歪んで育つ
皆さんの中学時代はどのようなものだったでしょうか。
勉強は難しくなり、成績や態度によってより細かく評価され、それらはそれぞれの未来に直接影響を及ぼします。
年齢も思春期に突入し、より複雑な思考と人間性が構築されていきます。それに伴い人間関係も複雑化し、子供と大人の中間のような社会が築かれます。
自我と協調性の均一化。これによって人間は円滑に日々の生活を営めるように成長していくんだと思います。
何気なく過ぎた日々かもしれません。部活動に熱心だった人もいただろうし、初めて恋愛をした人もいたかと思います。選択肢が一気に増えましたね。できることがとても拡張されました。
皆さんは皆さんの思い出を辿りながら、僕を見ていて下さい。こんな奴もいたのか、と思ってくれるだけでもいいのです。
どうぞ憐れんで下さい。
ここからが僕が最も腐っていた世界であり、僕を最も腐らせた世界です。
入学式の日は桜が咲いていたと記憶しています。残念ながら当時の僕の目には、それが祝福の花弁には映っていなかったように思います。なにせ僕は一人でしたから。
入学式やその後の学校説明なんかは全く記憶にありません。ひたすら緊張していたんでしょうね。誰も知らない、何も知らない。そんな状況があんなに怖いなんて思いもしなかったのでしょう。入学からクラスでの自己紹介があるまで、僕はひたすら隠れて過ごしていました。
その地域には小学校が三つあり、その三つの学校から進学してくる生徒がほとんどだったようです。だから他の生徒は大体同じ学校からの友達がいたんですね。要するにクラス内には既に三つのグループがあったことになります。
勿論その壁はすぐに無くなり新しい仲間の輪が広がっていきます。
まあ、僕はと言うと一人で机に突っ伏していたのですが。
部活の説明の後、仮入部の期間が始まりました。僕が中学校生活に唯一望んでいたもの、吹奏楽部への入部です。しかし現吹奏楽部には男子がいないとのこと。完全に孤立状態の僕が、苦手意識と恐怖心の対象である女子だけの部活に入るのは極めて困難なことでした。
僕は吹奏楽部に一緒に入部してくれる男子を探し始めました。人見知りやコミュ障、緊張が絶望的な調和を生み出し、僕は悪い意味で浮いていたと思います。自己紹介も名前と出身を言うのが限界でした。だから男子部員探しも捗ることはありませんでした。
偶然楽器経験があるという男子と話した時も相手にされず(その男子は陸上部に入部)、クラスの席の近い男子に話してみても大体が入る部を決めていたらしく失敗してしまいました。
なにも接点のない僕が、どこにも所属せずに友達が作れるとは思えませんでした。当時の僕もそれは理解していました。
そんな途方に暮れている時、クラスの男子数人に声をかけられます。こんな言い方申し訳ないですが、どちらかというと地味な部類の男子達でした。
一緒に卓球部に行かないかと、男子達は言いました。自己紹介の際に僕が孤立していることを知り、その男子達も友達を作るのが苦手だったのでしょう、僕を誘ってくれたわけです。
僕はやむなくなんの興味もない卓球部へと入部することになります。なにも知らないし、運動の苦手だった僕には単に人との接点をつくる為の手段にしか過ぎませんでした。なにより吹部への入部ができなかったこと、音楽との関わりが途絶えたことは僕に大きな絶望を与えました。
期待は裏切られるものなのです。
僕の中学一年生は大体が部活中心に進みました。好きでもなければ得意でもない、言ってしまえば苦手な運動ですが、卓球は技術でそれが補えました。未経験の部員がほとんどだったのでレベルは横並び。その中で僕はそこそこな器用さを発揮してそこそこの実力になり、レギュラーとして試合に参加することもでてきました。
顧問もその年から変わっていて、それまでは適当だったらしい卓球部は真面目な部へと変わっていきました。
とはいえクラスでは相変わらず親しい友達もなく、家に帰ってゲームをすることだけが楽しみになっていました。それに加え面倒な状況が僕に訪れます。
女子から妙な人気を獲得し始めたのです。可愛い、そう言われるようになりました。
僕は背も低く、色白で声も高い、ついでに髪も肩くらいまで伸びていることがありました。気も弱く、自分のことを僕と呼ぶ。そんな存在は、同い年の女子には弟や小動物のように見えたのでしょうか。
妙なあだ名まで付けられ、それは学年の大体に浸透してしまいました。女子が苦手な僕は、中学卒業のその日まで女子からマスコット的な扱いを受けることになりました。
羨ましいと思う人もいるかもしれません。確かに人気者と言えばそうなのです。しかし当時の僕には、それが苦でしかありませんでした。オクテと言う言葉を知ったのはこの頃ですね。過去の経験と今の環境のせいで僕は完全にオクテになってしまいました。女子だけの吹部なんて、僕にとっては近寄ることもできない世界です。
とりあえず卓球部を通して友達をつくった僕でしたが、やはり現実とは生きずらいものでした。特に複雑化した人間社会に僕は馴染むことができませんでした。だから僕は現実逃避を始めます。
電車男。皆さんもご存知かと思います。オタクの青年がお嬢様な美女に恋をして、様々な困難を乗り越え成長していく人間ドラマ。この頃からですね、オタクという言葉が普及し出したのは。
僕はその世界に浸かっていきます。興味があったのも間違いないでしょう。ですが、それよりもやはり現実から目を逸らしたかっただけなのかもしれません。
腐っているのは僕でした。腐っていくのも僕でした。この時点ではまだコミュ障でオクテでオタクな気弱な男子です。(十分腐ってる、とか思わないで下さい)
ここからです。ここから僕は腐っていきます。今の僕が、最もやり直したい、そう思う時期はここなのです。