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無人島サバイバル★漂流日誌(略)  作者: 名久井悟朗


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スネェーーークッ!!2


 昼食付の大休憩を終え、一同ゆっくりと立ち上がって荷をまとめる。

 一旦帰って再度山頂を目指そうという意見も出たが、高い木に登ったアンの「多分半分以上来てるッスよ」との意見により、とりあえず今のところまだ山頂を目指す事に決まった。

 歩き始めてすぐ、大分元気の回復した奏が顰めた顔で話しかけてきた。

「アンタよく虫なんて食べれたわね。しかもあんなニョロニョロしたやつ」

 引くわーっと、冗談半部ではあるが、本当に嫌がった表情で言った。

 俺が糞茶を噴出した少し後、目を覚ました奏は再度叫び声を上げて失神しかけた。

 そりゃまぁ、目覚めてすぐ自分以外全員が、毛虫の串焼きをパクついていれば気を失いそうになるのも仕方がない。

 悪夢のような最悪の目覚めだっただろう。

 ギリギリ気を失わなかった奏は、大騒ぎをして結局彼女は最後まで毛虫を食べず、一人干物を炙って昼食とした。

 もっとも、目の前で虫を食べられてはあまりいい気分ではなかっただろうが。

 正直俺も干物の方がよかったが、貴重な保存食は何かあった時の為に倹約するに越した事はないので我慢した。

「言いたい事もその気持ちもわかるが、何でも食べないと死ぬかもしれんぞ?」

 前方でズンズンと原生林を切り開き、道なき所に道を敷いていく二人は別として、俺達のような凡人はなりふり構っていたらいつ死んでしまうかわからない。

 だから、虫でも何でも食べて少しでも生存確率を高めるべきだと思う。

「さっきも言ったけど私は何と言われても嫌!特にああいうニョロニョロしたヤツは大っ嫌いなのっ!」

 ニョロニョロしたのじゃなければいいのか?

 あと、俺とニョロニョロしたのとではどちらが嫌いなのだろうか?

 ……聞いてみたいが、俺の方が嫌いとかキモイとか言われたら流石に傷つくので止めておこう。

「何か理由でもあるのか?」

 よし、脈絡はありつつも当たり障りのない別の話題でお茶を濁そう。

 きっと「え?キモイじゃん」とか「生理的に無理」とか特にわけのない感情的なりゆうだろう。

 そう言えば、五組の荒川先生なんて温和でいい先生なのに外見だけで女子生徒に「キモイ」だの「ハゲ」だの毛が少ないの毛嫌いされてたな。

「昔蛇に襲われたのよ」

 おや?

 どうせどうしようもない理由だと関係ない事を思い出していたら、意外とちゃんとした理由っぽい流れが出てきたぞ?

「噛まれたの?」

「……噛まれてはいないわ」

「じゃあどうなったの?」

「噛まれなくても、こんっっーーーーな大きな蛇が、こんっっーーーーな大きな口を開けて近寄ってくれば、トラウマになるのも当然でしょっっ!!」

 俺の質問が癇に障ったのか、奏は身体ごと俺の方を向くとキッっと睨んで両手を目一杯大きく広げてその蛇の巨大さをアピールした。

 そんなデカい蛇が日本にいるかと言おうと思ったが、凄い目力で睨まれたので止めた。

 多分、小さな頃の恐怖体験とかで実際よりも大きく思えたとかそんなんだろう。

「……それはトラウマにもなるわな」

 面倒なので適当に相槌を打って誤魔化そう。

「アンタねえ──」

 俺の適当な態度に気分を害したのか、俺の方を向いたまま歩いていた奏が怒りのままに拳を上げようとして突如体ごと傾いた。

「──えっ」

「危ないっ!」

 そう思ったが俺の身体は俺の思いよりも動きは鈍く、倒れる奏に反応して動く事が出来なかった。

 ガシッ!!

 しかし、倒れそうになった奏は違った。

 危険に対する本能か、それともたまたま振り上げた手が当たったのか、俺の服を掴んで引き寄せた。

 そうなるとどうなるか。

 貧弱な俺が奏を支える事など出来ず、二人そろって倒れ込む。

 幸運だったのは、すぐ近くにある程度立派な木が生えていたお陰で、それに寄りかかるような形になり二人そろって転倒は防げた事だ。

 だが問題はその恰好。

 奏の顔が近いのだ。

 木に背中を押し当てる奏と彼女に覆いかぶさるようにしながら木に手を当てる俺。

 所謂壁ドン。

 それも発祥元のネットスラングの方ではなく、メディアで流行った誤用の方。

 一瞬の時間が凄く長く感じる。

 奏の息遣いを頬に感じる。

 気まずい空気だけが俺達の間に漂う。

「──ぁ……」

 殴られる?

 奏が口を開きかけた瞬間。

 ボトッ

 俺と奏の頭に何かが落ちてきた。

 それは二人の頭の間を繋ぐ架け橋の様にぶら下がりながら、ゆっくりと眼前にその鱗に覆われたつるりとした顔を下げて来た。

 へ、蛇だぁーーーっ!?

 大きさはそんなに大きくない。と言うか、大きいシーボルトミミズ程度しかない。

 褐色で淡黄色の斑紋が入った蛇が、俺の方を向いてチロチロと舌を動かしている。

 お、落ち着け。KOOLになるんだ。来芦長平っ!

 小さいし地味だし怖くないっ!

 こ、こんな蛇なんて怖くないぞっっ!!

 それに俺は知ってるんだっ!

 日本に毒蛇はマムシしかいないって!!

 つまりこいつは毒蛇じゃない。

 マムシがどんな見た目か知らないけど……

 でも多分大丈夫。

 蛇嫌いの奏が騒いでないんだからきっとマムシじゃない筈!

 そう思って目の前の奏に目をやった。

 奏はダラダラと汗をかき、ピクピクと震え、ペカペカ顔色を赤や白に変えて、グルグル回った目でゆっくりと口を開いた。

「きゃあああああああああああっっっ!!!!」

 限界を振り切った恐怖が、猛スピードの張り手となって蛇を直撃した。

 一瞬遅れ掠っただけの鼻の頭がヒリヒリとする。

 引っ叩かれた蛇は何処へ消えたのか?

 振り向くと近くの木にぶつかり伸びている。

「きゃーーーっ!?ぎゃああああっ!!!」

「一体どうしたんスか?」

「二人とも大丈夫か?」

 騒ぎを聞きつけたアンとエリちゃんが駆けつけてきた。

 二人は未だキャーギャー叫び手をブンブン振り回す奏と鼻の頭を赤くして僅かに彼女から身を引いている俺を見て、疑わしい視線を俺に向ける。

 待って、そういうのじゃないから。

 確かに勘違いされそうな状況だけど、この島に来てからの俺と奏の関係的にあり得ないから!

「いやこれは──」

「エリちゃん助けてっ!蛇に噛まれたのっ──」

 言葉の途中で奏はフッと力が抜けて崩れ落ちそうになった。

 その瞬間エリちゃんはすぐさま動いた。

 一瞬で奏の下に来て彼女を受け止めると噛まれたという手を取りじっくりと観察し、水筒のお茶で傷口を洗っている。

「私はもう駄目ね……」

 奏では地面に座り込むと力なく項垂れ呟いた。

 今まで奏からは憎まれ口と八つ当たり、それから理由のない暴力が俺を襲ったが、それでも彼女は美少女で俺は男だ。

 たとえ性格が螺旋階段以上に捻れていようと、こんな寂しい姿は見たくない。

 俺は空いた彼女の手を取る。

「大丈夫だよ。アレはマムシじゃないし死にゃしないよ」

 多分。

 しかし、奏は力なく首を振った。

「アレはヒバカリ、猛毒よ」

 ヒバカリ?

 聞いた事がない名前だが……

「ヒバカリ、聞いた事あるッス!」

 知っているのかアン!?

 振り返るとさっき奏が叩き飛ばした蛇を手にアンはこちらにやってきた。

「ひっ!」

「大丈夫ッス。もう死んでるッス」

 そう言って持ち上げた蛇は確かに力なくだらりとしている。

「で、そのヒバカリってのは?」

 俺の問いにアンは小さく咳払いをした。

「噛まれればそのヒバカリの命、だからヒバカリと言う。って、誰かから聞いた覚えがあるッス」

 誰かって誰だ。

「日本に毒蛇はマムシしかいないって聞いたぞ?

「ハブとかヤマカガシも毒を持ってるッスよ?」

 そうだった!

 誰だ日本に毒蛇はマムシしかいないなんて言ったやつはっ!?

 アンの説明に奏はさらに絶望的な表情になった。

「大丈夫だ。お前は図太いから死なないって!」

 俺の励ましにも奏は諦めたように鼻で笑った。

「いいのよ。昔私を襲ってトラウマを残したのもヒバカリだったわ。これも運命だったのよ。もういい、もういいのよ」

 いつもなら怒って殴りかかってくる奏が力なく笑う。

 違うだろ!

 お前はいつも傲岸不遜で傍若無人、すぐに手が出る山賊の首領みたいな性格だっただろ!

 そんな薄幸の美少女みたいに簡単に諦めんなよ!

「奏よ死なんから安心せい」

「そうっス。絶対死なないッスよ!」

 二人とも悲しいはずなのに、悲しみを表情の裏に隠して、本当に大丈夫だと思えるように奏を励ました。

 エリちゃんもアンも俺もお前を応援してるんだ!

 応援してくれる皆の事思ってみろよ!

 諦めんなよ!

 もっと熱くなれよ!!

「そうだよ……絶対大丈夫だからっ!」

 駄目だ。

 こんな時でも俺だけ弱い。

 目から汗が滲みやがる。

「皆……」

 震え、顔が赤くなった奏の目にも涙が浮かんだ。

「大丈夫じゃて、ヒバカリに毒はない」

「そうっスよ。猛毒ってのは昔の迷信っス」

 ……え?

 いや、奏を励ます為の方便だよな。

「み、皆ありがとう。私なんかの為にそんな嘘までついてくれて」

「嫌嘘じゃないッスよ。ほら」

 アンがそう言って死んだヒバカリの口に自分の指を突っ込んだ。

「ちょっっ、おまっっ!?」

 アンは引き抜いた指を見せ何も傷がない事をみせる。

「アンそんな私を元気づける為に危険な事しないでっ!!」

 奏は真っ赤になって起こったが、アンはケラケラと笑った。

「大丈夫ッスよ。ヒバカリは歯も小さくて擦り傷すら付けられないッス」

 そう言ってヒバカリの口を開いて見せてくれたが、その小さな口に立派な歯は見えない。

 え?

 本当に無毒?

 俺と奏は一緒にエリちゃんの顔を見た。

「本当じゃよ。実際奏の噛まれた所も傷一つない。一応消毒としてお茶をかけたけど何も問題はないじゃろ」

 その言葉に奏はプルプル震え顔が赤くなった。

「じゃ、じゃあ、奏が倒れたりしたのは?」

「ビックリして暴れたから貧血になったんじゃろ」

 その言葉に奏はついに顔を手で覆ってその場に伏せてしまった。

 どうしよう。

「か、奏?大丈夫か?」

 顔を寄せて奏を励ますと彼女は俺にだけ聞こえる消え入りそうな声で呟いた。

「殺して……私をクレオパトラみたいにアナコンダに噛ませてその毒で殺して」

 それはコブラだ。


読んでいただきありがとうございました。

ブクマ・評価してクレメンス。

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