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無人島サバイバル★漂流日誌(略)  作者: 名久井悟朗


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40/45

桜の樹の下には

 道具は前日に用意しておき、日の出すぐに拠点を出発した。

 通い慣れた道を通り海岸に出る。

 別に俺達は難関ルートから登頂を目指す山男ではない。

 出来るだけ海岸線を歩き、草木や困難な地形が少なそうなルートから山を登った。

 安全を最優先し、途中小まめに休息をとりながら進み、気づけばもうすぐ太陽が頂点に達しようとしていた。

「ぜー!はー!ぜー!はー!」

 蔦で編んだリュックサックの肩掛け紐が食い込んで痛い。

 歩き始めた時は余裕だったのだ。

 二日分の飲料水と食料、それからロープやいざという時の道具が幾つか入っているだけなのに、歩けば歩くほどに重くなっていくように感じた。

 というか、足も痛い。

 この島に来て毎日のように舗装されていない道を歩き、それにも慣れたかと思っていたが、山道だと足への負担が一気にきつくなった。

 これ靴ずれとかなってないよな?

 俺の前方を歩くエリちゃんとアンの足どりはいまだに軽やかだ。

 予備の食料や野営道具、調理器具等、俺の数倍の荷物を背負いながら出来るだけ安全なルートを選び、草木を切り開いて道まで作ってくれているというのにエリちゃんなんか「ここは御国の何百里~♪」等と歌う余裕まで見せている。

 一応彼女等も汗をかいてはいるようだが、俺や奏のような肌に衣服をぺた~と張り付かせる不快で気持ち悪い汗ではない。

 少し激しい動きをする度にキラキラと舞う、何だかとっても爽やかな汗だ。

 たとえそれが、山刀を振り上げ振り下ろすような殺人鬼っぽい動作であっても爽やかな絵になるのだ。

 あの二人は本当に人間か?

「ぜー!はー!ぜー!はぁ……あんた、男だったら、もっと、しっかり、あるきな、さいよっ。てか、私の、荷物、くら……」

 嫌味を言おうとした奏が途中で諦めた。

 いくら前を行く二人が道を慣らしてくれているとはいえ、舗装されていない山道を荷物を背負って歩きならが喋ればそうなる。

「男女差別、反対っ」

 何かしゃべるならこのくらい効率よく言わねば呼吸が乱れて超疲れるのだ。

 というか、喋る事に気を取られたらこけそうになる。

 二人が切り開いた跡には、切り払った草葉や小さい枝以外にも石や朽ちた木がゴロゴロしている。

 平らな地面なんてほとんどなく段差が多い、積もった葉っぱとそれが分解された腐葉土は、滑るしふかふかとして足首までずっぽり行く事もあり歩きにくい。

 前を見ても後ろを見ても、右を見ても左を見ても、ついでに上を見ても木々と葉。

 あー、一面のクソ緑。

 所々空中の誇りに反射してキラキラと光る木漏れ日が幻想的だが、それに感動する心の余裕は当の昔に過労死している。

 もう山なんて登りたくない。

 トイレの神様に誓ってもいい。

 日本に帰っても二度と未舗装の山道なんかに足を踏み入れたりしないぞ。

「どれ、そろそろ休憩しようかのう?」

 天使の甘い声が聞こえた。

 顔を上げるとエリちゃんとアンが先の方の少し開けた小さな丘で俺達の方を見て待っていた。

 やっと一息つける。

 俺と奏がヒイヒイ情けない声を上げながら二人の下に付いた時、エリちゃんはそこら辺の石で簡易的な竈を作り、道中拾い集めてきたであろう木の枝に火をつけていた。

「もう少しでお昼にするでのぅ。二人はそこら辺でゆっくりまっておるといい」

 疲労のせいで実感がなかったが、言われて気にすると腹が減っている事に気づいた。

 本来なら「俺も何か手伝います!」と言うべきなのだろうが、エリちゃんとアンで充分事足りるだろうし、何よりこんな状態では邪魔にしかならない。

 大人しくお言葉に甘えて体育座りでもしていよう。

「ん?」

 座って上を見上げたら、ちょうど顔に木の葉が落ちてきた。

 この葉っぱ見覚えがあった。

 先端が急に狭まった楕円形の葉っぱ、縁はギザギザとしていて色は濃い緑。

 俺は後ろを振り返り、木の葉を落としたであろう木を見つけゆっくりと立ち上がってそれに近づく。

 全体を見て幹に触れる。

 この独特の樹皮。

「桜か?」

 それもよく河川敷に植えてあるやつ。

 確か名前は……

「おお、チョーヘイも気づいたか」

 振り返ると竈をアンに任せたのか、すぐ近くに空のビニール袋を手に持ったエリちゃんが立っていた。

 ……何故空のビニール袋?

「これってソメイヨシノですか?」

 正解だったか、エリちゃんは孫を誉めるようにやさしい笑顔になった。

「正解じゃ!という事は……何がわかるかのう?」

 違った、少し悪戯っぽくクイズを出してきた。

 ……一体なんだ?

「……葉っぱが食べれる?」

「惜しいっ!別の方向に二割くらい正解じゃが、ワシが期待しとった答えとは違うのぅ」

 別の方向にって、テストならバツがつく答えだったようだが、エリちゃんはサービスで二割もくれたようだ。

 優しい。

 となるとなんだ?

 分布から緯度経度がわかるとかか?

 悩む俺にエリちゃんはヒントをくれた。

「ソメイヨシノは基本的に接ぎ木や挿し木でしか増えんのじゃ」

 あ、なんか聞いた事がある。

 自分じゃ増えれなくて、ソメイヨシノは全部クローンだとかなんとか。

「……って事はこれは誰かが植えたって事っ!?」

 衝撃の事実だ。

 無人島かと思ったが、もしかしたら人が住んでいる。

 若しくは人が昔住んでいたかもしれないのだ。

「正解じゃ!」

 そりゃ正解もするよ。

 さっきのはヒントじゃなくてほぼ答えだった。

 ん?どうでもいい事も気づいた。

「じゃあ、さっき言った別の方向に二割くらい正解ってのはなに?」

 その言葉にエリちゃんはビニール袋を掲げて笑った。

「これがソメイヨシノだとするとこの季節美味しいアレが獲れるかもしれんのじゃ。ついでに昼食はそれにしようと思っていたんじゃ」

 お、採れたて新鮮は嬉しい。

 しかし、桜から採れるってなんだ?

 桜……花が散った後出来るあの小さなにさくらんぼみたいなやつか?

 小学校の頃に拾って食べた事あるけど苦いし酸味が強くてとても食べられたもんじゃなかったが……

 まぁ、エリちゃんなら食べれるように料理してくれそうだな。

 そんな事を考えているとエリちゃんは桜の木に近づいて幹を確認してからこちらを振り向いた。

「皆!今からコイツを蹴るから落ちてきたのを拾うんじゃ!」

 そんな乱暴なというか、クワガタを獲るような方法でサクランボを採るのか……

 まあいいか。

 俺は目に入らないよう手の平でひさしを作り、上を向いて落ちてくるであろうサクランボを待ち構える。

 ドンッ!!

 小さな少女の重たい蹴りが、桜の木だけではなく地面まで振動させるかのように重く響き、桜の木の太い幹をたわませた。

 大きくたわんだ木はその分反作用で逆方向へ大きく揺れ、更にまた逆方向へと激しく揺れた。

 そして、黄の上から黒いそれは待ち構えていた俺の鼻の上に落ちて来た。

「え?」

 ~***¨<コンニチワ

 ボトボトボトボト

「「ぎゃぁああああああぁっっ!!」」

 俺と奏の叫び声が山中に響いた。

「お~、サクラケムシッスね」

「思ったより大量じゃわい」

 黒い小枝のような体に緑がかった毛が生えた毛虫が辺り一面に降りいだ。

 俺は顔に落ちたそれを振り払い、早く木の下から逃げようと振り返るも既に足元は毛虫だらけ。

 恐怖に顔を歪ませた奏と目が合う。

 俺は助けを求めようと今度はエリちゃんの方を振り向いた。

「ほれ!ほれ!もう少しっ!」

 止めてっ!!?

 何故だかエリちゃんは追加で更に桜の木を蹴っている。

 ボケたっ!?キがどちらかにイかれたかっ!?

 止めてよ!!サクランボが全然落ちてこないからって、それ以上蹴ったら更に毛虫がっ!毛虫がっ!!

 ええいっ!エリちゃんはもう駄目だ!

「アン助けてっ!!」

「へ?なんスかセンパイ?」

 しゃがんでいたアンは俺の声に振り返る。

 しかし、彼女の手の上にはもぞもぞと蠢く毛玉の山が……

「「ぎゃぁああああああぁっっ嗚呼あああぁAAああ!!??」」

 あまりの地獄絵図に再度俺と奏の叫び声が響く。

 最早毛虫を踏み潰すなんて事よりこの場から逃げる事が先決と俺と奏は竈まで一気に走り抜けた。

「ぜー!はー!ぜー!はー……エリちゃんついに発狂したわね」

「はーはー……イヤあれはもとからじゃ」

 何でアンとエリちゃんは平気でしかも毛虫なんかを拾い集めて……

 え?

 え?

 まさかだけど……

「エリちゃんさっき言ってた美味しいアレって……」

 そんなまさかっ!?といった顔で奏は俺の顔を見た。

 しかし、彼女の目は俺の発言を疑っているのではなかった。

 その可能性を信じたくないのだと口以上に語っていた。

「そうじゃよ。これが昼食じゃ!」

 おい待て。

 本気か?

 本当なのか?

 俺と奏は顔を見合わせた。

 奏の顔が恐怖と狂喜で名状しがたい表情になっている。

 多分俺も似たような表情をしているのだろう。

「それ、マジっすか?」

 俺は、信じたくないとプルプル震えた指で彼女が摘まんでいる毛虫を示した。

 頼む。頼むから否定してくれ。

 勘違いであってくれ。

 それか冗談だったと言ってくれ。

 そんな俺にエリちゃんはにっこり笑ってこう言った。

「揚げるのが一押しじゃが、煮ても焼いても中がトロッとして旨いぞぉ~。最初に軽く炙ってやって毛を焼くのが口当たりを良くするコツじゃ」

 一瞬クラっと気が遠くなった。

「あ……」

 隣の奏なんかは気が遠くなるどころか、フラりとこっちに倒れ込んできた。

「大丈夫か?」

「ええ何とか……」

 奏の顔が真っ青だ。

 俺に毒を吐く事すら忘れている。

 しかし、このままだと本当に毛虫を食わされる羽目になるかもしれん。

「毛虫の毒とか怖くないですか?」

 違うそうじゃないっ!

 いやでも、そこから切り崩してなんとか食虫だけは阻止せねばっ!

 エリちゃんは大丈夫でも俺は常人だ。

 あんなもの触れただけで腫れるわ。

「サクラケムシには毒がないから大丈夫じゃ。というか、毒を持った毛虫の方が少ない大抵の毛虫は毒を持っておらんぞ」

 マジか。

 それエリちゃんだけに毒が効かないってことはないよな?

 アンも両手で持ってたけどアレも例外として。

 エリちゃんもアンも毛虫どころかマムシに嚙まれてもマムシの方が三日三晩苦しんで死にそうだ。

「何やら失礼な事を考えていそうじゃが、少なくともサクラケムシに毒があったら、チョーヘイの鼻は腫れあがっとるはずじゃろ?」

 言われてみればそうだ。

 払った手だって違和感はない。

「おい奏、俺の鼻変になってないか?」 

「いつも通り潰れ気味の日本人らしい鼻よ。バイオレットパープルに発光してたりはしないわ」

 一言どころか二言くらい多い。

 どうやら元気を取り戻しつつあるようだ。

 俺の鼻も無事だし、奏も何とか大丈夫そうだ。

 問題は昼食が虫になりそうな事だけだが……

「何やら悩んで居るようじゃが、案ずるより産むが易し。一口食べてみたらどうじゃ?」

「え?」

 スッと目の前に出されたのは既に串焼きになったサクラケムシ。

 いつの間に焼いたのか、竈の方を見ればアンが焼き鳥を焼くような手際でサクラケムシの串焼きを量産していた。

 ブルータスお前もか。

「え……何それ?」

 奏が目の前の現実を拒否した。

「ほれ、奏でも食べてみてはどうじゃ?」

「──」

 フッと奏が音もなくまた気を失った。

 どうやら目の前の現実に耐えかねたようだ。

 左手で奏を受け止め、これを口実に毛虫を拒否しようと上げた手に串を持たされた。

「……えっと」

 駄目元でアンの方を振り向いた。

「プチッとしていてクリーミー。桜の香りが口に広がって美味いッスよ!」

 駄目だった。

 低身長巨乳のスポーティーな美少女が笑顔で毛虫を頬張るのはショッキング映像過ぎる。

「毛はしっかり処理されながら、焼き過ぎてもおらん。実に良い焼き加減じゃなぁ」

 ミステリアス風銀髪幼女ババアが毛虫を食らうのはもっとホラーだ。

 山奥で片手に美少女、もう片手に毛虫の串焼き、周囲には虫を食らう美少女と美幼女。

 どんな絵面だ。

 というか、既にアンが大量の串焼きを量産しちゃったし、もうこれ昼食は虫を食べるしかない状態じゃないか?

「男は度胸。何でも試してみる物じゃよ」

 男女差別反対っ!!

 等と女々しい事を言うわけにもいかない。

 目の前に突き出されたそれは、遠目に見れば細めのかりんとうを串に刺したようにも見えない事もないが、だからといって今からそれをかりんとうと思い込んで食べるのは至難の業。

 丸い頭にピョコピョコと出っ張った足、そして何より僅かに残った毛。

 はっきり言ってグロい。

 グロいというかキモい。

 生まれも育ちも幸いにして食虫文化圏でなかった事がここで裏目に出るとは……

 しかし、いつまでもエリちゃんに串を差し出し続けさせるわけにもいかない。

「ええいっ!南無三っっ!」

 目を瞑り、恐る恐る突き出された串を口に入れる。

 俺は震えているのか?

 唇が毛虫に触れないようにしながらゆっくり口を閉じる。

 ぐにぃプチュぅ

 うげぇぇ

 歯の先に柔らかい何か(毛虫)が触れ、僅かな間の後それが潰れて口の中に汁が滴った。

「~~~~~~っっっ!!!!?」

 自分の顔が未知の恐怖と気持ち悪さに歪んでいる事がわかる。

 嫌々ながらそれを咀嚼する。

 あ、なんか少し固いのある。

 頭か?

「どうじゃ?」

 どうじゃじゃねーよこのクソババアっ!!

 なんかこう例えるのが難しい感触の後、皮が割れて飛び出た中身が妙にジュージーで口いっぱいに桜みたいな香りが広がって──

「──意外と普通に美味いのが納得いかないけど、それはそれとして虫という認識が消えずにキモい。でも美味い」

 本当に意外と旨いのだ。

 虫という事実の認識さえなければ全然問題ない。

 味が濃くて旨味の塊みたいな奥深さがある。

 慣れると意外と虫だという感触も少ない。

 見た目は最悪だが。

「じゃろ?」

 エリちゃんは「美味しいを教えられた!」と嬉しそうに笑った。

 うん

 確かに美味しくはあるんだけど、昆虫食に対する偏見もあった。

 でも、必要がなければ知りたくなかった美味しさだし、願わくば偏見を持ったままでいたかった。

 だがまぁ──

 俺は串に残った残りの毛虫を全て口に入れ、勢いよく噛みつき咀嚼した。

「──もう一本貰えます?」

 こんなサバイバル生活では、虫も食わねばならない時が来るかもしれない。

 その為にもまだ美味しいサクラケムシで慣らしておくべきなのだと思う。

 死に直面した時、俺の食わず嫌いでエリちゃんやアン、奏まで死の危機に直面、そうでなくとも迷惑をかける事になるのは御免だ。

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、エリちゃんはにっこり笑った。

「一本と言わずたくさん食べるとよい。足りなけらばいくらでも捕まえてやるぞ」

 エリちゃんは嬉しそうにいそいそと毛虫の串焼きをアンから受け取り俺に差し出す。

 俺はそれを口いっぱいに頬張り咀嚼する。

 やはり味は悪くない。

 だが、見た目よくない。

 うぅ……気持ち悪いはずなのに、意外と悪くないと思えてきている順応性が嫌だ……

「ほれ、お茶もあるぞ」

 いつの間にかお茶を沸かしてくれたのか、エリちゃんが湯気の立つ空き缶製のマグカップを差し出してきた。

「ありがとうございます」

 サクラケムシは味が濃いので飲み物は助かる。

 まだ熱いのでゆっくりと口に運び、味と香りを堪能する。

 ……お茶からも桜っぽい香りがする?

「あのこれ……」

 桜茶か?

 エリちゃんはすごくいい笑顔になった。

「わかったか!一度糞茶と言うのを試してみたくてのぅ。即席じゃがサクラケムシの──」

 思い切り噴出した。



読んでいただきありがとうございました。

ブクマ・評価してクレメンス。

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