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Crawler's  作者: 水川湖海
一年目
12/237

萌芽‐3

 俺は中央コントロールルームで、モニタに映し出された情報を確認していた。

 俺と異形生命体の戦闘記録だ。ちなみに上半身が異様に発達した猿を「マシラ」と名付けた。ムカデはそのまま「ムカデ」。肉袋は「ジンチク」だ。つくづく俺が女たちに名前をつけなくてよかったと思っている。

 やる気を出した女たちにより、物資の確認が三日で終了した。ドームポリスの復旧もほぼ完了し、夜を照らす電気も確保できた。食料も量の多い山菜が可食性テストをパスし、釣りに楽しみを見出したデージーとサンのおかげで、数週間の備蓄が貯まった。

 俺がここにきてから約一月。時間と体力に余裕の出てきた俺は、異形生命体の調査に乗り出した。そしてマシラが活動停止状態に陥った状況を比較していると、嫌な事実が判明した。

「こいつら……内臓の位置が個体ごとに違う」

 ある個体は頭部を失うと絶命し、ある個体は胸部を爆破すると絶命した。俺が胸部を爆破し、内臓が露出したマシラの画像を比較してみると、その分布はまるで違っていた。何てデタラメな生き物だ。サーモグラフを参照して見ても、温度分布の偏りの差が目で分かるほど異なる。つまり誤差程度の問題ではないという事だ。子供が散らかした人体模型のように、内臓が滅茶苦茶に配置されている。

「脳と心臓を潰せば死ぬが、これじゃどこを狙いえばいいのか分からん。それに……脳と心臓を二つ持つ個体もいる。殺すには肉片にする必要があるな」

 次はムカデだ。こいつは人攻機に搭乗している限り、それほど脅威ではない。内臓の配置も安定しているし、今のところ驚異的な能力も見当たらない。

 問題があるとすればジンチクだ。

「成分分析をしていないから分からないが、炭素に対して特効的な溶解液を有している。鉄は溶けないが、人攻機の装甲と骨格は炭素製だからな。こいつとマシラの群れは最悪の組み合わせだ」

 ジンチクの内臓配置もデタラメだが、ジンチクは袋状の体内に予備の臓器や手足を蓄えている分、マシラ以上のしぶとさを持っていた。手足を吹き飛ばすと身体の一部を裏返し、そこから予備の手足を出して這い寄って来るのだ。

 戦闘経験豊富な俺ですら、あまり相手にしたくない連中だ。

 だがこいつらの闊歩する大地を行進し、どこかにいる人類を探し出して、女たちを送り届けなければならない。しかし俺一人での探索は難しい。携行可能な弾薬は限られているし、行動半径もそう長くはない。キャリアと共に行動したほうがいいが、俺一人で運用できる代物ではない。それに俺がいない間、ドームポリスは無防備だ。

俺は女たちをこいつらと渡り合えるように訓練しなければならない。

 かといって、女たちに銃を持たせるのは気が引ける。俺は性差別的な話をしているのではない。倫理の話をしている。無垢な彼女たちが銃を手に持ち、その恐るべき力の本質に気付かぬまま、無邪気に殺戮を行うのが怖いのだ。

 鶏肉の確保に俺が消極的な理由がそれだ。まるでゲームのように鳥を撃ち殺されては困る。

 手本となるような人格者がいればいいが、アジリアを規範にすれば強さに誇りを抱くアマゾネスが出来上がる。サクラを規範にすれば命令通りに殺戮を行う殺人マシンが出来上がる。

 俺は口を手で覆い、何か妙案がないか考え込んだ。

「ナガセ~。ご飯だよ~。ひぇッ!? いったいなにみてるの?」

 ピオニーがお玉片手にコントロール室に入ってきた。彼女は物資の中にあり、俺が全員に支給した白のTシャツとズボンを着ている。主に炊事を任されている彼女は、その上に割烹着をまとっていた。ピオニーはモニタに映し出された化け物の死体を見て、表情を嫌悪に歪ませる。俺はいくらか幼稚さが抜けた彼女に聞いた。

「ピオニー。これを気持ち悪いと思うか?」

 ピオニーは首を激しく縦に振って、頷いて見せた。そして口元を押さえながら部屋から出ていく。

 適正という問題もある。

 俺は妙案が浮かばず、頭を掻きながらコントロール室を出ようとした。俺はそこで一度、室内を振り返った。

「そう言えば……アイアンワンド。お前にDNA検査はできるか?」

『サー。外部端末に目的達成可能な端末を確認できず。申し訳ございません。なにか照合したいDNAでも?』

 異形生命体と人間のDNAを比較しようと思ったのだが、ここでは無理か。俺はキッチンへと足を向けた。

「いい。見当はついている」

 異形生命体。環境再編後のこの世界を我が物顔で闊歩する、尋常ならざる生命。彼らが新たな命として自然発生したなんて俺は思っていない。我々以外で、強靭な生命力を持つ人間に似た外観の生命体が、この世に存在する理由は一つしかない。

「領土亡き国家か……どうやったのか知らんが、環境再生まで生き残ったか」

 マシラやムカデ、ジンチクに知性は見られない。しかしいずれ知性を持つ個体と遭遇するかもしれない。そうなると奴らにもコミュニティがあり、独自の生活基盤の元、社会を築き、繁栄していることとなる。

 俺の脳裏には、恐ろしい想像が渦巻いた。奴らが未だ見ぬ知性体の先導の元、隊列を成してドームポリスを強襲する想像だ。緊張は生唾を飲ませ、恐怖で全身に鳥肌が立つ。もし奴らの営巣を発見したならば、即座に滅殺しなければなるまい。

 いずれにしろ、内陸に足を延ばさない限りは分からない事だが。

 俺は女たちとの食事を終えると、後片付けを任せてアジリアを探した。彼女はいつも食堂以外――というより俺のいない所で飯を食っていた。

 彼女は倉庫にいた。駐機場のコンソールの前に立ち、アイアンワンドに質問をしながら、端末を操作している。足元には食いかけの昼食があることから、作業をしながら飯を食っていたのだろう。

アジリアは倉庫に入ってきた俺を一瞥した。青あざの浮いた頬に、切れた唇がハッキリと見える。喧嘩の跡だ。彼女は特に気まずそうにするわけでもなく、自らの作業を続けた。

 俺は肩越しに彼女が何をしているのか覗き込む。そこで彼女はコンソールを布で覆い隠し、腰に手を当てながら俺を振り返った。

「何のようだ?」

「銃の撃ち方を教える。ついて来い」

 アジリアが驚きに瞠目した。そして皮肉気な笑みを浮かべる。

「おどろいたな。銃にかんして、私はのけ者にされると思っていたぞ」

「お前は他の女と違い、闇雲に撃ったり、勝手に教えたりしないだろうからな」

 ここしばらくアジリアにアイアンワンドを任せて、彼女が力をどのように使うか観察していた。彼女は鎮圧用の端末を乱用することはなかった。そして二度ほどアジリアはサクラと取っ組み合いの喧嘩をしているが、それに鎮圧用端末を使う事も無かった。二度目の喧嘩で馬乗りにされて、俺が止めるまで一方的に殴られていたのにも関わらずだ。

 俺は彼女の無抵抗が、力に対する責任からくるものとは考えていない。相手と同じ条件で戦うという純粋なプライド。もしくは俺を信頼させるための、打算的な無抵抗と考える方が自然である。しかしどんな理由であれ、自制できるという事だ。

 これがサクラだったら、ちょっとでも俺に刃向かうものを全て、鎮圧したり拳銃を向けたりするだろう。サクラがアジリアと喧嘩した原因は、アジリアが俺の言うことを聞かない事にあった。それ以外に私怨の様な感情も見られるが、それはアジリアを贔屓していると思われているからだろう。実際、能力に応じて贔屓しているし、あながち間違いではない。それだけに……厄介だ。

 俺は武器類が納められたコンテナから、機関銃を一丁と弾薬ケースを一箱持ってきた。自分は機関銃を担ぐと、弾薬ケースをアジリアの前に置いて、大陸側の見張り台に向かった。

 足音がついてこないので、俺は振り返る。アジリアは目の前に置かれた弾薬ケースを、無表情で見下ろしていた。

「それぐらい持て」

 俺が言うと、彼女は口をへの字に曲げて、弾薬ケースを両手で抱え上げた。よろめきながらも、彼女は弾丸でいっぱいの鉄箱を抱え上げる。そしてよたよたと俺の後ろに続いた。

 俺が倉庫を出ると、そこにはサクラが立ちはだかっていた。彼女の唇は切れて、頬には引っ掻き傷が、赤い線として残っていた。

サクラは両手を広げて通せんぼの姿勢を取ると、涙目になりながら怒り出した。

「ナガセ! わたしにも銃の撃ち方教えてよ! なんでアジリアだけに教えるの!」

 俺は困って息を吐く。そして倉庫のコンテナの一つに視線をやった。その中にはキャリアが二両格納されている。

「お前には後でキャリアの運転を教える」

 サクラは首を振って嫌がった。

「わたしも銃がいい! ナガセを助けたいもん! いっしょに戦いたいもん! いうことを聞かないアジリアなんかよりわたしの方がやくにたつよ!」

 そう言って彼女は、俺の後ろにいるアジリアを睨み付ける。一方アジリアの方はサクラのことを歯牙にもかけず、面倒くさそうに鉄箱を顎で押さえながら、俺に早く何とかするよう視線で訴えてきた。

 サクラはアジリアに無視されて癇に障ったらしい。アジリアを指さして、悲鳴のような声を上げた。

「そもそも何で! なんでナガセはアジリアばっかり! アジリアばっかりひいきするの!? 私がいちばん最初にナガセに会って、ナガセをここに連れて来て、いちばん。いちばんいうこともきくのに!」

 ついにサクラの眼から涙がこぼれた。そして両手をきつく握り、切れた唇を噛みしめると、そのまま嗚咽を上げ始める。

 これでは叱ることもできない。

 俺は機関銃を壁に立てかけると、そっとサクラの頭を撫でた。するとサクラはいつものように俺に抱き付いてきた。そのまま胸元に顔をうずめ、そのまま泣き続ける。

 子供ならいいが、身体はもう大人だ。あまり好ましくない状況だし、関係でもある。それでも今は、幼児を相手にするように言い聞かせるしかない。

「サクラ。キャリアは何か知ってるよな?」

 俺が耳元で囁くと、彼女は胸に顔をうずめたままうなずいた。

「前にナガセが見せてくれた。ジンコウキや銃や弾を運ぶ乗り物でしょ。そんなんじゃ戦えないよ。わたしもジンコウキ乗りたいし、銃を撃てるようになりたい。ナガセ。教えてくれるっていった。いったのに。約束していないアジリアをなんで」

「銃を撃つだけが戦いじゃない。俺や銃や弾を運び、後ろから支えてくれる人が必要なんだ。そうしないといつまでもここを動くことが出来ない。銃を撃つのは誰にでもできる。とても簡単なことだ。だけど俺を運んで、戻ってくるまで待ってくれる人間なんてそうはいない。きっとみんな俺を置いて逃げてしまう。サクラは俺が狩りに出ると、いつも、いつも待っていてくれるよな」

「うん。ナガセが心配! 心配だから! わた、わたしも戦うの!」

 サクラが俺に抱き付く力を強めた。

「俺もその気持ちが嬉しい。そしてその気持ちを信じてるんだ。俺を思ってくれるのはお前しかいない。これはお前にしかできない仕事なんだ」

「ナガセぇ……」

 サクラが熱に浮いた声を出す。心なしか彼女の体が熱くなっている様な気がする。俺は彼女が不安にならない程度の速さで、慌てて体を離させた。

 サクラは惚けた眼で俺のことを見つめて来る。やがて涙と鼻水を袖で拭うと、深々と頭を下げた。

「わがまま言ってごめんなさい。いい子にする」

 サクラはそういうと、キッチンへと続く廊下を引き返していった。

 これでカタがついたな。後は少しずつ言葉の意味を変えていって、こんな茶番を忘れさせればいい。俺よりいい男なんざユートピアにはたくさんいる。むしろサクラに見合う男がいるかの方が心配だ。

「おまえ。サイテーだな。ろくな死に方しないぞ」

 サクラの姿が見えなくなってから、アジリアがジト目で俺のことを睨み上げた。

「そうだ。俺は地獄に予約席がある。先に地獄に送ったお友達のサプライズ付きでな。お前も精々気を付けることだ」

「うぬぼれるなバカ。私はお前が嫌いだ。ころしたいほど嫌いだ」

「自惚れるな馬鹿。俺以外の男達だ。いずれお前も結婚するんだからな」

「ケッコンって……お前みたいな化け物と一緒になる事か? お前みたいな化け物。他にもたくさんいるのか? お前……ケッコンさせるのが目的で、ここに来たのか?」

 アジリアが気色悪そうに俺から少し距離を取った。俺は苦笑すると機関銃を担ぎ直し、見張り台への階段に足をかけた。

「俺は化け物だが、男は化け物じゃあない。きっとお前が心安らげる男がいずれ現れる。その時にお前も分かるさ」

 アジリアはジト目をより細めにして、胡散臭そうな顔をする。だがこれ以上の会話は不毛だと思ったのか、何も言わずについてきた。

 俺は見張り台に出ると、中央の窓枠に設置された、リングマウントに機関銃を置いた。リングマウントとは、文字通り円形をした銃の支えだ。円形のポール上を滑るように、機関銃を設置するため取り回しがよくなる。それにリングマウントは見張り台の窓枠上を自由に動かすことが出来るので、狙いもつけやすい。

 俺は一度機関銃を設置してから、取り外してアジリアに渡した。アジリアは軽く鼻を鳴らすと、俺の手順を真似てリングマウントに機関銃を取り付けようとする。途中何度か手順の見落としがあったのを補完しながら着脱を何度か繰り返した。やがて六回目で、アジリアは独力で機関銃の着脱が出来るようになった。彼女は重い機関銃を何度も持ち降ろししたため、汗だくになっていた。

 俺は彼女を休ませる合間に、簡単な説明を始める。

「機関銃だ。口径は12.7ミリ。これなら五百メートル離れたマシラも蜂の巣にできる」

「コウケイって何だ?」

「弾の大きさだ。銃には専用の弾があり、それ以外は撃てない。無理に撃とうとすると暴発する。だからよく覚えろ」

 そう言って俺は弾薬ケースを蹴った。アジリアは弾薬ケースに視線を落とす。俺はそれに合わせて、ケースから弾薬を取り出す。プラスチックのベルトで連結された12.7ミリ弾が、数珠繋ぎになって出てくる。俺はそれに刻印されている文字や、大きさについて事細かに教えた後、機関銃に装填した。すぐに弾を外し、アジリアにやらせてみる。

 アジリアは先程よりも早く、機関銃にベルトを装填することが出来た。

 俺はアジリアに、後ろから覆い被さるように身体を密着させると、彼女にしっかり銃を持たせた。右手でグリップを握らせ、左手で機関銃が暴れないように抑えさせる。最後に機関銃のグリップの上にあるスイッチを、俺の指が上に押し上げた。

「これが安全装置だ。撃つ前に確認しろ。そして必ず撃ち終った後には、ここのスイッチを入れろ。何でかは分かるな」

「わたしに殺されたくないからだろ」

 アジリアが減らず口を叩く。俺は鼻で笑うと、弾薬ケースから出る給弾ベルトを支えて、引き金を絞らせた。

 機関銃が吠え猛った。高速で弾を吐きだし、空薬莢が見張り台の床に飛び散る。アジリアは目を白黒させながら、暴れ狂う機関銃に振り回されるよう引き金を引き続ける。やがてベルトが途絶え、機関銃は空撃ちの音と共に暴れるのをやめた。俺が区切りを入れた、丁度三十発だ。

 荒い息を付きながら、信じられないように機関銃を見つめるアジリアの頬を軽く叩き、俺に注意を向けさせる。

「銃に振り回されないよう、しっかりと自分で制御するんだ。お前にはその筋力はある。それと最後の弾が白い尾を引いただろう? あれが曳光弾で、何発撃ったかの目安になる。気を配り残弾数に注意しろ」

 アジリアはこくりと頷く。その時彼女の顎の先から汗が垂れた。

 そのまま、アジリアに機関銃の使い方を教え込む。撃つうちに弾が詰まった。まず俺が銃をばらして見せて、アジリアにやらせてみる。それが済むと狙いの定め方や、冷却についても教えた。

そうしているうちに、銃声を聞きつけて二匹のマシラが草原に躍り出た。俺はアジリアを置いて、人攻機へと飛び乗り迎撃に出た。

マシラが二匹程度ならそう問題ではない。俺は草原を横切り、真っ直ぐドームポリスへと向かって来るマシラに八八式を向けた。

と――見張り台から銃声が聞こえた。一匹のマシラの目の前の土が抉れ、そのまま軌道を修正し、マシラの全身に黒点を穿った。マシラはもんどりうって倒れ、そのまま動かなくなった。

俺は八八式を下ろして、見張り台を見上げる。金色の髪が風に靡いている。今まさにアジリアが、機関銃に次の給弾ベルトを装填しているところだった。アジリアは一呼吸を置き、集中力を高めつつ、残ったマシラに狙いを定める。そして、無駄に土を巻き上げることなく、マシラを蜂の巣にした。だがこのマシラは倒れず、真っ直ぐドームポリスに突っ込んでくる。さっきのは上手く急所を潰せたようだが、今回はそうもいかなかったようだ。

アジリアは焦ったようだ。不意に狙いが乱れ、集弾率が悪くなる。そして弾が切れると、慌ただしく次弾装填を始めるが、いつまでたっても銃撃は再開されない。

 俺はゆっくりと八八式を持ち上げると、想像されるマシラの弱点に狙いを定め、引き金を絞った。

 俺が死体の始末を終えて見張り台に戻ると、アジリアが機関銃に縋り付くようにして項垂れていた。彼女の周りには空薬莢が散乱し、手元にはついに装填することのできなかったベルトが握られていた。

 俺は彼女を見て息を飲んだ。あのアジリアが目に涙を浮かべていたのだ。

 きっと。初めての命のやり取りに、心から恐怖したのだろう。

 俺がアジリアの肩に触れると、彼女は驚きに肩を跳ねさせ、俺の手を振り払った。そして俺の心配そうな顔を見ると、ばつが悪そうに口元を歪めた。

「上出来だ。次にマシラが来たらお前も迎撃に出ろ。それと銃身が冷えたら機関銃の整備をする。今のうちに体を休めておけ」

 アジリアは這うようにして見張り台の壁に寄り掛かる。そして震える指で肌に張り付いた髪を払いながら聞いてきた。

「ジンコウキは?」

 機関銃ではあの恐怖には勝てないか。俺は嘆息をつき、アジリアの隣に腰かけた。

「最初にハッキリ言っておく。人攻機の乗り方を教えるのはお前が一番最後だ。あれは勝手に乗り回されては困るし。正直に言う。あれに乗られると俺にも手が余る」

「そうか……そうか……」

 アジリアは俯き、それっきり何も言わなくなった。

 きっと女たちの中で、最初に人攻機を乗りこなすのはアジリアだろう。俺は見張り台から空を眺めながら思った。倉庫のコンソールで人攻機のマニュアルを読みながら、セットアップをしていた彼女のことだ。きっと俺の見ていない所で、巨人にその一歩を歩ませるだろう。

 俺はそれを歓迎する。

だがしかし。彼女が人攻機にかける期待が、過度なものでなければの話だ。

所詮――道具は道具に過ぎないのだ。

 力とは与えられるものではなく、自ら培うものなのだ。

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