08 おにぃが別人みたいで本当に怖かった
「や、やめてよぉ! やめてよぉ!」
死体を見たせいで完全に情緒不安定だ。
笑っているのに涙が止まらない。
「何? ドッキリ? 私を騙そうとしてるんでしょ?」
「……」
「騙そうとしても引っかからないからね! ぜーんぶウソなんでしょ?」
「……」
「やだ、やだ! 何? 王女? 冗談キツイよ」
「信じられないのも無理はありませんが、これは現実です。貴女様は異世界では聖女という高貴な地位におられ、私は貴方をお守りする護衛でありました」
「お…おにぃ…」
「……私は聖下の本当の兄ではありません」
身体はガクガクと震え、涙が止まらない。
「とにかく、食欲はないでしょうが、食事を取って下さい。」
そう言いながらおにぃはカウンターから缶詰を取り出した。
「追手が心配なのでここには長くいられません。次はいつ食べれるか分からないので、とにかく腹に入れて下さい。あと…」
その手はあの黒いリュックをさぐる。
「血が消えたとはいえ、その服は気持ち悪いでしょう? この服に着替えて下さい。奥にシャワーもありますから」
渡されたのは、あの女モノの下着と服……
「私のだったんだ……」
ついさっきまで、おにぃは変態だ~なんてバカな誤解をして、はしゃいでいたのに。
シャワーを浴びて、服を着替えると幾分落ち着いてきた。
部屋に戻ると、おにぃはすでにケガの手当を終え、服も着替えて、拳銃に玉をこめていた。
拳銃まで……なんだか映画を見ているみたいで、ますます現実味がない。
「あぁ、こちらの缶詰を食べて下さい。こんなものしか、ご用意できなかったのですが……」
「敬語はやめて!」
「……」
「やめ……て」
おにぃは私に甘い。
泣き真似してやろうと思ったのに、なんだか本当に辛くなってきて涙が出てきた。
「私たちずーっと兄妹だったじゃん」
おにぃの驚いた顔が涙で歪んで見える。
あんなに兄妹じゃなかったら良かったのに~!なんて言ってたのに、いざ、本当は違うなんて聞かされたら、ただうろたえるばかりで……不安でたまらない。
「…わかり…分かった」
涙を拭きながらおにぃの隣に座り、フォークを受け取る。
「時間がないからさっさと食え」
急に切り替えてきたその乱暴な口調に、ようやく普通に呼吸ができるようになった。
「ぷっ! 急にぞんざーい!」
だから私もいつものように笑顔で文句を言う。
「…やっと笑ったな」
おにぃの大きな手が私の頭をなでる。
いつものシスコンのおにぃだ!
そう思ったら肩の力が抜けて、後から後から涙が止まらずにこぼれてくる。
号泣する私をおにぃがそっと抱きしめる。
「怖かったな」
私はおにぃの胸の中で大きく何度もうなづく。
怖かった。
本当に怖かった。
死体も血も怖かったけど、剣をふるうおにぃが、敬語で喋るおにぃが、別人みたいで本当に怖かった。
「ごめんな。怖い思いをさせてごめんな」
そう言いながらぎゅーっと抱きしめたあと、一拍をおいて私をバリっと引き離した。
見上げるとそこには試合前のように、厳しい表情をしたおにぃがいた。
「今は非常事態だ。さっさと泣き止んでさっさと食え。10分で出るぞ。食ってる間に簡単に状況を説明する」




