28 『おにぃ』じゃなくて今日から『ジーン』
「もう明日から毎日アリーに会うことはないんだねぇ~」
「わ~ん! 亜依ぃ~悲しいぃ~」
私と亜依は抱き合った。
今日は高校の卒業式。
まだ少し肌寒いけれど、天気に恵まれて快晴だ。
あの騒動のあと、音大を完全にあきらめた私は猛勉強の結果、大学付属の看護学校になんとか合格することができた。
苦手な英語の勉強は特に大変だったけれど、看護師になっておにぃに依存する人生にならないようにしたい。
おにぃと私はたった二人の異世界人。
この地球には親も親族もいない。
しっかり生きていく力を身に着けなければ!
おにぃはと言うと、あっさり格闘技選手を辞めてしまった。
「元々、お前を守るために戦闘力を上げたくてやっていただけだし、あのケガで肩の調子も良くないからな」
そして、今、高卒認定試験のために真剣に勉強している。
おにぃは私を養うため、高校進学をあきらめた。
「別にあの時は勉強に興味が無かったんだ」なんて言うけど、本当は勉強がしたかったんだと思う。さらに予備校にも通って、大学受験にも備えている。
勉強に煮詰まったら、バイクに乗って二人でツーリングに出かける。
最近の趣味は釣りらしくて、一人でふらっと出かけて、新鮮な魚を持って帰ってくる。
そう、私を家に置いたまま出かけちゃうのだ。
かつて何もなかったおにぃの部屋には、勉強道具や釣り道具が並び、おにぃの性格上整理整頓はされているが、ずいぶんと賑やかになった。
そのことが凄く嬉しい。
おにぃには、もっと人生を楽しんで欲しい。
門の前にはスーツを着たおにぃが待っていた。
「卒業おめでとう。ほら、そこに立って」
門に立てかけてある『卒業式』の看板の前に、亜依と二人で並ぶとおにぃがスマホで写真を撮ってくれた。
周囲の学生や保護者たちがおにぃを見て『ジーン・桜田じゃん!』『かっこいい!』『でかっ!』なんて声をあげて注目している。
「ジーンさん! 私が二人を撮りますよ! 並んで下さい」
亜依がそう言って私からスマホを奪って、私とおにぃの写真も撮ってくれる。
やた! またツーショットのお宝が出来た! 亜依ありがとー!
「じゃ、私も親が待ってるんで、行きますね」
そう言って亜依は学校に戻って行くが、すれ違いざまに私に耳打ち。
「おにぃじゃなくて、ジーンって呼んであげなよ」
彼女には異世界の話しは出来なかったけど、私とおにぃは兄妹じゃないことは打ち明けた。
亜依が笑顔で『ヨカッタネ』と口ぱくをする。
「何か食って帰るか?」
「うん」
「何が食いたい?」
前を歩くおにぃの背中に返事をする。
「回転寿司がいいな~~ジーンは何がいい?」
おにぃの耳が赤くなったのが、後ろからでも見えた。




