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無人島サバイバル★漂流日誌(略)  作者: 名久井悟朗


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Cast Away

「──そこでワシは言ってやったんじゃ『いいえ、かわずでございました』とな」

「アッハッハッハッハッ!!」

 エリちゃんのどこかで聞いた事のある小話を聞きながら、俺達は彼女が拠点にしているという場所を目指していた。

「ほれ、チョーヘイも笑ってもいいじゃよー?」

「古典落語はわからん!せめて新作にしてくれ」

 何でも小川が近くに合って水には困らず、丘の上だから水害にも強いらしい。

 あと、エリちゃん以外にもカナデという少女がいるらしい。

 ふむ。

 俺以外全員女の子って最高じゃね?

 なーんて思えるほど頭ショッキングピンクな人生は歩んでいない。

 女所帯に男一人とか、下手すると「男なんだからやりなさいよ!」「か弱い女子に力仕事させないでよ」とか言われてパシリにされる奴隷人生まっしぐらだろ。

 だが残念だったな!

 俺よりアンの方が力持ちだし、エリちゃんみたいな水泳(?)能力もない!!

 無人島で生き延びるスキル何一つ持ってないぞ俺は!

 そんな奴にやらせる仕事があるかな!!!

 無人島で俺に出来る仕事あるかなぁ……

 他に一人ぐらいいてくれないかなぁ。

 俺より少し身長が低くて、俺より少し頭が悪くて、俺より顔が悪くて、俺よりチ●コが小さい男が一人くらいいてくれると精神衛生上いいのだが……

「お~いチョーヘイ。見えてきたぞ~」

 ボーっとしていた俺にエリちゃんの声がかかった。

 いつの間にか目的地は目の前だったようで俺は顔を上げた。

 そこは、磯場を抜け少し曲がった先の浜を南に登った先、少し小高い丘の上にあった。

 木の柱と椰子の木の葉を組み合わせた小さくも雨風を十分に防げるシェルター。その入り口近くには数匹の魚が開いて干されている。

 排水の為だろうか?掘り下げられた溝のような物が周囲を取り囲んでいる。

 入り口近くには簡易的な竈があり、今も松の葉や枝がくべられ火が燻ぶっている。

 更に見渡せば丘の南側の下には小さな小川がある。

「ようこそ我が家へ。さっそくで悪いんじゃが、そこの小川で水を汲んできてもらえんかのぅ?」

 振り返るとエリちゃんが空のペットボトルを俺に差し出している。

「招いて早々客を働かせるのか?」

 俺がそう答えながらそれを受け取ると、彼女はクツクツと笑いながら言った。

「そう言わんと、茶と茶菓子を用意してやるでな?」

「よっしゃ任せろ!」

「僕も行くッス!」

 俺はクルリと小川の方を向くとアンと一緒に丘を下った。

 別に本当にお茶や茶菓子を期待しているわけではないが、こういう状況には心を休める冗談が必要だ。

「お茶菓子ってなんスかね。僕しょっぱい系がいいッス!」

 アンの方は本気で期待しているようだ。

 小川の近くまで下ると増水の跡か、意外な所まで茶色い泥の線がついている。

 あの拠点までは到底届く事はないが、大雨の時は意外と増水するのかもしれない。

 上流を見ると小さな滝もあり、水量は多くないが流れはそこそこある。

「あんまり魚いないッスね~」

 アンに言われて水中に目を凝らすが、確かに魚の影は見えない。

「あ、よく見たらメダカっぽいのがいたッス!アレは泥鰌?ハゼの仲間っぽいのもいたッス!目が慣れてくると色々見えるッスね~」

 ……俺には見えんが、どうやら小さな魚はいるようだ。

「ヤマメはいないのか?」

 昔親父に連れて行ってもらった釣り堀で食べた塩焼きが美味かった思い出があるのだが、近所のスーパーでは滅多に売っていない。

「ヤマメは見えないッスね~」

 どうやらヤマメはいないらしい。

「残念だ。実はヤマメが好きなんだが」

「僕も好きッスよ。ヤマメの刺身!」

 え?ヤマメって刺身で食えるの?

「さ、刺身だったら俺はカツオがいいなぁ」

 ネギとかミョウガとか薬味とタレをたっぷりかけて食いたい。

「カツオもいいッスね~。僕はハガツオのたたき食いたいッス!」

 え?カツオって種類あるの!?

 カツオだけじゃないの?

 カルチャーショックというか、後輩から知識マウントを受ける会話を楽しみつつ水を汲んで拠点まで戻るとエリちゃんは竈の火を大きくし、一斗缶で作ったフライパンのような物で小エビを炒っていた。

「ほい水」

「おお、助かった。ちょいと待っとれ、今から茶を沸かすでな」

 水入りのペットボトルをエリちゃんに渡すと、彼女は小エビの乗ったフライパン(仮)を火から遠ざけ受け取った水を大きなペットボトルで作った浄水器へと注いだ。

 浄水器の下には容器があり、俺達が汲んできた水を注ぐ前よりぴちょんぴちょんと水が滴り貯まっている。

 彼女はそれを缶で作った鍋に注ぐと火にかけ、そこに何か葉を加えた。

「え?本当にお茶?」

「正確には熊笹茶じゃな」

 エリちゃんはそう言うと空き缶を加工して作ったマグカップ(?)にそれを注ぎ、炒ったエビを木の葉に乗せ俺達の前に差し出した。

 はたから見れば、少々アウトドアすぎる幼女のおままごとだが、香ばしいエビの香りが食欲をそそる。

「これめちゃくちゃイケるッスね!」

 横を見れば、アンが美味そうに小エビを頬張っている。

「どれ俺も」

 俺も2匹ほどまとめて摘まみ口に放り込む。

 水分が飛び、小さくも香ばしくエビの旨味が凝縮されたそれに程よく塩味が効いている。

 これはあれだ、止められない止まらないヤツだ。 

 まぁ、量が少ないのですぐに終わるのだが。

「ブーーーッ!!」

「っ!?」 

 早々にエビを食べ終えたアンが突然口に含んだ熊笹茶を噴出した。

 当たりは小エビだけで茶の方は失敗だったのか?

「めっちゃ熱いッス~」

 なんだ、ただの猫舌か。

 そういえば、昨夜もかなり熱がって食べてたな。

「で、味は?」

「熱くてわかんないッスよぉ」

 舌を出しヒーヒー言うアン。

 役立たずめ。

「ほれ、そんなに焦って飲むからじゃ、チョーヘイを見習ってもう少し落ち着いて飲まんか」

 エリちゃんはそう言いながら、ハンカチでアンの顔を拭いてやっている。

 いやまぁ、ただ尻込みしていただけなのだが。

 仕方ない、これは俺が毒見しよう。

「ずずっ……笹?」

「だから、熊笹茶と言っておったじゃろ?」

 エリちゃんはそうケラケラ笑うが、いや確かにそう言ってたが。

「わずかぁ~に甘みを感じないでもないが、すんごく笹感が強いだよ」

 笹というか、草?枯草っぽくもある。

「不味いか?」

 エリちゃんが眉を顰め少し不安そうに言った。

「不味くはない。けど、草感が強くて驚いた」

 そう答えると彼女は気を持ち直したのか、どことなく嬉しそうに言った。

「高血圧や動脈硬化予防とっても体にいいんじゃよ」

 年寄りか。

 まぁ、小エビにも合うし悪くはないのでゆっくりと飲もう。。

「あーーっ!それ私のコップっ!!」

 突如聞いた事のない声が響き、その方へ振り向くと目の前にバレーボールがあった。

「痛つっっっあっーーーっ!?」

 思い切り鼻に当たり跳ね返るボールを追う様に鼻血が弧を描いた。

「エマ!この変態が私のコップに発情して鼻血出しててキモイっ!!早く〇して!」

「誰が変態じゃボケーーっ!てめぇの投げたボールのせいじゃろが!!」

 俺にボールをぶつけたであろう気の強そうなツインテールの少女が、コップを回収しエリちゃんの後ろに隠れ俺を指さして警戒のポーズをとっている。

「え、何私の投げたボールに発情したのっ!?キモっ!!」

「そんな難解なフェチズム持ってねぇよっ!!」

「じゃあ何、ボールをぶつけられて喜んだのっ!?キモッ!」

「違うわボケが!ぶつけられたから鼻血が出たんじゃっ!!」

「やっぱり興奮してるじゃないっ!!キモいから息しないでっ!!」

「そうじゃねぇっつてるだろがいっ!!」

 頭のおかしいツインテールと睨みあっていると見かねたエリちゃんが間に割って入ってきた。

「まてまてまて、チョーヘイが奏のマグを使ってたのはワシのせいじゃ。数が足りんで使わせてもらったんじゃ」

 そう謝るカナデと呼ばれたクソツインテールは納得できないのか、手に持ったマグカップを見て舌打ちをした。

「これもう駄目ね。海に捨てなきゃ」

 そこまで言うか暴れツインテール。年齢考えた髪型しやがれ。

「それは言いすぎじゃ、それにボールを投げつけたのも奏が悪い。ワシも勝手に奏のマグを使ったのは謝るから、奏もチョーヘイに謝るんじゃ」

 エリちゃんに言われカナデと呼ばれた暴力ツインテールは、渋々といった様子で俺を睨んだあと吐き捨てるように言った。

「悪かったわよ変態」

「お前の国ではそれが謝罪になるのか?」

 反省の欠片も感じんぞ。

「何よ!せっかく謝ってあげてるのに!」

「アレは謝罪じゃねーっつてんだろが暴力チンパン!」

 ガルルルっと噛みつかんばかりの勢いのチンパンツインテと睨みあっていると、次の瞬間頭部に衝撃が走った。

「「ギャンッ!?」」 

 正面を見れば、奏も同じように頭を抱えて目に薄っすらと涙を浮かべている。

「お、俺は悪くねぇぞ」

「喧嘩両成敗じゃ」

「本当に両方成敗しなくてもいいじゃない……」

「そうでもないと収集つかんじゃろ」

 まぁ、あのままじゃいつまでたっても終わらなかったのは確かだ。

 感情的になった少女相手に理屈は通用しないし、それを理解していても泥を被れるほど俺は人間が出来てはいない。

 遺恨を残さず喧嘩を止めるには、あれが最適の答えだとはいえ……

 衝撃が走ってもすぐには殴られたと気づけなかったほどなのに痛みはたいしてない。

 何者だこの幼女?

「さて、チョーヘイも奏ももう喧嘩せんな?」

「「うっす」」

 俺も奏ももう喧嘩する気は失せている。

 その心からの返事を聞き、エリちゃんはニコリと笑った。

「よし、それじゃあ三人とも自己紹介から始めるんじゃ」

 挨拶は大事、ニンジャもそう言っている。

「俺チョーヘイ、こっちアンよろしく」

「よろしくッス!」

「手抜きじゃない?」

 喧嘩する気はないが、いきなりバレーボールをぶつけられた恨みは忘れん。

 まぁ、馬鹿正直にそんなこと言わんが。

「この島に来て三度目の自己紹介なんだよ」

「そのくらいでサボるな。挨拶は大事って古事記にも書いてあるらしいわよ」

 どこの国の古事記に書いてあるんだ。

「まぁいいわ。私はあんたより大人だからちゃんとしてあげる。文村奏フミムラ カナデよ。特別に文村様って呼ばせてあげるから感謝に咽び泣きなさい。あ、アンちゃんはカナデお姉ちゃんでいいわよ」

「よろしく(くたばれ)暴力チンパン」

「ご褒美に踏んであげるから五体投地なさい」

 俺と奏は再度睨みあい、エリちゃんが溜息を吐いた。

「おぬし等……」

「あっっ!」

 突然アンが間の抜けた大声を上げた。

 三人の目が彼女に集まる。

「どうしたんじゃ?」

「エマって誰ッスか?」

 エマ?

 そう言えば、チンパン奏がそんな名前を一回言ったな。

「あ」

 今度はエリちゃんが間抜けな声を上げた。 

「ワシ、エリザベス・エマニュエル。永遠の一七歳♪」

 ああ、奏にはエマニュエルって名乗ってたのか。

「気分で偽名名乗るのやめろよ」

「本名だぞ♪」

 なんちゅうセンスだ。

「なるほど!改めてよろしくッス!」

 アンは信じているようで、本気でこの娘の将来が心配になった。

「ちょっとチョーヘイ」

「なんだ?」

 以外にもカナデが俺を手招きしてシェルター横の集められた漂着物を一角を指さした。

 そこには、映画にもなった有名なエロ小説と怪我した犬猫が傷口を舐めないように首に巻くアレが落ちていた。

「なんとも安直な……」

「気をつけなさい。下手するとアンタ、ウィルソンとか名付けられるかもしれないわよ」

 何の事だと首をかしげると先ほど足元に俺の顔にクリーンヒットしたバレーボールが転がっていた。

 そして、その表面に付いた血の跡は何処となく人の顔に見えた。


読んでいただきありがとうございました。

ブクマ・評価してクレメンス


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