05 キモ男のキモ小説が怖いよ~
「桜田さん」
一緒に帰る予定の亜依が役員仕事があるため、教室で待つことにした。
ちょうど読みたかった小説も持ってきていたし、誰もいない教室でそれを読んでいたら、カフェテリアで席を譲ったあの笠原くんが入ってきた。
「また、異世界トリップ物の小説読んでるの?」
「え? ……あぁ、うん」
「しかも、異世界トリップして義理の兄となった貴族と、愛し合うっていうストーリーが好きだよね」
一気に顔が赤くなった。
小説は血のつながらない兄妹の恋愛で、それを自分とおにぃに当てはめて……せめて妄想だけでもと――――ただ夢が見たかっただけで……。
「どうして、そんなこと……」
でも本の内容まで知ってるなんて……いつも見られてるって本当だったんだ!
気持ち悪い!
「僕、趣味で小説を書いているんだ。ぜひ、桜田さんに呼んで欲しいなぁ~」
そう言って笠原くんはA4のファイルを突き付けてくる。
「いや……私は……」
「大丈夫、30分ほどで読めるから今読んでよ」
半ば強引に押し付けられ、隣の椅子に座って見つめられる。
早くどこかに行って欲しかったので、仕方なくファイルを開いた。
その小説は逆トリップもので、笠原くんは意外に文才があり、すらすら読めて結構面白かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴィーナ国は女神ヴィーナの恩恵を受け、穏やかな気候を保つ穀倉王国であった。
その豊かさは、女神ヴィーナの代理人たる聖女を通じて与えられ、聖女は代々王族の女性によって受け継がれていた。
そこで、その恩恵を羨ましく思っていた周辺諸国は、自分たちが信仰している男神モーリスに同じように国を豊かにして欲しいと願い出ることにした。
ところがモーリス神は『ひとつの世界にひとつの神しかその力を使うことはできない。ヴィーナ神の力を体現する聖女がいる限り、私はお前たちに何もしてやれない』とおっしゃったのだ。
そうして周辺諸国は、聖女を葬るため女神の国に侵攻することになった。
多勢に無勢、戦争は二カ月続いたが、やがて女神の国は陥落、聖女も殺された。
ところが聖女の力は代々ヴィーナ国王家の女性が引き継ぐものだったから、母である聖女が死んだ瞬間、その力は娘である王女に引き継がれたのだ。聖女は身体のどこかに花模様のアザを持っているのだが、王女にそれが受け継がれたことをみとめた家臣が、その身が危険だと判断して護衛をひとりつけて異世界へ……現代の日本へと逃がしたのだ。
日本で兄妹として仲良く暮らす王女と護衛。
王女は護衛を兄と慕い、次第に恋心を芽生えさせるのだが……実は護衛はモーリス男神側の間者で、成長する王女を監視しながら、殺す機会を伺っていたのだ。しかもその護衛は【聖女殺しの剣】を持っており、それで聖女を殺せば次代に受け継がれることはなく、完全に聖女の存在を消滅させることができるのだ。
そんな王女の危機に、ヴィーナ女神国の王族の血を引く唯一の生き残りの青年、カイン王子が日本にトリップしてくる。
カイン王子と護衛は死闘を繰り広げるが、最後には見事カイン王子が勝利をおさめ、聖女である王女に愛を告げる。そして二人は元の世界に戻り、幸せに暮らすのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「王女と護衛って、桜田さんとお兄さんのジーンさんがモデルなんだ」
「……おにぃは悪役じゃないわ。どうせなら、この助けに来るカイン王子にしてよ」
「え~~ジーンさん茶髪でしょ? 僕としては金髪の王女には、金髪の王子が似合うと思うんだけど」
「え?」
「桜田さん、本当は金髪でしょう。染めてるんだよね?」
笠原くんが私の髪に触れてこようとしたので、はねのける。
どうして知ってるの? ……食堂で抜け毛を取られたあの時?
「桜田さん、花のアザはないの?」
「……」
「お兄さん、どこかに【聖女殺しの剣】を隠してたりして……」
ぞっとして両腕に鳥肌が立つ。
「アリ~。おまたせ~」
のんびりした亜依の声が教室にひびく。
自分と亜依のかばんをひったくり、亜依の元に駆けだす。
「どした?」
「何でもない。早く帰ろう!」
背後で笠原くんが、笑っているような気がした。




