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旧作品群

みんなニコニコでしあわせ

 笑うことはしあわせです。ぼくはそう思います。

 ある朝目がさめて、一階におりると、おかあさんが朝ごはんをつくっていました。おみそのにおいがして、ぼくは、

 (ははあ、みそしるだな。)

 とおもいました。

「おはよう。」

 とぼくがいうと、おかあさんもぼくがわかったみたいで、

「おはよう。」

 と言ってくれました。

 ぼくは顔をあらったあと、ねむたそうに目をこすりながらおきてきたおとうさんといっしょにイスにすわりましたが、すぐに立ち上がるとれいぞうこまで行き、おちゃの入ったペットボトルをとりだして、テーブルまではこびました。それを見たおとうさんが、

「お。えらいな。」

 とニコニコしながらほめてくれて、うれしくなってぼくも笑いましたが、おかあさんが、

「コップをわすれてるわよ。」

 と言って、コップでぼくの頭をこつんとしたので、ぼくは、

「むー。」

 と言いました。おとうさんとおかあさんがまたニコニコしたのを見て、ぼくもつられて笑ってしまいました。テーブルに朝ごはんをならべたおかあさんが、

「さあ、たべましょう。」

 と言ったので、ぼくとおとうさんは、

「いただきます。」

「いただきます。」

 と言いました。おかあさんは、

「はいどうぞ。」

 と言ってニコッとしました。


 じかんわりはきのうのうちに合わせてしまっていたので、ごはんをたべてトイレに行ったあと、ぼくは小がっこうのせいふくにきがえ、スーツにきがえてきたおとうさんといっしょにいえを出ました。

「いってきます。」

 とおとうさんが言ったので、ぼくは、

「いってきます!」

 と、おとうさんよりももっと大きいこえでおかあさんにあいさつしました。

「はいはい、いってらっしゃい。」

 とおかあさんは言って、ぼくたちを見おくってくれました。


 すこしはやく来すぎてしまったみたいで、きょうしつに行ってもだれもいませんでした。だからぼくはじぶんのイスにランドセルをおくと、まどぎわまで行きました。クラスのみんなでかっているメダカが、水そうの中をおよぎまわっています。ぼくはすぐちかくにおいてあるふくろをひろうと、なかからメダカたちのごはんを取りだしました。

 そのときです。

「あー! 先をこされたー!」

 と言って、ひなたちゃんがきょうしつにはいってきました。ぼくは、

「おはよう。」

 と言いました。じつはぼくがはやくきたのは、メダカにごはんをあげるためだったのです。クラスのみんながあげたいと言うので、一ばんはやく来た人があげるという約束になったのでした。

「おはよう。」

 とひなたちゃんも言って、まっかなランドセルをせおったまま、水そうの方に近づいて来ました。

 そしてぼくに言いました。

「まけちゃった。」

 ぼくは、

「ぼくもいま来たところだよ。まだごはんはあげてないよ。」

 と言って、ひなたちゃんに、てのひらの上に出したメダカたちの朝ごはんを見せました。

「はんぶんこしてあげようか。」

 ぼくがそう言うと、ひなたちゃんは、ニコニコしてよろこびました。

「いいの?」

 と、ひなたちゃんが聞いて来たので、

「いいよ。」

 とぼくは言いました。すると、

「やさしいんだね。」

 とひなたちゃんが言ったので、ぼくはうれしくなりました。

 ぼくたちはいっしょにメダカにあさごはんをあげました。


 ※


 みんなニコニコしています。

 ぼくはしあわせでした。だって、みんなニコニコしていますから。

 ずーっと、ニコニコしているんです。

 朝おきたときから、よるねるときまで、みんなにこにこしています。

 「おはよう」と言うと、「おはよう」と帰ってきます。朝ごはんがおいしいです。お母さんはニコニコしています。

 「行ってきます」と言うと、「行ってきます」と聞こえました。お父さんが同じ時かんにいえを出ます。お父さんもニコニコしています。

 近じょのおばさんやとうこう見まもりボランテイアのおじいちゃん、いそいでいるのかうで時けいを見ながら小走りで行くお兄さん、名まえは知らないおなじがっこうのせいと、小さなはたけに水をあげるおばあさん、クルマにのり込むおじさん。

 みんな。


 みんな、一人かかさず、ニコニコしています。


 ※


「それじゃあ、このもんだい、わかるひとー!」

 せんせいが、ぼくたちにむかってききました。こくばんには「2+3=」とかいてあります。ぼくたちはみんな、

「はーい!」

 と、手をあげました。

「それじゃあ、しゅんぺいくん!」

 せんせいに当てられたしゅんぺいくんが立ち上がり、

「2たす3は4です!」

 とげんきよく言いました。

「2たす3は4? 本当かなあ。」

 とせんせいが言って、

「ありゃあ、ちがったかあ!」

 としゅんぺいくんが頭をたたいて言ったので、ぼくはおかしくって笑ってしまいました。クラスのみんなもニコニコしています。

 そのときでした。

「しつれいします。」

 と、女のせんせいがきょうしつに入ってきました。ろうかで何回かすれちがったことがありますが、名まえはしりませんでした。

 みんなが、

(なんだろう。)

 とおもってその女のせんせいを見ていると、そのせんせいは、ぼくの名まえをよびました。

「ちょっとかえるよういをして、ついてきてくれないかな。」

 と言ったので、ぼくはやっぱり、

(なんだろう。)

 とおもいました。たんにんのせんせいを見ると、

「だいじょうぶだよ。」

 と言うふうにニコニコしていたので、ぼくはその女のせんせいについてろうかにでました。

 すると、

「おじいちゃんがなくなられたそうです。おとうさんがおむかえにきてくれてるから、行きましょう。」

 女のせんせいはぼくにそう言ってニコっとしてくれました。


 ※


 ぼくはおとうさんに手をつながれたまま、おじいちゃんがにゅういんしていたびょうしつに入りました。おじいちゃんのねているベッドの周りで忙しくしていたおいしゃさんたちがおとうさんに気づいてふりかえって、

「一じかんほど前でした。ヨウダイはアンテイしていましたが、ひるごはんを食べられたあと、キュウヘンしてオナクナリになりました。」

 と、ニコニコしながら言いました。ぼくはむずかしいことばがいっぱいでてきて、

(なんの話をしているんだろう。)

 と、そう思いました。

「そうですか。」

 とおとうさんがニコニコしながら言いました。

 そのとき、びょうしつのドアがひらき、エプロン姿のおかあさんが入ってきました。

「ああ……おとうさん……きのうまではあんなに元気だったのに……。」

 おかあさんはニコニコしながら言います。


 ※


 みんなくろいふくをきていました。

 「おかん」の中でねているおじいちゃんの前で、おぼうさんがおきょうをよんでいます。おじいちゃんのおとうとのおじちゃんがまずまえにでて、ぺこりと、みんなにれいをしました。ぼくは、

(おしょうこうだ。)

 とおもいました。ぼくがまだ小さいときに、おかあさんのおかあさん、つまりおばあちゃんがしんだときにもおなじことをしたので、うっすらとおぼえていたのでした。

 おしょうこうのじゅんばんはどんどんまわっていって、おとうさんのじゅんばんになりました。ぼくもおとうさんに手を引かれて前について行きます。

 みんながすわっている一ばん前まで行ってふりかえると、みんなニコニコしているのが見えました。ぼくはこんなにたくさんのおとなたちにかこまれて、なんだかきんちょうしてしまいました。

 ぺこりとおじぎをします。そしておとうさんのまねをして、おしょうこうのにおいをかぐと、手についたごみをけむりをあげる黒いかたまりの上におとしました。

 そしてもう一どおじぎをすると、ぼくはニコニコするおじさんやおばさん、いとこのこうへいお兄ちゃんや、みゆきちゃんに笑いかけながら、じぶんのイスにもどりました。


 おぼうさんがおきょうをよみおわって、「しゅっかん」をする前に、おじいちゃんの「おかん」の中にお花をいれるみたいです。ぼくは白いお花をおとうさんからもらって、おじいちゃんに近づきました。

 すこしだけしんちょうが足りなかったのでせのびをしていると、おとうさんがぼくをもちあげてくれました。


 いろとりどりのお花のなかで、おじいちゃんがねています。


 ぼくがおじいちゃんを見ると、眼をつむったままのおじいちゃんはニコニコしているようでした。ぼくもそれをみているうちに笑顔になっていたようです。おとうさんにずっともち上げてもらっているのはおとうさんが、

(かわいそう。)

 だとおもって、ぼくは白いお花をおじいちゃんの顔のまよこにおきました。


「ばいばい、おじいちゃん。」

 と、ぼくは言いました。もうおじいちゃんと会えないことを、ついこのはるに小がくせいになって、「お兄ちゃん」になったぼくはしっていました。

 そうしているうちにしんせきのおにいちゃんやおじさんが、フタをしてしまったおじいちゃんのおかんをもちあげて、レーキュー車にのせてしまいました。

 ぼくはずっと笑顔でいます。

 見上げると、おとうさんもニコニコしていました。

 見わたすと、おかあさんも、しんせきのおじさんも、おばさんも。


 みんな、みんな、みんな、

 みんな、みんな、みんな、

 みんな、みんな、みんな、


 みんな、


 みんな、ニコニコしていて。

 ぼくは。

 花がさいたようにニコニコ顔がさきつづけるみんなにかこまれて。


 ぼくは、ただずっと。

 たったひとりで。

 笑っていました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  どこか幼い語り口調。空恐ろしい、何かを感じます。ラストが少しわかりづらかったのはわたしの読解不足でしょうか?
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