進軍-7
二時間が経過した。
機動戦闘車の攻機手榴弾は、全て人攻機に移した。アジリアのダガァに二発。デージーのシャスクに一発だ。これは最終的な誘引場所で、死体の山を築くのに使う。
部隊の再編成も済ませる。リリィとマリアはショック状態にあり、戦闘の継続は難しいと判断した。そこでシエラチームに編入させた。代わりに俺とサンがアルファに編入する。俺が運転手、サンが射撃手だ。
サンのシャスクは片腕も武器もない。そこで囮と遅延に使うことにする。まずチャーリーとシエラは指定した位置へと先行させる。
アルファは単独で群れに最接近し、煙幕で挑発する事で誘引を再開するのだ。その後待機させていたサンのシャスクと合流するのだ。サンのシャスクは自動操縦で動かし、途中で単独で北上させる。この時スモークディスチャージャー(車体並びに躯体に取り付けられた発煙筒発射機)を躯体に取りつけたまま作動させて、大量の異形生命体を引きつける。そして自爆させてとどめに攻機手榴弾の一斉射撃を行い、そこに足止めするのだ。異形生命体は死体になるか、死体に食いつくかのどちらかだ。腹の膨れた奴もいるだろうが、群れに帰る流れが出来るまでは、その場に留まるだろう。
俺は機動戦闘車の銃座から、注意深く群れを双眼鏡で覗き込んだ。群れの斥候の様なマシラが何匹か、アメリカドームポリスの方へと走っていった。それから十数分すると巨大な群れ全体が、もと来た道を引き返そうとゆっくりと活動を再開した。
申し訳ないが、もうしばらく鬼ごっこに付き合ってもらうぞ。銃座から降りると、荷台の中を覗き込んだ。そこではプロテアがいじけて、床に銃把をゴリゴリと擦り付けていた。かなり気が立っているのか、彼女は俺と目を合わせた瞬間鼻息を荒くし、苛立ち紛れに床を何度も殴りつけた。
荷台にはサンの姿もあった。彼女は床に布を広げて、その上でアサルトライフルの分解整備をしている。この状況下で彼女は意識を集中させ、黙々とアサルトライフルを組み上げていく。その瞳に怯えや動揺の色はなく、見る者を落ち着かせるほどしっかりしていた。模擬戦以降、一皮剥けたようだ。
「そろそろ動き出すぞ。各員、戦闘配置につけ」
俺はそう言って、運転席へと飛び込んだ。ダッシュボードの無線機を手に取り、隊全員に通信を入れる。
「先に提出したプランの内、Bを採用する。チャーリーとシエラは所定の場所へと先行せよ。指揮権はアジリアに一任する。アルファ戦闘準備、これより群れに突撃する」
各部隊のリーダーから返事がする。二時間も休みがあっただけ、各自それなりに気力を取り戻したようだ。そんな中後ろの荷台から、プロテアとサンの会話が聞こえて来た。
「サン……お前……怖くないのか……」
プロテアの声は、彼女らしからぬ震えたものだった。今まで見せていた気風のよさや、はっきりとした物言いは鳴りを潜めている。そして不安に引きずられたかのように、非常にたどたどしかった。
サンはそんな彼女に笑い返した。見ていない俺にも分かる。それは微笑ではなく、嘲笑だった。サンの性格からすると、怖気づくプロテアを笑っているのではない。
「何を今さら言ってるの? それに……他にどうしろと言うの? 戦うしかないんだよ」
いい意味で覚悟を決め、悪い意味で諦めているのだ。彼女は俺に怯えたままだった。
「だからってお前……これからあのクソッタレ共の中に突っ込むんだぞ!?」
プロテアは不安と恐怖を共有する事で、緊張を和らげようとしているようだ。だがサンはそんな彼女を、またもや嘲笑った。
「あのねぇ……そもそもプロテアがちゃんと指揮してれば、私たちこんな面倒なことにならずにすんだんだよ。ちゃんと作戦通り動いて、ちゃんと指示通りしてれば、危険なんてなかったのに。それをねぇ……あんなにされちゃ困るのよ……」
「あんな事って……ワリ食ってたのは俺たちだぞ! 俺たちは自分を守るために必死だったんだぞ!」
そこでサンはアサルトライフルの整備を終えたようだ。弾倉を差し込み、スライドさせる鋭い音がした。
「だったらあんまりナガセを怒らせないでくれるかな……そうすれば昔みたいに優しいままなんだから。そうすれば危ない事なんて……何もないんだから……帰って……また釣りが……できるんだから……」
しばらく沈黙があった。やがてプロテアが、気遣う様な声を出した。
「あいつがそんなに怖いか……お前模擬戦してから……変わったな……? やっぱ何かやらされたのか?」
「負け惜しみ? かっこ悪いから止めなよ」
途端、サンが厳しい声で言い返した。サンは厳しい訓練に耐え、必死で戦い、プロテアたちから勝利をもぎ取ったのだ。それを『やらされた』と言われるのは、侮辱以外の何物でもない。
だがプロテアは彼女たちの『盾』を自負し、そのために研鑽を積んできたのだ。盾が矛ではなく、守るべき者に倒された。あの模擬戦はプロテアを神経質にさせていた。
「喧嘩売ってんのかテメェッ!」
プロテアは叫ぶ。そして荷台から取っ組み合う物音がし、車体が軽く揺れ始めた。俺は急いで荷台の扉を開けた。そこではプロテアがサンに馬乗りになり、振り上げた拳を震わせていた。彼女の拳には血がついていた。そしてサンは鼻血を流し、無機質な眼でプロテアを見上げていた。
俺が荷台に上がると、プロテアはショックで青ざめた顔を向けて来た。そして鼻血を拭うサンと、血の付いた拳を交互に見やった。
「違う……ナガセ……俺は違う……こんな事がしたかったんじゃあ……俺……俺は……」
プロテアは、サンの上に泣き崩れた。サンは最初鬱陶しそうに身動ぎする。それから慰めるように、プロテアの背中に手を回して、ゆっくりと撫で始めた。すると彼女の咽びは、より激しいものになった。
どうしてこう問題を起こすか。プロテアもリタイアさせるか? だが彼女も降りると、機動戦闘車の火力は低下する。群れを上手くさばけるかどうかわからん。それに補充要因はシェルターのアイリスしかいない。パギを恐怖に負けた人間、気性の荒い運転手と一緒に出来ん。プロテアにはきついかも知れないが、補欠として同乗してもらいたい。
俺は二人に近寄ると、プロテアの肩を軽く叩いて、その顔をあげさせた。
「プロテア。しばらく横になっていろ」
荷台の壁に取り付けられた、簡易ベッドを展開する。そしてその上に横たえ、しっかりとベルトで固定した。プロテアはその間ずっと、顔を手で覆い体を震わせて、嗚咽をあげ続けていた。
俺はサンを手招きして運転席に戻る。サンは俺の後ろに続き、運転席後ろの銃座へと登った。アクセルを踏もうとしたが、気掛かりがあって躊躇った。俺は運転席の天板から顔を出すと、銃座に座るサンを見上げた。サンはリラックスしており、風を浴びて何処か心地よさそうだった。
「許せるか?」
サンが俺に気付く。「私が挑発したし、これはね」と、彼女は血の跡が残る鼻を擦った。それから「心の中で見下すのを止めればもっとね」と付け足した。
「お前は大丈夫か?」
「一回経験しているし、今も続いている。だから何が本当に怖いか分かっているから」
サンはそう言って、俺から逃れるように、銃座に乗る腰を少しずらした。今でも下手をすれば、俺に殺されると固く信じているのだ。それが彼女の最も恐れるところで、彼女の最も安堵するところだ。俺は確実に殺すだろうし、従えば相応の安全を保障してくれるという事だ。
「そうか」
俺は車内に戻り、ハンドルを握る。そしてアクセルを踏んだ。車輪が吠えて、砂塵を巻き上げる。俺は車体をUターンさせ異形生命体の方に向けると、無線機をとった。
「作戦再開だ。チャーリーとシエラは所定の位置まで先行せよ! 我々アルファが誘引の仕上げを行う!」
チャーリーとシエラから短い返事を受け取る。そしてサンのシャスクを残して、両チームは俺が決めたある位置へと走っていった。俺はそれを見送って、より強くアクセルを踏み抜いた。機動戦闘車は、徐々に引き返していく異形生命体の群れへと肉薄していった。
俺はサンの調子を確かめるため、声をかけた。
「戻れたら勲章モンだ。何が欲しい?」
「あ。人攻機の指のシャフトを一つ」
落ち着いているな。
「貴重なパーツだぞ? そんなもん何に使うんだ?」
「釣り竿にいいかなって、前から思ってたんだ。駄目? 駄目ならいいんだ」
「二本くれてやる。デージーの分もな。俺が言うまでちょっかいは出すな。いいな」
「わぁ。了解」
異形生命体の群れは、南西へと流れて行こうとする。その先頭を、こちらに食いつかせる。そうすれば後続もその流れに追随するはずだ。俺は大きく回り込むようにしながら、異形生命体の先頭と、正面ではちあう様に機動戦闘車を走らせた。
大きな赤い肉のうねりが目の前に広がり、それが少しずつ大きくなる。近づくにつれ赤のうねりがハッキリし、マシラやジンチク、ムカデなどの個体が視認できるようになった。それらが俺たちを認識しているかどうかは分からない。だが進行先である俺たちの方へ、ひたすら突っ込んで来る。もしタイミングを違えば、ひとたまりもないだろう。
ああ。久方ぶりの恐怖だ。俺の胆が熱くなり、腰が浮きそうになる。逃げ出したいのではない。飛びついてもみくちゃにされたい。そしてズタズタに引き裂かれながら、獣のように吠えたいのだ。俺が人だった最後の証明である、人としての肉体を捨てたいのだ。
異形生命体との相対距離、200メートルを切った。頃合いだ。俺はハンドルを北に切って、車体に取り付けられたスモークディスチャージャーを作動させた。
機動戦闘車は一瞬にして、発煙筒が吐く煙に飲み込まれた。キャリアは灰色の軌跡を残しながら、群れの縁をとる様に、北東へと走った。
異形生命体の先陣が、煙に反応する。そして進行方向を、徐々に煙の濃い方向へとずらしていき、後続もそれに倣った。やがて群れの流れがアメリカドームポリスへの南西から、反対方向への北東へと変わった。
誘引に成功。異形生命体の群れは、このちっぽけなキャリア目がけて猛進を再開した。一段階目の発煙筒が切れる。すぐさまパージして、新しい筒に火をつけた。
バックミラーには、暴力的な異形生命体の群れが映っている。それらは砂塵を煙の様に巻き上げ、地震のような轟音を立てつつ接近してくる。キャリアの方が足は速いが、その圧倒的な数は、離れていても俺の心を押し潰そうとした。
「気分はどうだ?」
俺はもう一度サンの調子を確かめた。
「そんな事言っている限りは大丈夫なんでしょ? あまり脅かさないで」
意外にも落ち着いた声が返ってくる。自画自賛するつもりじゃないが、戦に慣れ指揮を執る俺が、一緒にいるおかげだろう。恐らくアルファに俺が居たら、崩壊はしなかった可能性が高い。それでも俺は大多数を動かす立場上、指揮車を離れるわけにはいかなかった。
『俺』――か。早い所、俺以外の男を見つけたいところだ。
キャリアは残置したサンのシャスクまで戻って来た。俺はすかさずシャスクへ無線を飛ばす。すると無人のシャスクのヘッドランプが点灯し、北へ進路を向けて全力疾走を始めた。シャスクの人工筋は、運動性能の高い速筋が多く配置されている。群れに追いつかれるまで、多少の余裕があるだろう。機動戦闘車は煙を撒き散らしながら、シャスクと並走した。
異形生命体はシャスクと機動戦闘車を追撃してくる。俺はほくそ笑むと、そのまま群れを引き連れてしばらく逃げた。やがて異形生命体とシャスクの距離が詰まり、残すところ約100メートルまで迫る。俺はそこでシャスクのスモークディスチャージャーを作動させ、ハンドルを切って離脱した。このまま先行させた部隊と合流する。
シャスクは瞬く間に煙に飲み込まれる。それでもプログラムは、忠実に北への全力疾走を続けた。異形生命体は煙の尾を引くシャスクを、一心不乱に追っていった。
だが物好きな個体が十匹ほど、機動戦闘車に引っ付いてくる。マシラ七匹、ジンチク四匹。その後ろには第二波、第三波が控えている。
「出番だぞ」
「はい。了解」
サンが機関銃を構えたのか、運転席の背後で金属が擦れる音がした。そして――荷台から銃撃音がした。俺がサイドミラーに視線を注ぐと、荷台の銃座で機関銃が火を噴いている。そして率先してマシラの足を潰し、その機動力を削いでいた。
荷台にいる人間は一人しかいない。
「もういいのか!?」
機関掃射の轟音の中、喉が千切れんばかりに叫んだ。代わりにサンの大声が返って来た。
「も……もう俺に話しかけるなってさ」
サンとプロテアはマシラを殺さず、脚を潰すことでその動きを封じた。俺は彼女らが狙いを定めやすいように、キャリアを転がすことに集中する。そうして第二波、第三波をいなしていき、機動戦闘車は異形生命体の群れを振り切った。機動戦闘車は、先に行かせたチャーリーとシエラの待機する場所まで辿り着いた。
遥か遠方では囮のシャスクが異形生命体に追い立てられ、危うげにふら付いていた。俺は双眼鏡を覗き込む。丁度その時、一匹のマシラがシャスクに飛び掛かった。そのまま押し倒し、殴りつける。金属の破片が舞い上がり、日光を反射して雪の様にきらめく。シャスクに襲い掛かる異形生命体の数が増えていく。マシラが群れて四肢を引っ張り、ジンチクがそこかしこに噛み付いた。ムカデはその隙間を縫って、おぞましい事にシャスクの中に入り込もうとしていた。
俺は双眼鏡から目を離す。そしてシェルターに通信を送った。
「こちらナガセ。チャーリー3を自爆させろ」
異形生命体の群れの中で、小さな爆発が巻き起こった。それは群がっていたマシラを数匹吹き飛ばし、炎の柱を噴き上げる。だが如何せん、電子機器を焼却するためのものだ。威力が足りない。俺は背後に控える人攻機隊を振り返った。それから異形生命体の群れを、指し示した。
「やれェ!」
人攻機隊の腰のランチャーから、攻機手榴弾が発射された。それは異形生命体の群れの頭上、なかでもシャスクの残骸を漁る連中の手前まで飛んでいき炸裂した。そして眼下にいる異形生命体を、打ちのめした。
現場には半径50メートルほどの死体の山が築かれる。これが最後の死体の山だ。異形生命体は疲れを癒すため、そして死肉を漁るために、この場に留まる。
誘引できた異形生命体の数は、千は軽く超えるだろう。アメリカドームポリスにいた半数以上を、ここまで誘い出すことが出来たのだ。奴らがアメリカドームポリスに帰還するのは、速くても半日後くらいだろう。作戦の第一段階は無事に終了した。
「誘引完了! 作戦は次のフェイズへと移行する。各員ポイントCへと向かうぞ!」
俺は宣言すると、機動戦闘車を発進させた。そしてチャーリーとシエラに先行して、ポイントCを目指した。
「ふへぇ~……終わったぁ……」
サンが気の抜けた声を上げる。異形生命体に追いかけ回される緊張から解放されたのだ。多少は仕方あるまい。そして彼女たちは初陣にしては、よくやってくれた。今しばらく気を休めさせても問題はないだろう。
時計を覗き込むと、ブラボーチームとの合流時刻が迫っていた。誘引で何度か迂回を繰り返したため、予定よりも時間を食ったようだ。後は戻るだけだが、その単純作業の中にこそ油断が生まれる。俺は自分の両頬を張り、気を引き締める。そしてアクセルを踏み込んだ。
部隊は草原を越え、小高い丘を登り始める。ナビに寄ると、そこを越えれば海が見えるはずだ。道中で上手く調節したため、時間も予定の範囲内である。丘の向こうには広大な海と、そこに浮かぶドームポリスが見える事だろう。
俺の心は、安堵と不安の狭間でキリキリと痛んだ。そして鼻水の様に、鼻血が垂れていった。何時だってそうだった。ドームポリス輸送護衛の作戦の時も、人攻機開発者救出作戦の時も、あの裏切り者どもをブチ殺した時もそうだった。詰めを誤ると、全てが台無しになる。
丘を越えた先に、異形生命体がいるかも知れない。丘の地盤は緩んでいるかもしれない。ブラボーチームはまだ到着していないかもしれない。俺は落ち着いてそれらの対処法を反芻した。
俺が丘を睨んでいると、機動戦闘車の両脇を何かがすり抜けていった。指揮車とデージーのシャスクだ。この地獄が終わると知って、先を急いだか。
「馬鹿野郎! 勝手に行動するな!」
俺はすかさず叱咤する。だが彼女らには届かなかった。指揮車とシャスクは制止を振り切り、丘を乗り越えた。
デージーのシャスクが丘の頂きまで登る。すると足元で地滑りが起り、躯体がバランスを崩した。そして丘の上に尻餅を付き、その向こう側へとずり落ちていった。丘の上と言う場所は、傾斜が緩やかな崖と変わらない。地表は脆く欠落しやすいのだ。
指揮車は丘を乗り越えた後、すぐに引き返して来た。運転者は我の強いロータス。そして今の指揮車に、攻撃力はない。彼女は独断で逃げたという事だ。
つまりだ。
奴らがいる。
俺は機動戦闘車を矢のように走らせ、デージーのシャスクの後を追わせた。
アジリアのダガァは追いつかない。それどころか彼女は恐らく現状を把握できていない。銃座のサンとプロテアには期待できない。跳ね回る車体で、動き回る異形生命体を狙えるものか。俺は即断した。
「サン! 荷台に引っ込め! キャリアで体当たりを仕掛ける!」
「了解」
こういう時、恐怖政治は本当に有用だな。疑問を挟むことなく命令に従ってくれる。機動戦闘車は丘を越えて、海側へと飛び出した。
真っ先に目に入ったのは、仰向けに横たわるシャスクだ。搭乗者であるデージーはパニックに陥ったのか、復帰動作もせずに躯体の手足をばたつかせている。そしてそのシャスクへと、異形生命体の小さな集団が群がろうとしていた。確認できるだけでマシラが四匹、ジンチクが十数匹だ。
「デージー! 時間を作るから復帰しろ!」
俺は機動戦闘車を、シャスクと異形生命体との間に割り込ませる。その際ジンチクを数匹撥ねる事に成功した。一匹がバンパーに弾き飛ばされ、二匹が跳ね上がりフロントガラスに打ち付けられた。フロントガラスにべっとりと血反吐がへばり付いたので、ワイパーで拭う。すぐにワイパーのゴムは白煙を吹きあげて駄目になった。更にジンチクを二匹ほど轢き殺す。すぐにタイヤがパンクする音がして、車体が大きく傾いた。溶解液で溶けたのだ。
「絶対に外に出るな! 出てきた奴は撃ち殺してやる!」
俺は荷台に向かって絶叫すると、ロケットランチャーを一つ抱えて、運転席から飛び降りた。以前ドームポリスが襲われた時、奴らは俺の五月雨ではなく、彼女らを優先して狙った。ならば今回も生身の俺を優先するはずだ。駄目押しで発煙筒も焚いてやる!
「来い化け物! とことん付き合ってやる!」
俺はロケットランチャーを構えると、擱座したキャリアと機動戦闘車から離れるために走った。マシラは二匹がシャスクに飛び掛かろうとし、一匹がキャリアに、一匹が俺に狙いを変えた。俺はシャスクに襲い掛かるうちの一匹に、ロケットランチャーを発射した。無事命中し、マシラの数が一匹減る。後はデージーの反撃、そしてアジリアの応援に期待する他あるまい。
俺は――もう――。
ロケットランチャーの発射機を投げ捨て、俺に飛び掛かるマシラと向き直る。そいつは筋肉ののった上半身を跳躍させ、俺にのしかかろうとしていた。




