始まった場所
皆さんは自分の小さい時の事、覚えていますか。物心ついた頃、とでもいうんですかね。大体四、五歳でしょうか。
僕の記憶はそんな四歳や五歳頃まで遡ります。
僕は観光地として有名な浅草に住んでいました。それも隅田川の脇に建つマンションの上層でした。
春は桜が咲き誇り、連日花見の人々で賑わいます。子供だった僕は酒臭さやゴミの不始末なんかでいい思い出だけとは言えませんが、でも桜の下を散歩したり、落ちてくる花びらを掴まえようと飛び跳ねたりした思い出は、今もピンク色の印象と共に残っています。
夏といえば隅田川花火大会ですね。テレビ中継される程ですから皆さんもご存知かと思います。花火大会の数日前から場所取りをしている人もいて、当日は遠くから見に来る人もいて、周辺は人で溢れかえります。僕はそれをマンションのベランダから見下ろしていたんですけどね。花火の音は衝撃波のように小さい僕の身体に響きました。ちょっと恐怖心を感じる程でした。花火の黒煙やススなんかが飛んできて目が痛くなったり、喉が痛くなったりしたのも覚えています。目薬指しながら見てましたね。
秋は赤や黄色、橙といった色に包まれます。落ち葉のマットの上に寝転んだり、落ち葉やドングリを拾ってリースを作ったこともありました。
冬はなんにもなくなります。景色は黒のような灰色のような、地味なものへと変わります。雪化粧、ということもなかったので冬に関しては寂しいイメージしか残っていませんね。
それ以外にも年間を通じて様々なお祭りがありました。酉の市やほおずき市なんかは自転車で遊びに行っていました。観光地なだけあって年中賑わっていたと思います。
そんな環境に暮らしていた僕ですが、活発な子供ではありませんでした。逆に身体が弱くよく風邪を引く子供でした。これは現在もですけどチビでした。小学校六年間は背の順で並ぶ際決まって先頭でした。当時のコンプレックスの一つです。
大人しくて、色白で、小さくて、当時の周りの大人からは「女の子みたい」と可愛がられていました。幼少の頃の僕はそれを嫌がりましたけどね。「男の子はかっこいいもの。強い者」みたいなイメージがあったのでしょう。テレビの特撮に影響されるのは誰しも同じだと思います。
”僕”という人間の始まりは幼稚園です。家族以外の他人と過ごす世界。幼いながらにそこには社会があります。僕たちが生きていく上で必要になるコミュニケーション能力や社会性を、そこでは学ぶんですね。
でも、若干歪んだ社会だったと後になって思います。大袈裟な言い方になるかもしれませんが、ちょっと妙な環境だったのです。