26 アリーをおいて死にたくない!【SIDEジーン】
「や…めろアリー…」
必死に地面に這いつくばってアリーの足をつかむ。
追手の死体と共に肩を突き抜けた剣が消えたせいで、出血が止まらない。
アリーが近衛兵を警戒しながら、大声で叫ぶ。
「私はおにぃから離れないもん! ずーっとずーっとおばあちゃんになるまで側にいるんだから……だって大好きなんだもん!」
あぁアリー…
俺の愛。
俺の永遠。
俺の人生の全て。
この地球でたった二人の異世界人の俺たち。
俺だってお前の側にいたい。
だってお前が赤ん坊の頃からずっと、俺たちは一緒だったんじゃないか!
アリーが目を閉じ、剣を持つ手に力が入ったところで、知らない日本人が【聖女殺しの剣】』で彼女を切りつけてきた。
アリーの瞳が輝く。
俺が教えた体術をそいつの腹におみまいし、すばやくそれを取り上げ……
「あんたたちの思い通りになんてさせない!」
アリーは地面に左手を置き、その甲に、聖痕に、【聖女殺しの剣】を突き刺した。
パシュ!
何かがはじけるような音がして、剣が激しく光り輝く。
あまりの眩しさに目をつむるが、それは一瞬で……
「いたぁあああい!」
アリーの悲鳴が聞こえた。
あ~あ~あんなに深く突き刺して……あそこまでしなくて良かったのに…そりゃ痛いだろう。
だが、手の甲の傷口から血が噴き出すだけで、あの聖痕はすっかり消えたようだ。
「あああああ! なんて事を! なんて愚かなことをするんだ! このクソ女! 聖女だからお前には価値があったのに! 聖女のお前を妻にしなければ庶子の私が王になることを信者が認めんだろうが! このバカ者が!」
狂ったように兄王子がその黄金の髪をかきむしる。
「許さん! 許さんぞ…」
血走った目がアリーをとらえ、じりじりと近づいてくる。
アリーに危害を加えるつもりか! させるか!
「…いいん…ですか…こんなところ……いて」
呼吸が苦しくてたまらないが、可能な限りの大声で王子に声をかける。
「聖痕は……次の継承者に…移りました……よ?」
「なに!? その【聖女殺しの剣】で聖痕を消滅させたら、聖女はいなくなるのではないのか?」
「いえ…【聖女殺しの剣】はその名の通り、本人を生かしたまま……『聖女が死んだこと』にするのです……だから聖痕は……次代に継承されます」
ドカドカと王子は近づき、俺の髪を鷲づかみにして問いただし始める。
よし。話しに食いついたな。
「先の内戦で経典は全て灰になった。聖女継承の記録も全て失っている。何故お前がそんな事を知っているんだ」
「……私は姫君の母上、聖女様の下男を……していたのですよ? ……神殿の全ての書物を読んで……います」
文字の読めない俺に、『どうせなら経典を教科書に字の勉強しなさい』と聖女様が言って下さったので、神殿の図書館にあった経典と古書は、ほとんど読んだのだ。
「…次の継承者とは誰だ?」
「…姫様の次に……聖女の…王家の血が濃い…未婚の女性は誰ですか?」
「…次は――次は――モントルー伯爵に降嫁した叔母の娘…ナーディアだろうか」
「では……その方でしょう…その方には…すぐに求婚者が殺到するでしょうね…いいん…ですか? 出遅れて…」
そして小さな声で付け足してやる。
「……異世界トリップにはタイムラグが……あるんですよ……今すぐ戻っても向こうでは1週間……たってるかも……」
本当は1日だけどな。
「くそ! おい、すぐに戻るぞ!」
そういって王子たちはすぐさま姿を消した。
血を分けた妹に別れの挨拶もせず、実にあっさりと。
とにかく助かった。
だが、この身体は時間の問題だ……
アリーをおいて、死にたくない!
諦めたくない!
だから俺は足をかく。
やっと、やっと好きだと言えるんだから!
「で…でん…」
呼吸をすると、胸からゴロゴロと音がする。
肺に血が溜まってしまったか……
すぐに俺の要求を察したアリーは泣きながら電話をかける。
「助けて下さい! おにぃがまた撃たれて…お願い、助けて! 助けてぇ! おにぃが死んじゃう!」
その叫び声を聞きながら、今度こそ俺は完全に意識を失った。




