07 おにぃが殺人者!? これは現実なの?
「不思議な光…こんな刃物見たことない…」
ナイフの刀身から放たれる淡い光は神秘的で、思わず見とれてしまうが、頭の中には昼間に言われた言葉が蘇る。
<お兄さん、どこかに【聖女殺しの剣】を隠してたりして…>
「……聖女殺しの剣…ははっ! まさか……」
すぐに鞘にしまい、下着と共にリュックに入れ、クローゼットに戻し扉を閉める。
「ぶ…ブレスレットはどうしよう」
バクバクと心臓が早鐘のように打っている。
足元から寒気がして、地面に引きずり込まれそうな不安でいっぱいになる。
「正直に壊したことをあやまろう。うん…あやまろう…」
ブレスレットを手に取るが、ブルブルと震えてしまう。
しかしブレスレットをよく見ると、切断面に接着剤の跡がある。
「もともと壊れてた?」
ガーン!
「きゃああ」
突然の大きな音に飛び上がって叫ぶ。
ガツン! ガツン!
バコン! バコン!!
玄関で争う音が部屋全体をゆらす。
ドタドタドタ!
大きな靴音が近づいてきて、乱暴にドアが開かれる。
「きゃあ」
そこには汗にまみれたおにぃの姿があった。
その身体には沢山の切り傷があり、拳も血に染まってる。
私をいちべつすると、すぐにクローゼットに向かい、あの下着が入ったリュックを背負う。
そして、さらに奥から長い棒を取り出した。
長い棒…ではなかった。
おにぃが鞘を抜き、その鞘の紐をたすき掛けにする。
それは両刃の剣だった。
すると、それと同じような剣を持った数人の男たちが、この部屋に乱入してきた。
おにぃは彼らに次々と切りつけ、部屋中に血しぶきが舞う。
おにぃの動きは、使い慣れた武器を操るかのようで一切迷いがない。
全ての男たちが動かなくなると、おにぃは私に振り返る。
荒い息を吐き、顔や身体は返り血で真っ赤、剣を握る手はブルブルと震えている。
「あぁ…」
突然の出来事に身体が硬直する。
なに…なにが起きたの?
おにぃが人を殺した???
辺りは鉄がさびたような匂いが充満していて、気持ちが悪い。
よく見ると私の服にもたくさんの血が飛んでいた。
「ち…血……」
「大丈夫だ。すぐ消える」
そうおにぃが言ったとたん、死体は煙のように消え床に流れた血も壁に飛び散っていた血も、おにぃや私が浴びた血も、まるで水に溶けるように消えてしまった。
「立てるか?」
立ち上がろうとするが、足が震えてうまく立てない。
死体や血が消えても匂いは残っているから吐きそうになる。
バタバタバタ
すると玄関で複数人の足音がした。
「チッ」
おにぃは舌打ちをして、剣を背中の鞘にしまい、私を抱き上げる。
「きゃ!」
「もうちょっと我慢しろ」
そう言って窓を開け、私を抱えたまま飛び降りた。
ここは2階だよぉ~~
難なく着地し、私を抱えたまま走り出す。
5分ほど走ったところで、ビルの地下駐車場に降りていった。
そこには大型バイクが停めてあり、おにぃはリュックから鍵を取り出しエンジンをかける。
「かぶれ」
慣れた手つきでおにぃはヘルメットをかぶり、私にもヘルメットをかぶせる。
「しっかりつかまれ」
バイクにまたがるおにぃの腰に必死につかまり、私たちは夜の闇に走り出した。
着いたのは古びたテナントビルの一室だった。
元はスナックだったのか、妙にギラギラした装飾に、カウンターやソファーは埃まみれだった。おにぃは奥にかかったのれんを引きちぎり、そのソファーに掛けて私に座るようにうながした。
バイクに乗るなんて初めてで、力の入った手足がしびれていた。
言われるがままソファーに座る私は、今だに混乱していた。
人…人が死んで……おにぃが殺して…消えちゃったけど、おにぃは殺人者!?
これは現実なの?
さっきまで亜依とくだらない事で笑って…恋バナして……
この状況についていけなくて身体の震えが止まらない。
するとおにぃが私の前で跪き、私の左手を取り自分の額に当てた。
そして、しばらく祈るようにそのままの状態でいたあと、ゆっくりと顔を上げ、上目づかいで私を見る。
「アレクサンドラ王女殿下、いえ聖女聖下。混乱されているでしょうが、わたくしが命をかけて必ずお守りいたしますから、どうかご安心下さい」
そう言って深く頭を下げた。




