24 一発で殺さないと、もうこの身体はもたない【SIDEジーン】
まだまだ続く追手の猛攻に限界を感じ始めていた。
圧倒的な力で殺し続ければやがて諦めるかと思ったが、狂信的な信仰者にはその手は通じないようだ。
現にこうして肩を撃ちぬかれ、手術を受けた俺は3日間ベッドから動けなかった。
剣は腕に覚えがあるが、銃はおいそれと練習できないので、命中率が悪い。
それは追手側にも言えることだろうが、このままではどこまで姫君を守り切れるか……
テレビニュースによれば、俺たちのことを警察も探しているようだし、これ以上この病院にいたら『黒』が俺たちを襲い監禁したと誤解され捕まるかもしれない。
警察はヤクザに容赦がない。
逮捕なんてされたら、叩けば埃の出まくる奴だから迷惑がかかるだろう。もうここから出ようと準備していた時、俺のスマホが震えた。
失踪してからマネージャーの下田を始め、ジムの会長、工務店の社長、友人、マスコミ、警察などたくさんの着信があったが全てブロックしていた。だから知らない番号にも出ずにいたら、留守電に録音が入っていた。
<女神の化身たる妹聖女を兄王子が救いに参られる。奴隷よ従え。>
始めは追手の罠かと思ったが、俺が元奴隷であることは女神側の人間しか知らないはずだ。追手側は戦闘に秀ける俺を護衛騎士だと思っているだろう。
何度もふるえるスマホを誰もいない場所で受けてみた。
『アレクサンドラ様と共にいる奴隷だな?』
もう18年聞いていない、ヴィーナ語だった。
その男は兄王子の命を受け、姫君を探している近衛騎士だと名乗った。
『もうすぐ殿下が聖女様をお救いに参られる。それまで命がけでお守りしろ!これは命令だ』
『……』
『返事!』
『…はい』
『姫様の側にいて勘違いしていないだろうな! 聞いたところによると、随分と姫様はお前を慕っているようだが、お前は汚らしい色の最下層の奴隷だぞ! わきまえろ!』
『はい』
『また連絡する』
プツッと通話が切れた。
平和な日本に暮らしていて、久しくこんな扱いはされていなかった。
そうだった……
あの世界では俺は蔑みの対象で、石を投げられ、汚物をかけられ、触れるのも嫌がられる存在だったことを思い出した。
救いに来るとは、ヴィーナ国に連れ帰りに来るという事。
姫君の母上の聖女様は私に姫君の護衛騎士になれと仰って下さった。だが、その聖女様が亡き今、奴隷がそのような立場になることは、いくら実力があっても無理だろう。
異世界に戻れば、もうアリーとは会えなくなる。
脳裏には赤ん坊の頃から今までのアリーの姿が、走馬灯のように浮かんでくる。
俺はその時がきたら、すんなりとアリーと別れられるんだろうか。
それに貴族たちに蔑まれ罵られる姿を、アリーには見せたくない!
そんなみじめな姿など……!
いっそ、迎えが来たところで、追手に殺されるのがいいのかもしれない。
そうすれば俺は、アリーの心の中で尊敬される兄のまま永遠に生きられる――――
そんなバカな事を考えていたからか、それが現実になってしまった。
別荘から逃げるとき、背中にまともに一発くらってしまった。
なんとか山中に埋めたシェルターに逃げ込めたが、まずいかもしれない。
肺がやられたのか息が苦しい。
血を失い過ぎたのか意識も朦朧としてくる。
銃声が聞こえて、急に意識がはっきりした。
どうやら気絶していたらしい。
シェルターの蓋が開いていて、外からアリーの悲鳴が聞こえてくる。
くそ!
動けこの身体!
銃と剣を取り出し、地上に飛び出たとたん、ぶっ放す。
一人を銃で仕留め、後は剣で力任せに首を飛ばす。
一発で殺さないと、もうこの身体はもたない…
残り一人になったところで血で足が滑ってしまった。相手の剣は俺の心臓を狙っていたが、とっさに身体をひねって何とか位置をずらす。
しかしその剣は、深々と肩を突き破った。




