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イベントタイムが終わって 紫は、お客さん達に挨拶して回っていた。
各テーブル席では、ホステス達が、お客さん達とトークを楽しんでいる。
「紫ちゃん………新規のお客さんで あなたをご指名ですって」
その声に 振り返ってみると テーブル席に 綺麗な顔だちの男性が、2人 そこに座っていた。
1人は、優しげな笑みを浮かべ 少しズレた眼鏡が、面白い。
そして もう1人は、何だか 紫のことを睨みつけているようだ。
射殺すような 目で 紫のことを見つめている。
その視線に 紫は、震えが止まらない。
初めて会ったはずなのに なぜか 違和感が残るのだ。
「初めまして スミレさん。僕は、美河 融っていいます。この無愛想なのは、亜蘭………橘 亜蘭です。今日は、込み入った お話がありまして」
その言葉に 紫は、首を傾げるしかない。
変な空気を誘ったのか オーナーが、どうしたぁ?と 近づいてきた。
「お?お前………融じゃないか。あの西条に連れ回されていた………」
「って………潤さん?!どうして アンタが、ここにいるんですかッ!」
美河さんは、驚きを隠せていないようだ。
紫が不思議そうに首を傾げていると オーナーが、説明してくれた。
何でも 美河さんが、以前 付き合っていたという女性と友人らしい。
「って………彼女のことを 知っていた上で雇っていたんですか?」美河さんは、真剣な表情を浮かべて オーナーに聞く。
「何を知っていてだ?こいつが、何かあるとでも?こんなナリだが ちゃんと 成人してんぞ?」オーナーは、訝しげな顔で 言い放つ。
「そんなことは、知っていますよ。ああ………込み入った話なんで 人の目を気にしないで済む部屋は、ありませんか?」
美河さんの言葉で 周囲の視線が、紫達に集まっていたことに気が付く。
「じゃあ………事務室で。スミレ………お前も来るんだ」
オーナーの言葉に 紫は、はいと 頷く。
事務室に入って 紫は、不思議な体制を強いられていた。
「う~ん………これは、どういう状態だ?」
「色々あるんですよ。今は、とにかく 9年ぶりの抱擁をしているところなんです」
その異様な光景に オーナーと美河さんの声が耳に入ってくる。
「オーナー………見てないで 助けて下さいッ!」紫は、懸命に叫ぶ。
「まぁ………危害を加える様子はないから 大丈夫なんじゃないか?別に あの症状が、出ているわけじゃないんだろう?」
オーナーの問いかけに 紫は、黙り込むしかない。
彼の言う症状とは、吐き気と頭痛のこと。
14才の時に体験した ある一件によって 紫は、極度な 男性恐怖症となっているのだ。
故に 男に触れられると 吐き気と頭痛が止まらなくなる。
だが この橘 亜蘭という男性が、先ほどから 自分を抱きしめているにも関わらず 何も異変が起こらない。