06 おにぃにそんな趣味があるなんて――――!
あの後、亜依と別れて自宅に帰り着いたが、一人でいるのがなんとなく怖くて、おにぃの部屋に入る。
床に座り、ベッドに背を預けスマホをいじりながら、おにぃの帰りを待つことにした。
「え!?」
検索サイトのトップニュースに、おにぃの名を見つけた。
『氷室まさみに熱愛発覚! お相手は人気格闘家HUZIN王者ジーン・桜田』
ゴシップ記事にありがちな『熱愛発覚!?』のクエスチョンマーク付きではなく『熱愛発覚!』と断定されている事に、心臓がバクバクと音をたてる。
詳細を知ろうと内容をタップしたいが、手が震えてできない。
「あぁ、とうとうきたか……」
おにぃは28才のいい大人だ。
私には隠しているけれど、きっと彼女だっていたはずだし、そろそろ結婚を考える年齢だ。
「どうして10才も離れているんだろ」
私はただの高校生で、ガキンチョ。
「その前になんで兄妹なんだろ」
何度もつぶやいたこの言葉……私は恋愛の絶対的な対象外だ。
両ひざに顔をうずめて、絶望のため息を吐く。
落ち込んで、落ち込んで……地面にのめり込むほど落ち込んだら、この思いを捨てられるんだろうか。
ふと手袋をつけた左手を見る。
黒く伸縮性のある布でできたそれは、おにぃがくれたものだ。
その手袋を外すと鮮やかな赤いアザが現れる。
手の甲いっぱいに広がるおおきなアザは、ふれるとボコボコと盛り上がっているのが分かる。
<桜田さん、花のアザはないの?>
笠原くんのセリフを思い出す。
確かにこのアザは花の…牡丹の花のように見える。
<お兄さん、どこかに【聖女殺しの剣】を隠してたりして…>
「はは……そんなまさか」
バカバカしくて、乾いた笑いが出る。
でも……でも…もし、笠原くんの小説の通りだったとしたら……
私が王女で、おにぃが護衛で……
血がつながっていないとしたら――――?
おにぃのクローゼットに近づく。
「何を探すってーの! 私、バカじゃね?」
そう言いながらクローゼットを開けると半分は、自室からあふれた私のオフシーズンの服が占領していて、残り半分にはおにぃの服がわずか10着ほどしか掛けられていない。
下部には下着や靴下、トレーニングウェアが入った引出し、その上には黒いキャップと鞄がひとつ。
「すぐに夜逃げできそうな物の少なさ……」
おにぃはあまり物欲がない。
車も持っていないし、高級時計、貴金属類も持っていない。
趣味らしい趣味もないし、こだわるのは食事くらい……それもプロとして身体作りのためにこだわっているだけで、食事を楽しんでいる感じではない。
全くこの世に執着していないようなその姿に、私は常に漠然とした不安を抱えていた。
そう、いつかどこかに行ってしまいそうで……
「あれ、奥になにかある」
引出しの奥に隠されたようにあったのは黒いリュック。
「な、なにこれ!?」
リュックから出てきたのは、ブラジャー、女物の下着に服……
「ま、まさか……」
女モノの下着マニア?
もしくは女装趣味?
「そ……そんな」
おにぃにそんな趣味があるなんて――――!
「だ、大丈夫。私はどんなおにぃでも受け止められる」
ガタイの良いおにぃの女装姿を想像したら似合わなすぎて、脳ミソが拒否するけど、私はおにぃを否定したりしない!
ようこそ変態の世界へ! ってなもんじゃん!
それにこんな趣味があったなんて、おにぃってば結構、俗物~~なんか安心した……って安心していいのかコレ!?
「とにかく、本人が隠してるんだから知らないふり、知らないふり……」
おにぃが帰ってきて、顔を見たら噴き出しそう!
ぷくく……笑いをこらえながら下着を戻すと、手に固いものが当たる。
取り出すと、それは大きなナイフだった。
大きさはサバイバルナイフくらいで、持ち手にも鞘にも金の装飾が施されていて骨董品みたいだ。
「アンティーク?」
そう思って、机の上にあるブレスレットに目を向ける。
「何だか感じが似てる…」
見比べようとブレスレットを手に取ると、それは真っ二つに割れてしまった!
「きゃっ! ウソ!」
びっくりしてアンティークナイフを床に落としてしまうと、鞘がはずれ、刀身が見えた。
しゃがんで手に取って、ゆっくりと鞘から引き抜いてみる。
それは青白く、鈍い光を放っていた。




