序章
書き直しました。
前のとは、大分変わってしまったかもしれません。
静かな食卓―――それが、その家の日常だった。
誰も 会話を交わさない。
何か 発言するといえば 義務的なことがらだけ。
それが、当たり前のことになっていた。
ただ 最低限のテーブルマナーを基本とし まるで 同じ空間にいるのに 孤独のような状態。
幼い子供も、その緊迫した空気を察知し 黙々と食事を続ける。
そして 食事が終われば 早々と 自分達の部屋へと引き上げてしまう。
子供の笑い声など ここ何年もの間 誰も聞いていなかった―――10年前 この家の当主の奥方が姿を消してしまった時から。
使用人達も、屋敷の子供達も 何も言わず 凍てついた 屋敷を無情に過ごしていった。
何かを期待することなく 決められたスケジュールをこなしていくだけ。
長男の橘 紫生は、思春期真っ盛り。
下の2人は、双子の梨玖と桜姫は、人見知りが激しい。
3人とも 子供らしからぬ 独自の空気を持っていた。
そして 年の近い 家政婦の娘と共に過ごす時間が、子供達にとって 安息の時間なのだろう。
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「亜蘭………いい加減 再婚を考えても、いいんじゃないかね?子供達の教育上のことを考えれば 決断しなければ」
子供達が、部屋に戻ったのを確認し 男――――東郷 恒は、発言した。
その言葉に 当主の席に座る 若い男―――橘 亜蘭は、眉根を寄せる。
「恒叔父さん 何度も申し上げる通り 僕は、彼女と離婚するつもりはありませんよ。必ず 戻ってくると信じているのですから。以前にも その話は、終わったはずでしょう?」
甥の頑なな言葉に 恒は、溜息をつく。
「だが………彼女が、姿を消して 何年経っている?何か 事情があるにしても、おかしすぎる。しかも 下の2人は、お前の子であることが証明されたとはいえ………紫生は、お前の子供ではないのだから」
「叔父さん………僕は、何と言われようと 考えを改めるつもりなど ありません。ですから これ以上 無用な詮索はしないで下さい。勿論 子供達に余計なことも言わないようにして下さい。ナイーブな年頃なのですから。特に 紫生は、何でも抱え込んでしまうんですから」
「アレが、そんな繊細なわけがないだろう?父親が誰なのかもわからない 子供だ。しかも あの女に瓜二つだ……したたかな部分も引き継いでいるんじゃないか?最近 使用人の娘と陰でコソコソしているらしいからな?」
恒の言葉に 亜蘭は、唇をかむ。
「確かに 紫生は、頭が良いかもしれない。だが 正直 私は、あの子が恐ろしいよ。亜蘭………お前のことは、兄に託されたんだ。あの女と離婚しなさい。別に もう………海を結婚するよう 強制しない。あの子のことを お前が 妹としか見ていないことは、もう わかっているのだからな?」
「叔父さん 僕は………「亜蘭 いますか?!」
亜蘭の言葉を遮るようにして 部下であり 親友の美河 融が、リビングに飛び込んできた。
珍しく 何かに焦っているのか トレードマークの眼鏡が、いつものように ズレているが。
「どうした………融。そんなに焦って。会社のトラブルか?」
「その場合は、余程のことがない限り お前に知らせる前に片付けるさ」融は、眼鏡をかけ直しながら 言う。「聞いて驚くなよ?見つかったんですよ………お前の『奥さん』がッ!」
それを聞いて 亜蘭は、息をのんだ。
「美河………それは、本当のことなのか?あの女が、見つかっただと?!」
恒は、驚きを隠せていない。
まさか この段階で 見つかるとは思いもしなかったのだろう。
「本当ですよ。まさに 灯台下暗しでした。昔からの知り合いの関係者だったらしいんですからね」
「彼女は、失踪している間 何をしていたというんだね?子供を置いたままで いなくなったりして」恒は、憤慨したように 言う。
その言葉に 融は、どこか 困ったような顔をしているようだ。
「彼女は、覚えていないんですよ。自分が、亜蘭の妻であったことを………って お~い、亜蘭?大丈夫ですか?」
融は、目を見開いたまま 固まってしまっている親友に声をかける。
けれど 彼は、微動だにしないようだ。
「どういうことなんだね………覚えていないとは」
「言葉通りですよ、東郷さん。彼女は、記憶を失っているんです。我々のことを、何も 覚えていない。勿論 子供を産んだことも知らないんです」
融の言葉に 恒は、眉根を寄せる。
「彼女の本当の名前は、【日向 紫】。年は、27才。未婚の母と2人暮らし。現在 クラブの『AZAMI』で ホステスをしているようです」
「何だ………水商売じゃないか。やはり そういう女だったわけだ。亜蘭………お前と結婚したのも、金目当てだったんだ」
融の報告に 恒は、決めつけるように 溜息をついている。
「叔父さん………そう 決めつけないで下さいませんか?融………続きは、俺の部屋で」
「わかりました。東郷さん………それでは、失礼します」
リビングから出て行った 2人を見て 恒は、深く 溜息をつく。
「今更………何で あの女の居場所がわかるんだ」恒は、頭を抱えるように 呟いた。