25 怒りで人を殺せるなら焼き殺してやりたい【SIDEジーン】
「いやあああああ!」
そこでアリーの悲鳴があがり、剣が刺さった逆の肩が暖かいものに包まれる。
追手は一瞬驚いて目を見開いたが、すぐに脇から小刀を取り出し、アリーを狙って振り下ろしてきた。
くそっ!
アリーを引き倒して何とか避けることができたが、思いっきり地面に身体を打ち付けてしまう。
「ぐうっ!」
一層、剣が肩に食い込み、激痛のあまり、どっと汗が噴き出す。
だが、まだだ、こいつを殺すまでは意識を失えない!
敵を見ようと頭を上げたところで、あたりに突然まばゆい光が走った。
するとそこにはピカピカに磨かれた甲冑を着た集団が立っていた。
遠い記憶にあるその姿は、故郷ヴィーナ国の近衛兵の姿だ。
アリーを助けに来た……援軍なのか??
「聖女を害する者だ。殺せ!」
真ん中にいた金色の甲冑を着た男が、号令をかける。
すると周りの近衛兵たちが、あっけに取られて立ったままだった一人の追手を、全員の剣で串刺しにした。
本当に味方なのかと目を離さずにいると、号令をかけた金の甲冑の男がその頭の甲冑を外した。そうすると剣をしまった残りの近衛兵も頭の甲冑をはずした。
皆、銀髪や金色の明るい髪色を持っていて……ひと目で分かる。ヴィーナ国の貴族階級の男たちだ。中でも号令をかけた男の髪色はアリーに似た黄金色、この男が…王子。
アリーの本当の兄か。
兄王子は何やらアリーに話しかけているが、彼女は無視し、俺の心配をしてくれている。
「そんなのどうでもいいから! 早く病院に連れて行ってよ!」
「…なんと! なんと野蛮な物言い……! 即、アレクサンドラにブレスレットをはめよ!早々に戻り聖女としての教育をし直さなければ!」
ガチャガチャと甲冑を鳴らして近衛兵が近づいてくる。
だんだん目が……あたりが暗くなってきた。重度の貧血だ。
俺はもうだめだ。
命をかけて守ると誓ったのにこのざま……俺が死んだらアリーは追手にすぐに殺されてしまう。
それだけはダメだ!
こんな奴にアリーを託したくはないが、もう手がない。
「いけ……」
アリーの顔を真剣に見つめ、大きく頷いていてみせる。
すると彼女は、それはそれは恐ろしい顔で、俺を睨みつけてくる。
ははは、怒ってる。怒ってる。
あぁ…可愛いなぁ……
するとなんとアリーは俺の剣を拾い、その首すじに当て、命と引き換えに俺もヴィーナ国に連れて行くことを要求しだしたのだ。
故郷に戻るのはいいが……永遠の別れになるのは同じなのに。
「アレクサンドラを守った功績で、身分を上げてやりたいがその髪色ではな……お前は知らぬだろうが、こちらでは暗い髪色の者は『人間』とは認められておらん。生まれながらの最下層の奴隷など、王宮の下働きにも出来ん。……と、お前は分かっておるだろう?奴隷男よ」
そうだ。
こんな風に一緒にいれたのは、異世界だったから。
故郷に帰れば、聖女と奴隷、歴然とした身分差がある。この地球上にも差別は存在するが、ヴィーナ国のそれはこことは比較にならないレベルで、人々の心身に沁みついている。
こんな近くでお前の顔を見るのは、これが最期だろう。
故郷に帰っても、聖女として称えられるお前を遠くから見つめ、永遠に幸せを願い続けよう。
だが戻れば、使い捨ての奴隷など治療されないだろうから、それも無理か……
ところが、そこから兄王子はアリーとの結婚話を始めた。
「腹違いではあるが、確かに血はつながっておる。私との結婚はタブーではあるが、私以外の王族は先の内乱でみな死んでしまった。だから血統を守るためにはお前と子を作らねばならん。」
「気持ち悪っ!」
アリーは大声で拒絶した。
「お前がその奴隷の子を産むなど……茶髪の赤ん坊を産むなどありえん! 虫唾が走るわ! 次代の聖女は金髪でなくてはならん!それには黄金の髪を持つ高貴な私の血がよかろう? 聖女の存在理由は次代に続く黄金の聖女を産んで、女神の恩恵で永遠に国を豊かにする事、それだけだ! 使命をはき違えるな!」
アリーを聖女として神殿に縛り付けるだけでは飽き足らず、子どもを産む道具として利用するつもりか!
俺のアリーを幸せにするつもりはないのか!
許せない…!
許せない…!
怒りで人を殺せるなら、俺はこの兄王子を焼き殺してやりたい!
「は!? あんたの嫁になるくらいなら死んだほうがマシ! 本気だから!」
剣を首筋に当てて、無理やり連れて行くなら死ぬと脅している。
豪胆な性格の彼女の真剣な瞳……アリーは本気だ!
だめだ! アリー!
死ぬな! 死ぬな!
お願いだから……お前には生きていて欲しい!




