02 どこかに、おにぃ並みにカッコイイ人はいないのかな
月初めの二人の休日が重なった日。
「アリー」
「はーい」
おにぃに呼ばれてリビングに行く。1カ月に1度の毛染めタイムだ。
「後で頭を洗うからコンタクトもはずせ」
洗面所でカラコンをはずす。
あらわれた瞳の色は、雲一つない青空のようなセルリアンブルー。
寝るまでずーっとブラウンのカラコンをつけているから、この色の方が違和感がある。
ついでにメイク落としで眉墨とマスカラを落としたら、赤みがかった金色が出てくる。
そう、これが私の本来の髪色と瞳の色。
おにぃが慣れた手つきで、私の髪を市販の毛染め液でブラウンに染めていく。
「もう今さ~ブリーチして金髪にしてる人もいるからさ、染めなくてもいいんじゃない?」
私たちは両親の事を全く知らない。
でも目鼻立ちと髪色から私たちは日本人じゃない、外国人のはずだ。
私とおにぃは児童養護施設で育った。
周りの子はみんな黒髪で、おにぃ自身もブラウン……みんな暗い色で金髪は私だけ。
そのせいでいじめられて泣いていたら、おにぃが染めてくれるようになった。
以来、おにぃは目立たない方がいいからと、ずーっとブラウンに染めて、ブラウンのコンタクトをつけるようにと言った。
私はただ、おにぃと同じ色になれたのが嬉しかった。
「高校はダメだろ」
「じゃあ、卒業したら!」
「……まぁ、ここまできたら大丈夫か……いいだろう」
「コンタクトもはずしていい?」
「いいぞ」
「やた!」
「よし全部塗れたな、こっから30分な」
液剤を塗り終わったおにぃが、手袋をはずし片付けを始める。
「髪切った方が染めるの楽じゃない?」
今の私の髪の長さは背中の真ん中あたりだ。
「そのくらいの長さにしとけ。長い方が似合ってる」
はわわ~
おにぃがそう言うならもう平安貴族並みに、地面に引きずるまで伸ばしますがな~~!
「はああ~」
「何、そのため息」
ここは高校のカフェテリア。
声をかけてきたのは、親友の島田 亜依。
同じ音楽科ピアノ専攻で、『アリー』と『亜依』って名前が似てるって、入学すぐに意気投合。
お昼もいつも一緒に食べている。
「おにぃが尊い……」
私の手に握られたスマホの待ち受けには、高校の入学式で撮ったおにぃとのツーショット。
「まだ病気は治らんか」
亜依があきれ顔でランチをつつく。
「そう病気。不治の病なんだ私……」
私の秘めた思いを亜依には打ち明けていた。
亜依は気持ち悪がらず、こうして愚痴を聞いてくれる。
「まぁ、あんなカッコイイ人が兄なら、トチ狂うのも分からんでもない。男見る目のハードルも上がっちゃって、高校生なんて雑魚にしか見えんよな」
「そーなの! そーなの!」
「アリーって男どもに人気あるのに、ホント残念物件……」
「あ~どこかにおにぃ並みにカッコイイ人いないのかな。そんな人がいたらこんな不毛な思い、忘れられるのに」
「いたとしても、あんなにアリーのこと思ってくれる人いないでしょ?」
「……うん」
「こら! ニマニマ笑うな」
「へへ……でもこんな思い、いつまで抱えていなきゃいけないんだろう。どうして妹に生まれちゃったんだろう」
「……いつかは離れなきゃね」
「……うん。おにぃが結婚なんてしたら、相手を意地悪しまくる未来しか見えないもん! 結婚式なんてぶち壊しそう……そーしておにぃに嫌われて……あぁぁぁ想像するだけで死にたくなる!」
「そんな事をしそうになったら、あたしが全力止めてやるから。そんな事絶対させないから安心しな」
「亜依~~~~」
抱き合っている私たちに、上から声がかかる。
「悪い……そこもう空きそう?」
学食のトレーを持った、同じ音楽科の笠原くんが立っていた。
カフェテリアは満員で、たくさんの生徒が席を探してウロウロしている。
私と亜依はもう食べ終わったのに、いつまでも席を占領していた。
「ごめん! もう出るね」
謝りながら二人で立ち上がると、笠原くんの手が私の肩にふれる。
「髪の毛がついてた」
「……ありがとう」
足早に出口に向かうと、亜依が耳打ちしてくる。
「何あれ、キモ! 席をどかすとかもありえないし~~笠原、アリー見つめてんのよく見るから気があるのかも。気を付けなよ?」
「……うん」
振り返ると笠原くんは私が座っていた席につき、ランチを食べ始めていた。




