登場躯体紹介
人攻機の基礎
人攻機は、骨格、人工筋肉、そして装甲の3つの要因によって構成されています。
骨格は躯体の基礎で、人間でいえば骨に当たります。人攻機の基礎となり、この骨格で躯体の方向性が決定づけられると言えます。そのため人攻機骨格は、躯体ごとに人型と似通っていても、所々に大きな違いがあるのです。
人工筋肉は、大きく遅筋と速筋の二つに大別され、これを組み合わせて構成されています。
遅筋は動きが鈍いですが、力があります。人攻機に重い物を運ばせたり、支えさせたりするのに必要です。
速筋は動きが速いですが、とても非力です。人攻機を走らせたり、飛び跳ねさせたりするのに必要です。
人工筋肉の遅筋と速筋の配分を、遅速配分と言いますが、これによってその人攻機の性質が決まります。
遅筋が多ければたくさんの装備を持てますし、重い武器も安定して運用できます。しかし酷く緩慢な動きしかできませんし、格闘能力は皆無です。
速筋が多ければ素早く動くことが出来ますし、曲芸の様な機動を行うことが出来ます。しかし装備する重量物に振り回されたり、瓦礫に埋もれても自力で復帰できません。
現在主流の人工筋肉は、CNTM(カーボンナノチューブ筋肉)です。これは通電により筋肉のように伸縮する仕組みです。また筋肉が断線すると、電圧も乱れるので、どの箇所がどの程度損傷しているか分かると言う、利点もあります。
人工筋肉は躯体ごとにパッケージ化され、生産されています。
装甲は人間でいう衣服に当たる部分です。これは厳密にいえば付与装備であり、構成要素ではありません。装甲無しでも人攻機は駆動できます。
しかし装甲は人攻機には欠かせない、センサーを搭載するために必要なものです。音響センサ、各部カメラ、そして外部マイクなどは、全て装甲に取り付けられています。また装甲本来の人攻機の防御力を、向上させる役割もあります。ちなみに汚染世界では、汚染された外気から躯体を守るために、装甲の存在は不可欠でした。
装甲は主にナノカーボンファイバーで(カーボンナノチューブを膜状にして幾重にも重ねた素材)出来ており、アルミニウムより軽く、鉄よりも固いです。そしてこれの優れたる事は、筋肉と同じように通電させて、電圧でその状態を確認出来る事です。これによって躯体のコンディションを管理することが出来ます。さらにナノカーボンファイバーに、別の素材を挟むことで、多様な能力を付与する事が可能です。標準として通電帯磁素材と、アラミド繊維が装甲には挟まれています。
ミクロネシア連合
ミクロネシア連合は主に日本の開発した躯体を使用している。
日本は自国の工場で、純正品を生産して運用している。参加国が運用しているのは、そのモンキーモデルである。
なお日本がモンキーモデルを配布する背景には、自国の技術防衛の他に技術的な問題がある。連合諸国の工場に、純正品を製造できるほどの技術が無い事。そしてノックダウン輸出が出来るほど、生産に余裕が無い事である。そこであえてダウングレードを施している。
躯体の総合的特徴としては、フレームに遊び(無駄なスペースの事)がわざと用意されており、規格外の部品をも受け入れ可能な柔軟性にある。そもそもミクロネシア連合の生産品は、同じ製品でも各国の工場ごとに特徴が付与されてしまう問題があった。これは劣悪な環境上致し方ない事である。そこで多少の差異をフレームで受け入れてしまおうという設計思想が生まれた。それが結果的に『どのような部品をも受け入れ、無理やりにでも動かせる躯体』を生み出した。
大戦末期には人工筋の代わりにギヤを用いたり、カットラスパーツを流用した五月雨などが存在した。
この柔軟性の特徴が、のちに開発される全装対応躯体――同田貫の下敷きとなっている。
*()内はモンキーモデル名。
Y-01 同田貫
全高5メートル
ユートピア計画の一つ。環境再生後の世界での活動を、想定して造られた躯体である。環境再生後は工業力と生産力が著しく低下することが予想されたため、人攻機を労働用に使用する計画が進められていた。そのため手っ取り早く備蓄のある現行機のパーツと、互換性の高い躯体の開発が進められた。
環境再生後に合わせ、タイトコクピット(密閉式コクピット。環境再生後は空気は安全な為不要である)は廃止し、労働に不可欠な目視の為、首の付け根から外界を覗けるようにした。そして様々な装備を受け入れるムーバブルフレーム(駆動式骨格)を採用。これにより躯体強度と運動能力を犠牲にしつつも、ほぼ全てのパーツ装備が可能になった。何より素晴らしいのが、それらの装備品を運用可能な、優秀でフレキシブルなMMIであった。
外観は人形の骨組みに、枠だけのドレスを着せたようなものである。この骨組みが不変動の基礎骨格で、枠のドレスがムーバブルフレームである。
ちなみに同田貫にカットラスの人工筋をつけ、五月雨の装甲を着けて運用することは不可能である。人工筋と装甲の齟齬を、骨格で吸収しきれないからである。
全装対応技術実証機 ク-699 叢雲
全高6メートル
同田貫のプロトタイプである。正式名称は叢雲四型。実験機である三型から、量産を意識してブラッシュアップしたものである。
その名の通り人攻機の全装を装着することを想定しており、叢雲も同田貫のように全ての人攻機に換装可能である。そして汚染世界での活動の為、開放可能な複合タイトコクピットを装備している。
叢雲では同田貫の開発と並行して、日本の次世代主力機の研究も行われた。それは国際連合に提出する骨格ではなく、人工筋と装甲に集中しており、叢雲の出荷時には回収されている。なおナガセが序盤で搭乗していた叢雲は、叢雲四型の骨格に同田貫の試験人工筋と、配送先の機関のミスリードを誘うためのイミテーション装甲で構成されている。そして自衛のため、両腕部が通常骨格からカノン内蔵骨格に換装された。
叢雲はユートピア計画最終段階において、人攻機の生産機能を持つ基地へ、遺伝子補正プログラムと共に配送された。
余談であるが、叢雲の名の由来は『天叢雲剣』ではなく、全てを覆い隠す『群れた雲』と言う意味からである。
ク-501 五月雨 (クレワング)
全高6メートル
ミクロネシア連合の主力躯体である。
外観はややむっくりとしており、四肢や装甲の形はボックス型をしている。これはフレームに遊びを入れたためである。しかしそれ以外の箇所――腰回りや胸部は遊びが無く、コンパクトにまとまりスマートになっている。コクピットとヴェトロニクスしかない胴体は、駆動部分が少ないためである。そのため全体を見ると、細い胴体に筋肉質な四肢を持つ躯体に見える。
人工筋の分配は遅速5:5で、バランスの良さを重視している。
これは生産力に乏しいミクロネシア連合のドクトリンが多分に影響している。それは高性能な多用途躯体を用意し、状況に応じてオプション(外部装備)を配布して対応させると言う方針である。ミクロネシア連合はこれを徹底し、五月雨の改良に終始していた。
ク-511 段平 (バロングゥ)
全高5メートル弱
ミクロネシア連合の地上支援機である。
ミクロネシア連合が唯一開発した五月雨系統以外の人攻機で、地上での活動を主眼に設計されている。
肥満児の様に丸くむくれた姿をしており、胴体も装甲で太鼓腹のように膨れている。重装の余り駆動制限が多く、動きも酷く鈍い。しかしその分搭載可能な武装が多く、肩部に強力なカタパルトを標準装備している。
段平が開発された背景には、汚染された地上での建築が困難になった事がある。土壌汚染で足場は安定せず、大気汚染で空輸も難しい。そこで地上支援機を兼ねた、建築機械が開発されることになり、段平が生まれたのである。戦闘用の段平と違い、工兵用の段平は装甲を激減され、そのペイロードを資材運搬の為に活用している。
人攻機の配分は遅速8:2で、機動戦を想定せず、スタンドオフ攻撃を主眼としている。
アメリカ共和国
アメリカ共和国は、自国で開発した人攻機を使用している。
巨大な工場を擁し、高い生産力と精度の高さを両立している。アメリカ共和国は北アメリカに防衛圏を有しており、その防衛圏参加国に人攻機をライセンス生産させている。各国はこうした躯体を自国の事情に合わせ、改修して運用している。
躯体の総合的特徴として、アメリカ共和国は人攻機のパーツをユニット化している。これはどういう事かと言うと、人攻機を腕部、脚部、腰部などでユニットとして区切って管理する事である。もし該当箇所が故障しても、そのユニットを取り換えるだけで修理を終えることが出来る。これによって躯体の稼働率が上昇した他、新兵でも修理を簡単に行うことが出来た。更に損傷の激しいユニットは工場へ修理に送る事で、ユニット自体の寿命を延ばすことにも成功している。これらの理由で、アメリカ共和国の人攻機は無駄のスペースが一切なく、スマートかつコンパクトにまとまっている。
アメリカは巨大な国土を有する合衆国であった。しかし領土亡き国家の粘菌による土壌汚染と、汚染混乱期における核攻撃、それに並行した侵略を受けて、共和国まで規模が縮小してしまっている。しかし依然世界の覇者として君臨し、国際連合の中心を担っている。
D-11 ダガァ
全高6メートル
アメリカ共和国の主力躯体である。
外観は非常にスマートであり、スリムで鋭角の目立つ、凛とした佇まいをしている。このフォルムには理由があり、構造の簡略化により、コストを削減したためである。実際ダガァの修理はユニットを交換するだけで済み、そのユニットの修理も余程でなければ現場で可能だった。更にダガァはミクロネシア連合との協力で、彼らが開発した五月雨のオプションを、装備する事が可能である。
ダガァの主戦場は地上で、汚染土壌での建築や、基地防衛、そして敵地への降下作戦に用いられた。
人工筋の配分は遅速6:4で、やや遅筋が多めである。それはダガァの自由な装備性能を最大限生かすためで、一度に多くの弾薬や爆弾、そして装甲を携行するのを優先している。
TD-11 ブートダガァ(愛称:キドニーダガァ)
全高6メートル
アメリカ共和国の主力躯体、ダガァの練習機である。
容姿はダガァと同じであるが、使用されている人工筋及びに装甲は、工場で基準を満たせなかった規格外品を流用している。そのため性能はダガァの約70パーセントほどで、駆動に必要な電子装備以外はほとんどオミットされている。さらに規格外品だけあって、人工筋も装甲もやや歪んでいるので、躯体ごとの挙動に独特のクセがある。そしてそれを矯正するために、人工筋のテンション(緊張の速さ)が緩く、クッションのように収縮するようになっている。人工筋が駆動の衝撃を殺してくれるので、乗り心地はすごぶるいい。しかしその分初動が鈍い。端的に言ってしまえば、足腰のバネがぐにゃぐにゃで、踏ん張れないのである。
ナガセは大戦末期、ダガァの生産が追いつかなかったため、ブートダガァが前線へ送られたと語っていたが、これは間違いである。実はブートダガァは、敵の侵略によって生産力が著しく低下した状況を想定し、即時生産可能な戦力として設計された躯体なのである。つまり最初から戦場での運用が予定されていたのだ。この国防計画は『グラス・シールド計画』と呼ばれていた。
大戦末期、アメリカ共和国はハワイ陥落によって、人攻機の生産力が著しく低下することになる。そして計画通りにブートダガァは量産配備され、アメリカ共和国の戦力低下を補った。
D-11M ミスリルダガァ
全高6メートル
アメリカ共和国の主力躯体、ダガァのエリート仕様である。
通常のダガァにアップグレードを施したものである。
主な改修内容は
・電子機器の処理能力強化
・レーダーの高性能化
・腕部に内臓式武装のスペースを新設
・脚部人工筋の増量
である。
ミスリルダガァはユートピア計画に従事する、海兵隊に配備された。
D-16 カットラス
全高6メートル弱
アメリカ共和国の水陸両用機である。
カットラスはオプションを使用せずに、陸上、水上、そして水中での運用が可能であり、最も活動範囲が広い人攻機とされている。しかし特徴的な装甲をしているため、装備可能なオプションが限られており、汎用性は低い。
アメリカ躯の特徴であるスマートなフォルムをしており、腰部と足首にフロートを兼ねた安定翼が、背中には潜水時に使用する主翼がついている。通常肩部に取り付けられるはロケットは、腰部に装備されている。これは潜水、海上航行時に最も安定する位置だからである。そのため完全飛行能力を捨てており、表面効果による飛行しかできない。空いた肩部は武器ラックとなっている。尾部にはプロペラが付属しており、これを使っての航行も可能である。
アメリカ共和国の本拠地は五大湖周辺に位置しており、カットラスはこの五大湖を護衛する艦船に、随伴する人攻機として開発された。この他にもカットラスは大西洋沿岸部、ハドソン湾、メキシコ湾に配備され、外洋から侵攻する領土亡き国家を、水際で撃退する役目を担っていた。
人工筋の配分は遅速3:7と速筋が多めに設定されている。それは活動を想定する水場で、重量物を運用する事が全くないためである。
余談であるが、沼地用のバリエーション機として、『D-16Pd マシェット』が存在する。これは耐水性に加え、防塵能力を向上させた躯体である。
D-27 デュランダル
全高6メートル強
アメリカ共和国が開発していた、最新鋭の人功機である。
ユートピアでの運用を目的とした第六世代人功機ではあるが、汚染世界での活動が可能なように密閉型コクピットを採用している。
アメリカ陸軍のグラディウス系列の躯体で、ダガァのように各部をユニット化しておらず、量産を前提としていない高性能機である。
それは搭載するマクスウェルシステムが量産に不向きなためであり、システムに適応したパーツが独特な構造になることもあって、大戦末期ということもあって稼働した生産ラインはたった一つのみであった。それがデュランダルの開発遅延に拍車をかけ、人類の最終作戦までにロールアウトが間に合わず、試作機が数機戦場を駆けただけにとどまった。
デュランダルはマクスウェルシステムにより、ロケットブースターを使用せずの飛行が可能であり、汚染環境下でも五百メートルの跳躍実績を持つ。環境に左右されない機動力を有しているので、汚染世界での戦局を覆すほどのポテンシャルを秘めた躯体だといえよう。
武装は頭部スポッティングライフルに、両腕格納式爆裂式短刀、胸部近接防護散弾、そして肩部、背部、脚部のハードポイントに副兵装を搭載可能とかなり多めである。これはマグネットシールドによる磁力の姿勢補助があってならではの積載であるため、マクスウェルシステムの稼働時間が限られている本機ではフル兵装での運用は難しい。おそらく作戦に必要とされる要求を、兵装の変更で対応させようとの試みだったようだ。
マクスウェルシステムは四肢と胴体に搭載されたコンデンサを動力源とし、供給が途切れると強制遮断して消磁状態に移行する仕組みになっている。それは激しい帯磁による磁界が、通常駆動を阻害するためである。開発チームは四肢に帯磁用の鉄芯を組み込み、排出することで消磁作業の短縮を図ったが、それでも五分の消磁作業を要するようになってしまった。
ECO(ユーラシア共産主義共存体)
ユーラシア共産主義共存体はその名の通り、ユーラシア圏を支配下に置く組織である。組織の中枢となるのは中国とロシアであり、他の共産主義国家を指導している。ECOは中国とロシアが開発した躯体を使用している。
ECOの工場は、広大なユーラシア各地に大小良悪点在している。無論大きな工場は良質で精度の高い生産ができたが、小さな工場は粗や歪みが無視できないほど目立った。それゆえ同じパーツでも、生産場所によって全く別物と言っていいほどの違いが生まれてしまった。ECOはこういった劣悪でちぐはぐな生産状況を、組み上げる躯体の簡略化と、大量生産で補う方針を打ち出した。つまり骨格は骨格、筋肉は筋肉、装甲は装甲として割り切り、無駄な機能を一切オミット。最大限現場で復帰可能にするため、複雑な機構を出来うる限り排除した。そして予備の骨格、筋肉、装甲を大量生産し現場に送る事で、事態に対処させたのである。この方針はECOの体質に見事噛みあい、その軍事力をアメリカの次点へと引き上げた。しかしECOの躯体はパーツをとっかえひっかえするため、着せ替え人形と言う不名誉なあだ名を頂戴する事になる。
ECOでは各国の国法より、ECOの条約が優先される。ゆえに生産配備は国ごとではなく、ECOの枠で行っている。生産された躯体およびパーツは、ECO指導部の命令に従って各地に配備された。
Pa-07 シャスク
全高6メートル弱。
ロシアの陸上機である。
装甲がが薄い代わりに人工筋が割り増しされた躯体で、それによって積載重量と機動力を底上げしている。躯体の外観は剥き出しの人工筋に、申し訳程度に装甲タイルが張られているだけで、見た目は筋肉質な巨人のそれに近しい。防御力はないに等しいが、その分関節の自由度が広く、高い瞬発力も有している。
シャスクの構造は簡素である。パーツが関節の三倍の数しかない骨格、そして肉襦袢のような人工筋肉(四肢ごとに分離可能)、タイルのような張る装甲だけである。よって整備修理の全てが現場で可能で、シャスクの後送が必要な時と言えば、たいていスクラップか電子機器のトラブルだった。
人工筋肉の配分は遅速2:8である。これはシャスクがユーラシアでも、足場の悪い雪上や山岳地帯で駆動することを想定しているからである。そのためシャスクは重い物を運用できず、姿勢を安定させなければ銃の反動にすら耐えることが出来ない。しかし熟練のシャスク乗りはこれを特性として生かし、銃の反動を振り子のように使い、まるで曲芸のような駆動することが可能だった。
AEU(アフリカ・ヨーロッパ連合)
AEUはヨーロッパ連邦が開発した躯体を使用している。
AEUの生産工場は二種類ある。信頼性と性能は高いが生産力の低いヨーロッパ連邦の工場と、信頼性と性能が低いが生産力の高いアフリカ連合の工場だ。AEUはまずヨーロッパ工場でプロトタイプを製作し、ダウングレードを施した量産機をアフリカ工場で生産した。そして量産機が得た経験をヨーロッパ工場に送り、問題を解消した「完成躯」を製作。それを量産可能なレベルまで再度ダウングレードを施し、アフリカ工場で生産する手法をとっていた。AEUはこうしてうまく工場を使い分けることで、少しでも信頼性の高い躯体の量産を試みていた。
躯体の総合的特徴としては、開発された躯体は局地での運用を前提としている事である。「レイピア」なら空地、「クレイモア」なら山岳、「ヴァイキング」なら海洋など、戦闘地域が限定されていた。人攻機の活動区域を限定することで基礎性能を底上げと、整備運用の簡素化を目指したのである。これによって躯体修理に必要なパーツ数が減少し、活動地域の工場にそれらを量産させることで稼働率を上げる事ができた。
AEUの存在するヨーロッパ並びにアフリカは、ユーラシアや北アメリカのように汚染嵐がなかなか発生せず、天候が比較的穏やかであった。そのためAEUの躯体は大抵が完全飛翔能力を身に着けており、速度を重視した設計となっている。
なお大戦末期にはそれら局地戦用躯体全てのノウハウを結集した汎用躯、「ラグナロク」の開発がすすめられていた。AEUは大々的に宣伝を打って、自国民の戦意高揚を図っていたが、結局ラグナロクが戦地をかけることはなかった。
BoGS-91 レイピア
全高5メートル強
AEUの主力躯体の一つである。局地戦躯で、活動想定地域は空地である。
外見は小太りという表現がしっくりくる。やや低身長にずんぐりとした胴体をしており、四肢も膨れている。これはレイピアの胴体背部にはプロペラントタンクと飛翔用ブースターが標準で装備され、四肢には燃焼室とノズルが取り付けられているからである。レイピアはこのロケットを使用しての完全飛行能力を有している。その他にも四肢のノズルからロケットを噴出し、瞬間的な加速による肉薄や、腕力及び脚力の強化が可能だった。しかし燃焼室にスペースを取られるため、レイピアは四肢に内蔵武器を搭載する事ができなかった。
レイピアは戦場で、地域防衛と防空、そしてその速さを生かした強襲に用いられた。
人攻機の遅速配分は6:4と、遅筋がやや多めとなっている。減らされた速筋の機動力を、ロケットによって補えるからである。
余談ではあるが、地上特化のバリエーション機として『BoGS-91G コリシュマルド(遅速配分7:3)』。空中特化のバリエーション機として『BoGS-91S エストック(遅速配分7:3)』が存在する。地上格闘を主眼にそえたコリシュマルドの遅筋が多いのは言わずもがな、エストックの遅筋が多めに設定されているのは、大型化した四肢のロケットを、腕のみで抑えつけなければならないからである。
領土亡き国家
領土亡き国家は、南アメリカ、南アフリカ、中東を支配下に置き、海上にも移動拠点を有している。北米方面軍、欧州方面軍、ユーラシア方面軍、中央軍を組織しており、軍によって運用する人攻機が異なる。これは開発力に乏しい領土亡き国家が、敵勢力の工場を接収したり人攻機を鹵獲し、運用する事で間に合わせているからである。大抵の領土亡き国家の躯体は、正規躯体から外気からの保護機能をオミットした物となっている。領土亡き国家の人間は、汚染環境に適応しているためだ。
領土亡き国家のオリジナル躯体も少ないながら存在し、海上拠点で生産されている。領土亡き国家の躯体は、国際連合の躯体と全く設計思想が異なり、人型にとらわれない形をしている。これは領土亡き国家が、躯体のベースに旧世代の兵器(戦闘機や戦車)を使用していることに起因する。この事から領土亡き国家は粘菌攻撃前に、環境汚染後の世界で運用する兵器を開発していたことが推測される。
カッツバルゲル (国連コードネーム)
全長7メートル 全高2メートル弱
領土亡き国家の、数少ないオリジナル躯体である。
背中に鳥のような加速器を背負い、ハチドリに似たスリムで尖ったフォルムをしている。このブースターは戦闘機を改造したもので、爆弾投下口に胴体が接続され、そこから制御器の付与された四肢が伸びている。スラスターは大出力ブースターの制御に使われている。そうすることでブースターの最大出力をコントロール可能にし、速さを生かした一撃離脱の攻撃を得意としている。ブースターは躯体の大部分を占めており、どちらかと言えばこちらが本体だと言えるだろう。
大戦前から汚染世界での駆動を目的に研究が進められており、戦闘機に代わる航空戦力として開発されていた。ベースには当時の型落ちである、ミラージュ2000が使用されており、人攻機には珍しい外骨格タイプである(つまり装甲と骨格を統一している)。その運用法は汚染前のマルチロール機と大差なく、制空権の奪取、爆撃、そして偵察である。そのためか陸上での活動力はかなり低く、ブースターのフォルムも相まって歩くのすら難しい。もっぱらうつ伏せにさせて活動させるようで、その手足は歩行用ではなくスラスターの制御用だと考えられる。
人攻筋肉の遅速配分は不明である。と言うのは、カッツバルゲルは国連躯体の様に骨格に筋肉を纏わせず、まるで昆虫の様に骨格の中に筋肉を詰めるタイプであり、ドームポリスの躯体には人の手でダガァの人工筋がすでに詰めてあったからである。
ナガセはカッツバルゲルの知識も無く、人工筋を詰める技術を持たないので、この改造を受け入れている。