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無人島サバイバル★漂流日誌(略)  作者: 名久井悟朗


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ブレインマッスル

「どうじゃ?流石のアンもクタクタじゃろう?」

 夕食後、エリちゃんはアンの手をモミモミとマッサージしながらそう訊ねた。

 アンの以外にも小さな掌をそれよりも小さなエリちゃんの真っ白な手がムニムニと揉み解す。

「まだまだ、大丈夫ッス!」

 アンはそう元気いっぱいに返事をするが、鍛冶が終わった時その指がプルプルと震えていたのを俺は見ている。

 流石のアンと言えど、あれだけの速度、あれだけの回数木槌と金づちを振るえばそうなのも当然か。

 不謹慎かもしれんが、アンも人間だと思えてホッとする。

 いや、一日であれだけ作る時点で人間業じゃないのだろうが。

「もう眠い」

「体洗うの明日起きてからでいいわよね?」

 なお、俺と奏という凡人ズが一番疲弊しているという体たらく。

 水や炭を運ぶ等の手伝いしかしていないのだが、メインの二人以上にグロッキーだ。

 いや、俺達としては重労働だったけど、あの二人と比べればその運動量は微々たるもの。

 エリちゃんなんて、あれだけ働いておいて、「皆沢山働いて疲れておるじゃろ?」なんて言って、夕食から締めの一服まで全部一人でやってしまったのだから頭が下がる。

「アンもそうだけど、エリちゃんって人間?」

「さあ?多分違うでしょ」

 そんな事どうでもいいと奏は眠そうに目を擦りながら答えた。

 確かにどうでもいいな。

 しかし、それでも本当に鍛冶までこなしてしまったのは驚いた。

 エリちゃんの打ったナイフを手に取り鞘から抜いて焚火にかざす。

 銀色に輝く刃は、エリちゃんによって何度も何度も折り返され鍛えられており、直刃に焼かれた刃文は飾り気こそ薄いが、その健剛実質さを現しているようだ。

 柄も鞘も出来たばかりのナイフで河原で拾った灌木を削って作っただけなのだが、それが独特の味を出している。

 作ったエリちゃん自身が「この天然の歪みと木目が『すひょっ』としていい感じじゃろ?」と自画自賛していたが、俺にはただ少し変わった模様にしか見えず全く意味が分からなかった。

 だが、こうしてしみじみ見てみると徐々に良い物に見えてこないでもない。

 しかし、これでやっとだ。

「やっと山に行ける」

 つい口からこぼれ出た。

「そうじゃのう。ようやく山に行けるのう」

 エリちゃんの言葉にアンや奏も頷く。

「明日からやっと島の奥へ探索範囲を広げられるんスよね?」

 今までは奥へ行ったとしても木材を集める為にほんの少し内側へ入り込んだだけだった。

 本格的に島の奥地、特に山へ登るには道具をそろえ藪を切り開き進むナイフや山刀が不可欠だった。

 それでが手に入った今、ついにこの島で最も高い山の山頂を目指す事が出来る。

「あの山に登って予想される現在位置の確認が取れれば脱出の目途が立つんスよね?」

 山に登り、この島の位置が分かれば、島脱出の道も開ける。

 遠い一歩だが、着実に一歩前に進んだんだ。

「そうじゃ、予測される位置的にワシの知識が正しければ北と南に島が見えるはずなんじゃが……まぁ、それが見えなくても緯度経度から絶対に飛行機か船が確認できるはずじゃ」

 エリちゃんはここがどこか見当がついているようで確実な自信を持っているようだ。

 だが、それと同時に何かを危惧しているようにも見える。

 その危惧が何かはわからないが、エリちゃんが止めないのだから危険はないだろう。

 多分。

「頑張って山を登るっスよ!日本に帰ったら家族にセンパイを紹介するッス!!」

 気持ちは嬉しいが、俺を家族に紹介してどうするつもりだ?

 いや、なんか怖いからあえて聞かないけど。

「と、とりあえず今日はもう寝ないか?皆疲れてるだろうしな?」

「そうじゃのう。奏はもう寝ておるし」

 静かだと思ったら、いつの間にか涎垂らして寝てやがったのか。

 


読んでいただきありがとうございました。

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