14 そして俺は追手を殺し続けた【SIDEジーン】
俺はすぐに総合格闘技に転向した。
鍛錬にもなるし、金にもなる。
これまでに手に入れた金は、もし俺が追手に殺されても、姫君が暮らしていけるように貯めてある。
アレクサンドラ様は成人の18才になった。
もうすぐ高校も卒業する。ようやく保護者としての一区切りがついたと思う。
聖女様そっくりに成長した容姿に、華奢だが均整のとれた肢体。まるでゲームの中のエルフのような美貌は、世の男どもが放ってはおかないだろう。
いつか嫁に出す日がくるのかと、俺の存在意義そのものの姫君を手放す日がくるのかと、激しい喪失感を感じるが、つまりそんな日が来るってことは追手が来ないってことで、実に喜ばしい事じゃないかと自分を納得させたりもする。
14才位までは無邪気に抱き着いてきた姫君。お兄ちゃん大好き!って言いながら見せる無邪気な笑顔……
16才になると、『おにぃ』って呼ぶようになって、言動はぶっきらぼうになったけど、側によると真っ赤になって照れていた。
そして18才の今、好意をよせてくれている。俺を意識しまくっていて、本当に分かりやすくてクソ可愛い。
もういっそ、全てをばらして俺も好きだと答えたくなる。
実は兄妹じゃないんだよって、言ってやりたくなる。
でも、彼女のその左手にある聖痕が俺の心にブレーキをかける。
アリーはアレクサンドラ聖下で、俺は奴隷あがりのただの護衛。
聖痕があるかぎりアリーは聖女様であり、俺が生涯お守りすると誓った主人なんだと。
そんな事を考えていた俺は、すっかり平和ボケしていたんだろう。
脳内お花畑にいた俺たちの前にとうとうやってきたのだ、異世界からの追手が……
初めはケガをさせて異世界に逃げ帰らせるつもりだった。
だが、奴らは執拗で、しかもこの平和な日本で刃物を振り回して攻撃してくるのだ。
何とか人目にふれない場所に誘導して、相手をしているうちに、とうとう殺してしまった。
生まれて初めての殺人に、アドレナリン全開の身体からは震えが止まらない。
狭い日本で殺人を犯し続ければ、いずれ警察に捕まるだろう。俺が刑務所に入れば姫君はどうなる? 追手からひとりでは逃げきれないだろう……
絶望的な状況に混乱していると、突然奴らの死体はもちろん、返り血までもが全て消えてしまった…!
「この世界の異物だから、死んだら元の世界に引き戻されるのか?」
ならば、遠慮なく殺れる!
それからはサバイバルナイフを使って急所を狙い、一太刀で殺すようにした。
さらに念のため、ヤクザを通じて拳銃も手に入れた。接近戦は刃物が有利だが、遠方からの攻撃には銃が有効だろう。
そうしてしばらく追手を追い払い続けたが、初めは偵察隊のようで2,3人だったのが、だんだん人数が増えて来る……そろそろ本格的に逃亡しなくてはいけないか。
楽しそうに高校に通う姫君には申し訳ないが、時間の問題だ。
隠れ家は複数用意している。金はあるし、パスポートもある。
そして今、自宅に急襲され、マンションから脱出し、隠れ家のひとつに姫君といる。
モソモソとサバ缶と赤飯の缶詰を食べる姫君には、異世界にいた頃の話しと何故自分の命が狙われているのかだけを説明した。
「じゃあ、私の髪を染めたのもブラウンのコンタクトをさせたのも目立たなくさせるため?」
「はじまりは金髪のせいで、児童養護施設でいじめられたからだが、そうだな、なるべく目立たないようにするためだ。それに同じ髪色の方が兄妹らしいしな」
「え~海外に住めば良かったじゃん。いっぱい金髪いるよ」
「……お前、壊滅的に英語ができないだろ?」
「あ…」
壊滅的だが行ってしまえば、どうにかなっただろう。
ただ、毎日楽しそうに学校の出来事を話すアリーに、俺が躊躇しただけだっだ。




