27 そして日常が戻ってきた
あの病院に運び込まれたおにぃはすぐに緊急手術……その後、2度ほど危篤状態にも陥った。
管だらけで意識不明のまま2週間、ようやく今朝、意識が戻った。
心配で心配で、飲み物すら喉を通らなくて、ろくに寝れなかった私は号泣しておにぃにすがりついたあと、気を失ってしまった。
そして今、自分はまだ口から食事がとれない癖に『食え食え』とうるさいおにぃの枕元で、コンビニのサンドイッチを食べているところだ。
そこに、黒ずくめの人が病室に入ってきた。
「兄を助けて頂きありがとうございました!」
私は深々と頭を下げた。
本当に感謝しかない。
あの電話のあと、すぐに車で山まで駆けつけてくれたのだ。
その車にお医者さんも連れてきてくれて、途中でおにぃの心臓が止まった時、心肺蘇生をしてくれたから助かったのだ。
「あぁ。えぇよ。えぇよ。しかしさぁ~異世界人ってバケモン? 死んで当たり前のケガ…肺に穴も空いとったし、致死量の出血量やったんやで?」
「異世界人みんながそういう訳じゃないと思う。俺は過酷な労働現場用の最下層の奴隷だったから、特別頑丈に作られている。遺伝子操作された戦闘奴隷から繁殖されたからその血のお陰なんだろう」
おにぃのその言葉に、生い立ちを想像して心が締め付けられる。
「ふーん。せやから姫ちゃんの手ぇは治らんかったんか」
【聖女殺しの剣】で手の甲の神経を断絶させてしまったが、普通に生活する分には問題ないようには治療してもらえた。
だが、今までのようにピアノが弾けるほどではないそうで、有名な先生に手術してもらえれば完治する可能性もあるとは言われたが、断った。
「手術する金はあるって言ったんだが……」
「いいの! これで辞める踏ん切りがついたんだから」
音大に行こうかどうしようかと悩んでいる時点で、その程度だったって事よ。
「それで、もう敵は……異世界人は姫ちゃんを殺しに来ぇへんのか?」
「あぁ。目印が無くなったからな」
おにぃはそう言って私の左手を見た。
「異世界は無限にあるんだ。目印なしにこの世界を見つけるのは、宇宙で一つの星を見つけるのと同じくらい難しい。つまり不可能だ。」
おにぃの意識が戻った1週間後、病院から警察に連絡を入れてもらった。
ベッドに横たわるおにぃは警察の事情聴取で、大量出血による意識混濁、そのため行方不明の間の事は記憶にないと……記憶喪失のふりをした。
そして私は目隠しをされ監禁、犯人を一切見ておらず、知らぬうちに眠らされ、左手の大けがを負ったという話しで押し通した。
しばらくは某国拉致説、海外マフィアの抗争に巻き込まれたなど、さまざまな説がマスコミを賑わしたが、3カ月もすると忘れ去られ、日常が戻ってきた。




