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Crawler's  作者: 水川湖海
二年目
55/241

進軍-3

 ドームポリスは陸地から百メートルの距離を保ちつつ北上する。そして出発から四十キロ地点で、我らがドームポリスとアメリカドームポリスを隔てていた森を通過した。そこから先は、だだっ広い草原が広がっている。森の出口付近には、俺が去年投棄した受発信器がある。そこがポイントAだ。揚陸場所であるポイントBは、ここからさらに五十キロ北にある。

 俺は今のうちに上陸に備え、各小隊の確認を行った。

 アルファチームはプロテアがリーダーだ。機動戦闘車を任せる。プロテアが射手を務め、リリィが運転をする。マリアは二人の補佐だ。その機動力を以って、異形生命体の掃討と攪乱を行う。運転席のすぐ後方の機関砲座には12.7ミリ機関銃。荷台の両側面には20ミリ機関銃座を設けてある。荷台には発煙弾と攻機手榴弾が満載してあるので、必要に応じて設置してもらう。

 ブラボーチームはサクラがリーダーだ。異形生命体の誘引の際、チャーリーと入れ替わり曳航を引き継ぐ。規律に厳しい彼女なら、ランデブーポイントと時間を守るだろう。操縦の難しいカッツバルゲルをサクラが駆り、パンジーとアカシアがカットラスを操る。彼女らは上陸並びに回収の際、火力支援を担う。

 チャーリーチームはアジリアがリーダーだ。人攻機で構成され、その内容はダガァ一躯と、シャスク二躯である。理由はその躯種の走行速度が速く、キャリアとの連携が取りやすいからだ。ダガァはアジリアが駆り、シャスクはサンとデージーに任せた。装備はMA22と攻機手榴弾、スポッティングライフル、そして発煙弾である。彼女らは陸上での火力支援を行い、進路及び退路の確保を行う。

 最後にシエラだが、リーダーはアイリスである。だが俺もここに属するため、実質的に指揮を執るのは俺だ。運転はロータス、パギがオペレーター、そしてアイリスは情報処理の補佐を任せた。俺は必要に応じて動く。機動戦闘車の後ろに詰め、指揮を執りつつプロテアが捌けなかった異形生命体の対処をする。

 彼女らは全員、ライフスキン姿である。その上からタクティカルベストを着せ、手製の脛当てとヘッドギアを装備させた。動きやすさを重視し防弾シートをすべて外したので、装備品をベルトで繋ぎ止めるような外観になる。そして防水シートをマントのように纏わせて、ジンチクの消化液対策とした。

 シエラチーム以外には、アサルトライフルと弾薬、そして手榴弾を装備させる。そして全員に拳銃(もちろんロータスを除く)とエイドキット、水筒を装備させた。ちなみに水筒だが、シート状の袋を背負うタイプだ。袋から伸ばしたストローを口に含む事で、常時水分補給が可能なものだ。

 各人員の点呼を取りつつ、念のためもう一度装備を確認する。それが済むとブラボーチームにドームポリスの曳航を命じ、チャーリーチームを呼び戻して人攻機に搭乗させた。

 ポイントBが近づく。そろそろ揚陸の準備をしよう。

 サクラにロケットの駆動を止めさせ、作戦参加機を倉庫入口に並べた。先陣を切るのは二両のキャリアで、浮き輪のようにフロートが展開してある。その後方には三躯の人攻機に、降着姿勢――尻をつける正座を――とらせた。人攻機にはキャリア用のフロートが、腰部の接続端子に無理やり装着してあり、さながら浮き輪にハマった人間だった。人攻機はワイヤでキャリアと連結してある。彼女らはロケットを使わせるには未熟なので、陸地まではキャリアで牽引する。

 全員を持ち場につかせ、揚陸準備を完了する。俺はカッツバルゲルに推進剤を充填し、再び北上させた。

 そして作戦開始から約三時間後――0613時、ドームポリスはポイントBに到達した。海の彼方からは太陽が昇り、まるで加護を付与するかのように、世界を照らし始めていた。

 ポイントB周辺に、異形生命体の姿は見当たらない。揚陸するには絶好のチャンスだ。俺は指揮車の銃座に腰を下ろした。

「サクラ! ロケット停止! パンジー! アカシア! 面舵(右折)一杯!」

 俺はデバイスで通信を送る。するとドームポリスが海側へ急旋回し、振り子の要領でドームポリスを浜辺へと近づけた。

「アイアンワンド。シャッター開放準備」

『サー。イエッサー』

 俺の号令を受けて、倉庫とは反対側の隔壁に海水が注入されていく。そして海中に半ば沈んでいた倉庫シャッターを、完全に水上へと引き上げる。ドームポリス全体が三十度ほど傾き、倉庫内に木っ端が転がる音が響いた。キャリアと人攻機を固定するワイヤがピンと張り、その接続箇所がぎぃと金属の悲鳴を上げる。

『サー。最低喫水線の確保を確認。シャッター開放の準備が整いました』

「シャッターを開けろ!」

 俺の目の前で、重い鉄扉が上下に開いていく。倉庫の薄暗がりに、大地の反射する陽光が差し込む。俺は僅かな眩しさに、眼を細くした。やがて目が慣れて来ると、波立つ砂浜とそこから延々と続く草原が、視界に入って来た。

 シャッターが開き切ると、下に降りたシャッターはスロープのように海面へと伸びた。

「出撃!」

『了解!』『へ~、へ~』

 キャリア運転手である、リリィとロータスから返事がする。即座にキャリアのタイヤが咆哮を上げ、倉庫の床を削った。そして人攻機を牽引しつつ、海へと飛び込んでいった。

『御気をつけて! 三時間後にポイントCで会いましょう!』『死ぬ。なよ!』『あの……その……こっちは任せてね!』

 ブラボーチームの激励が、激しい着水の飛沫にかき消された。キャリアは波を割って、のろのろと浜辺へと進んでいく。人攻機は危うげに波に揺られながら、その後ろに引きずられた。依然人攻機のフロートは、倉庫内部とワイヤで繋がったままで、最低限のバランスを保ってくれた。

 しばらく進むと、キャリアのタイヤが砂浜につく。最初は水中で砂を巻き上げるだけだったが、キャリアの重量が砂を抑えつけるようになると、その速度はぐっと増した。そしてキャリアは砂浜に上がり、人攻機も地に足をつけて自力で上陸した。

 俺は陸地に上がってから、牽引のワイヤをキャリア搭乗員に外させた。それから各員に状況を確認させた。返事は異常ナシ。揚陸に当たって損害は出なかったようだ。予定通りに作戦を継続する。

「アルファ。シエラはフロートをキャリア内に収納。チャーリーチームはフロートをパージせよ!」

 キャリアの周囲に展開されたフロートが、巻き取るようにして空気を吐き出しつつ、車体に収納されていく。

 一方人攻機は、腰部からフロートを一斉に切り放した。地面に落ちたフロートは、ドームポリスに接続したワイヤが巻き上げられる事で、倉庫へと収納された。

 ブラボーチームは俺たちの揚陸が完了すると、海側に舵を切ったまま前進し、ドームポリスを曳航してポイントBを離れていく。

 俺も銃座からシェルターに移る。中ではパギがヘッドセットを装備して、通信機の前に腰かけている。その隣でアイリスが、補佐するように控えていた。俺は中央の椅子に腰かけると、上陸組に命を下した。

「縦列を組んで前進! このままアメリカドームポリスを目指すぞ!」

 俺たちは進軍を開始した。機動戦闘車が先陣を切り、中央を指揮車両が位置取る。そして後方から人攻機が矢尻の陣形アローヘッドを組んで続いた。俺たちは去年残した受発信機の誘導を受けて、行軍した。

 出だしは上々である。だが問題は、接敵してからだ。

 海岸から西に十キロ地点。アジリアから通信が入った。

『七時(十二時が北である)の方向にジンチクの群れを確認! こちらに接近してくる!』

 俺はシェルターのディスプレイを確認する。するとアローヘッドの左翼を務める、デージーのシャスクが、飛び跳ねるジンチクの群れを補足しているらしい。ディスプレイには北を真上にして、右の海岸から真左のアメリカドームへと進む俺たちが映っている。その下方向に、敵を表す黄色い光点が出現した。その総数は三十余り。対処するには手間がかかり、無視するには規模が大きい。おまけにアイアンワンドは、この群れが俺たちを追撃する事を予想している。

 作戦指揮システムの調子は上々である。だがそれを喜んでいる暇はない。こいつらを引き連れ行軍を続けるのは危険だ。

「パギ。アルファに左翼に移り、行軍しつつ迎撃に当たらせろ。チャーリーの陣形変更。鉤型(厂の形)にしろ」

 パギは小生意気に鼻を鳴らすと、良く通る声で通信を入れた。ディスプレイではアルファとチャーリーが指示通りに機動し、陣形を変容する。そして分厚いシェルターを抜けて、銃声が聞こえて来た。

 ディスプレイで黄色の光点が激減していく――と、そこで三角形の黄色光点が、三つ出現した。マシラだ。人攻機部隊のチャーリーを鉤型陣形にして正解だったな。アローヘッドでは一躯しか相手に出来ないが、これなら二躯で対処できる。即座に戦歩ライフルの銃声が響き、三角光点は失速して、その場に静止した。二つの光はじきに途絶えたが、一つが残って不気味な輝きを保ち続けた。この様子だとこの一匹は動けないだけで、まだ生きてやがるな。

 異形生命体の生体反応は、電磁波で脈拍や呼吸の乱れを取得する事で確認している。御存じの通り奴らは、ゴキブリと同じくらいしぶとい。殺したと思っても行動不能に陥っただけの時が多いのだ。守勢の時は念入りに止めをさせるが、攻勢の際はその余裕は取れない。

 センサーの情報からアイアンワンドが確認できるのは、どの異形生命体が何匹『生きて』いるかだけだ。このようなイレギュラーは処理できない。『健全な敵』として数えてしまう。新たに表出した問題に、俺は軽く唸った。

「あのさ。私いる? お前が直接連絡やればいいじゃん」

 そんな俺を尻目に、パギが嫌味ったらしく言った。俺に顎で使われるのが、心底嫌なのだろう。俺は軽く溜息をつきつつ、少しずつ俺たちから離れていく黄色の光点を見つめた。

「俺も戦線に出るし、これからもっと忙しくなる……そうしたら俺も全ての情報を把握できない。だからお前とアイリスに、必要と思われる情報を厳選してもらうんだ。余裕のあるうちに要領を踏まえて置け――アルファに警告。深追いせずシエラに追随せよ」

 パギは俺に聞こえるように、わざと大きな舌打ちをした。そして殲滅のため現場に留まろうとする機動戦闘車に、持ち場に戻るよう警告を入れた。

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