって釧路の声が聞こえた。


「日向!」


条件反射で頭を上げて、声の方向を見る。


「え、あ、な?」


空間に真っ黒い穴が空いていた。穴は掃除機みたいに周りのものをドンドン吸い込んでいる。意味が分からない。俺の理解を明らかに超えている。


釧路は穴のすぐ側で必死になって固定されているテーブルを掴んでいた。呆然としている俺を見つめ、釧路は怯えた声で叫ぶ。


「たすけて!」


思わず体が動いていた。何が起きているのかは分からない。でも、そんなことはどうでもいい。


釧路が助けを求めている。


それだけで十分だ。


可愛くて、頭が良くて、陸上部のエースで、俺の何倍も価値がある自慢の幼馴染。あいつのためなら俺は何だって出来る。


そうして俺は釧路の側に駆け寄り、穴の吸引力に引き寄せられ、近くの物に捕まる暇すらなく穴に引き摺り込まれた。

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