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やくそく

短編小説集2弾テーマは「成人式」でお送りいたします。

 『それでは、新成人の皆さんおめでとうございます』


 司会者の挨拶により厳かな雰囲気は消え周囲のテンションは一気に上がった


 「ふぅ」


会場では、未だに成人式のお祝いムードが広がっていたが、俺は一足先に会場である建物から出た。


いや、会場の外もすごい人だかりが出来ており、まるで街中が俺達を祝ってくれているかのように感じた。


「帰るか」


これから、仲の良い旧友や友人、その場で盛り上がっている同士等様々な集団で各自、成人となった今日をお祝いするのだろう、そんな言葉が飛び交う中、俺は一人帰路につくのだった。


「ただいまー」


今は誰も返す事の無い言葉を紡ぎ、靴を脱ぐ


脱ぎかけた所、俺は靴を脱ぐのを止めると再び玄関の鍵を閉めて飛び出すのだった。


思い出したのだ。


父とのやくそくを


思い出したのだ。


母とのやくそくを


俺は、走った。


やくそくを守る為に


目的の場所に着いた時には、もう日が向こうの山に沈みかけていた


「またせてごめん。父さん。母さん」


そう言って頭を下げた俺は、おもむろに持ってきたビニール袋から取り出すと


「飲もう。父さん。約束してたよね。母さんの手料理で。って約束は俺じゃあ守れないけど。

けど、母さんと父さんが美味しいって。美味しいって自慢してたお店で買ってきたよ。

だから。だから」


途中から、目から涙が止めどなく出て正直聞き取りにくかったと思う。

けど、これだけは笑顔で言いたかったんだ。


「母さん、産んでくれてありがとう。俺、無事に成人したよ。父さん、厳しく叱ってくれて怖いと思った事もあったけど、育ててくれてありがとう。二人の息子は」


「二人の息子は、今日も元気にやってます」


そこまで言うともう鳴き声を抑える事は出来なかった。

俺は、何年ぶりかという位涙が止まらなかった。

悲しみが胸の奥から溢れてしまいその悲しみが涙となって鳴き声となって俺の外へと飛び出し続けた。


「ごめんな。相変わらずの泣き虫で、本当言うと、やくそくの事忘れてたんだ。酷い息子だろ」

泣き止む頃、空には星が輝いていた。


「父さんの背広着て、ネクタイ借りて成人式に行ったんだ。成人式の後、俺も友達と会って出掛けるっていう選択肢もあったんだけどなんでかそのまま帰ったんだ。思い出すまで不思議だったんだけど、やっぱり覚えてたんだな。子供の頃に聞いた父さんと母さんからの言葉」


「父さん。覚えているよ、楽しみにしてるって言った時のあの笑顔」


「母さん。覚えているよ、張り切って献立を考えてたあの笑顔を」


「こんな形でのやくそくだけど。いいかな」


そう聞いても返ってこないのを知っているのに俺は聞き返してしまった。

「俺は、やっぱりこんな形でのやくそくなんて嫌だ。俺だって父さんと肩組んで思いっきり飲みたかった。母さんの料理はやっぱ美味しいなって食べたかった」


 言いたくない。恨みたくないから


 言いたくない。本当に二人が大好きだから


 そんな思いもよそに俺の口は止まらなかった。


「ごめん。そんな事が言いたかったんじゃないんだ」


 どうしたらいいのかわからないまま気まずい雰囲気が流れる


やくそく


「そうだ。やくそく。俺から二人に約束です。

毎年日付は、また決めるとして。毎年1回一緒に飲む。その時までに母さんの味を再現してみせます。母さんの味を俺が再現して、また父さんの好きな酒を飲もう。それが俺からの約束。来年を楽しみにしていてね」


そう言うと俺は、持ってきた酒瓶とコップ等を袋に詰めるとその場を後にしたのだった。


2016年成人された方おめでとうございます。

1月11日に投稿するタイトルならこれでしょうという事で「成人式」でお送りいたしました。

今回はしんみり系のつもりでしたので来週は少し明るめの作品に出来たらなと思います。

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