堤 健一のノート
堤 健一 40歳 男性
n月l日、自宅前の路上にて通行人による警察への通報により緊急保護されてY精神病院に入院。
入院35日目、便所の個室にて患者所有のタオルを2本結んだもので、配管に首を吊り自死。(清掃業者により発見。)入院中に見舞い客の記名はなし。
医師立ち合いの元、警察が何度か接見したが、健一の応答は要領を得ず、心神喪失と見なされた。
健一の死後、病室より彼のノートが見つかった。
*以下は、彼のノートと、医師及び警察官の記録。
(以下、健一のノートより)
(最も最近の記録)
痒い左掌がとても痒くて堪らない掻いてしまった掌が真っ赤になるまで右手の爪を立てて掻いてしまったでもまだ痒みは収まらないからがりがりと爪を立てて皮が捲れるまで掻いたひりひりする血が出ている少し気が紛れたがまだ痒いああ痒いどうしてこんなに痒いんだろう
(医師の記録)
患者は、m月n日午後に、左手のひらの痛痒を訴える。出血に至るまで掻いていたため、拘束を指示。(m月o日A.M10:05 状態が落ち着いたので、拘束解除を指示。同日P.M16:11 患者自殺により死亡。)
(入院後間近い記録と思われる)
可愛いんですこの子は可愛い子なんですどの子よりも可愛い子なんです男の子なんですもうすぐ2歳なんです風呂上りにあまり可愛いからその可愛い足を噛むんです軽く歯を立てて噛んだんですこの子は喜んだんですああ可愛いんです柔らかい踵を軽くかむと何とも言えない弾力があって堪らないんですなんで妻は出て行ったんだろうこんな可愛い子を残して出て行ったんだろうあの顔は忘れられない憐れむような恐れるような諦めるような見たこともない顔だったどうでも私は家にいるしかないこの子が可愛いからどうしようもなく可愛いからご飯を食べさせて着替えさせて私も着替えなければでも可愛いから離れられないからどうしようもないああ風呂に入れよう可愛い子なんです風呂上りに噛むんです可愛い子なんです血が出た血が出た噛みすぎたのかも知れないでもぁ可愛いんですぎ血が甘いああこんあなに甘いそうだこうなってるんだっそうだ泣いてるのかな(汚れ)いてるもっと噛みたいぶちっと噛んだぼりぼり噛んだうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい泣いてうまいああもっともっと食べてしまいたいごりごりごりいってるもうなんだかわからないけれども真っ赤だうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい真っ赤だうまい真っ赤だぬるぬるとしてなんだろうかだれだだれだ誰か来た誰だ
(警察記録)
この患者である被疑者(堤 健一)を、実子である堤 恭一(2歳)殺害容疑で検察が起訴を検討したが、医師の診断等により心神喪失状態を確認。不起訴となる。
緊急保護時(n月l日午後9時13分)の状況からの推測では、被疑者は、同日午後7時過ぎより緊急保護までの間、実子 堤 恭一 (2歳)(男子)の両足の膝より下、および左手首から先を、出血多量による死亡に至るまで噛み、死亡に至らしめたものと思われる。堤 恭一の膝から下、及び左手首から先は消失。被疑者が、咀嚼した様子。事件発生時、堤 涼子(42歳)(戸籍上の妻)は、2日前より別居していて不在。通報人である通行人(匿名)が、n月l日午後8時55分に、n県警nn警察署に通報。通報時、被疑者は自宅前の路上にて、自身も血塗れのままで、同じく血塗れの幼児を抱いて茫然自失の様子。相当に異様な様子だったとのこと。その後、駆け付けた警察官により保護。救急車により、Y病院へ搬送されたが、堤 恭一(2歳)は、すでに死亡していた。被疑者は、当時心神喪失状態。
晴れ時々狂気。日常に愛情に狂気は混じっている。みんな分かってないだけだ。
14.11.5 あらすじ及び本文の一部を推敲(自殺の方法)