窯
いくら奏が任されたとはいえ、当然二四時間全て任せるわけにもいかず、夜中は交代で監視する事四日目の昼過ぎ。
昨日までは酸っぱく、モクモクとした煙が窯より立ち上っていたが、少し前から奏が騒ぎ立てそれを見に行けば、徐々にその煙が無色透明へと変化しつつあった。
「そろそろかのぅ」
一同が固唾を飲んで見守る中、エリちゃんはそう呟くと管へと繋がる煙突を塞ぎ、それ以外にも焚口や空気穴等全てを粘土で塞いでしまった。
そして、何処かに穴や亀裂がないか確認すると満足そうに頷いた。
「うむ。これであとは自然と炭化し冷えるのを待つだけじゃ」
冷えるまではどれくらい待つのだろうか?
作り初めにも思ったが本当に時間と手間がかかる。
これで日本で買ったらいくら分くらいの量の炭が出来るのだろうか?
……不揃いだろうし、材料も適当だし二束三文か?
「冷えるまでは水車作りッスか?」
今日は見に行ってないが、昨日の昼に覗いた時にはまだ部品程度しか出来ていなかったはず。
炭焼きの完了に合わせるなら確かに手伝いに行った方が効率的かもしれん。
まぁ、俺に何が出来るかはわからんが、エリちゃんなら適当な仕事をくれるだろう。
「水車ならもう出来ているわよ!!」
何故か奏が胸を張って宣言した。
お前が自慢げにする必要はないだろ?
というか、それを知っているという事は、炭焼き窯の監視をサボってエリちゃんの所へ冷やかしに行っていたんじゃないのか?
「な、何よその目は」
後ろめたくないのなら目を逸らすな。
多分あれだな。
炭焼き窯の監視が暇すぎてエネルギーが余りまくっているんだろう。
この島に来てから限界まで体を動かすのが日課になってて余計に有り余っているのかもしれない。
「いや、火事にならなくてよかったな」
「ぐっ……」
目は口程に物を言うと言うか、語るに落ちる?雉も鳴かずば撃たれまい?
「ほれほれ、チョーヘイそんなに虐めてやるな。何事もなかったのだからもうよいじゃろ?」
まったく、エリちゃんは奏に甘い。
そして、俺やアンにも甘い。
「それじゃあみんなで見に行くわよ!」
お前は反省しろ。
逃げる様に我先にと川に向かう奏の後を追って坂を下る。
奏はアホなので急ぎ過ぎて途中で一回こけた。
ざまあ味噌カツ。
そして、川についてそれを見た時俺達は驚いた。
川底を掘って深くし、その両サイドに岩を置くなどして川幅を狭め、意図的に流れを早くした所に水車は設置されていた。
「これはなかなか」
「味があるッスねぇ」
それは、浜辺で拾い集めた自然の流木を利用した曲線の多い、工業的な水車と言うよりも伝統工芸、魔女の家にありそうなどこかメルヘンチックな仕上がりであった。
歪みのある素材ばかりで作られたそれは、しかししっかりと水を受け規則正しく回転している。
回る軸は必要最小限の歯車だけを経由し、その力を羽に伝えて回す。
羽は先に行くに従って狭まる粘土製の覆いにより前から二/三を覆われており、その先端からは想像以上の勢いのある風が規則的に噴き出ている。
今更だが、わずか数日で金属製品など一つもない原始的な道具ばかりでここまで作り上げたものだ。
「この風扇風機くらいあるッス!」
「そうでしょ!すごいでしょ!!」
何故か奏が偉そうに胸を張っている。
「ほぼ自然物だけでここまで作り上げるとは」
「流石のワシも鋸一つなしで作り上げるのは苦労したわい」
これならパーフェクトなグレードのプラモデルのフルスクラッチ並みに大変と言われても納得できる出来だ。
「この風が出ている先に炉を作るんスか?」
アンが噴出している風に手を当てながら訪ねた。
「うむ。といっても、炉自体はすぐできるがのぅ」
こんな水車を作れる人にとったら何でもすぐに出来るのでは?
これほどまったくあてにならんすぐできるもそうある物ではない。
いや、エリちゃんならすぐできるんだろうけども。
「というわけで、アンタ達すぐに作るわよ!」
どういうわけだ。
エリちゃんのすぐできるを真に受けるんじゃないよ。
と思ったが、言った張本人が珍しく率先して動いているので仕方ない。
手伝ってやるか。
「で、耐熱煉瓦は何処?」
動き出してすぐに奏は動きを止めてエリちゃんを振り返って聞いた。
何もわからずに動き出していたようだ。
少しは計画性を持て。
「今回は砂鉄や鉄鉱石から鉄を取り出すつもりはないからこの煉瓦で充分じゃ」
言ってエリちゃんが示したのは川から少し離れた所に積んであった白っぽいレンガ。
おそらく、硅石だか長石だかが多いとエリちゃんが言っていた気がする粘土から作ったものだ。
たぶん、炭焼き窯もこれで作ったんじゃないだろうか?
「わかったわ、その煉瓦で作ればいいのね!」
「まあ待つのじゃ。その前に大切なものを用意せねばならん」
「??」
有り余ったエネルギーを発散させたくて仕方がない奏を制止すると、エリちゃんは落ち着けと宥めた。
しかし、用意せんといかん物なんてあったか?
……??
アンが何か思い当たったようで手をポンっと打った。
「──あっ、鉄っスね!」
「「それだっ!」」
そうだよ鉄だよ。
砂鉄とか鉄鉱石とか……じゃなくて、エリちゃんは別の物を使うって言っていたけどうするつもりだ?
「鉄って何処にあるの?」
同じように頭を捻っていた奏が訪ねた。
「これじゃよ」
エリちゃんは水車制作で使った余りの木材の中から、木箱の欠片のような板を手に取ってみせた。
ん?
よくみると板の炭に何か刺さっている。
釘だ。
「なるほど!漂着物から鉄を集めるのか!」
「ナイスアイディアッス!」
何も原始生活の再現をやっているわけでもないのだ。今身近にある物を利用すべきなのだ。
そもそもあるかもわからない鉄鉱石や集め方もわからない砂鉄を収集するよりよっぽど現実的だ。
「ステンレスやアルミ、真鍮のような鉄以外の金属や合金もあるじゃろうが、とりあえずは金属を集めて後でより分ければよい。鉄以外もそのうち何かに使えるかもしれんでのぅ」
今のところはとりあえず使える金属製品を作れればいいのだ。
〇〇製!にそこまでこだわる時ではない。
使えればいいのだ。
「そうと決まれば炭が冷えるまでにどっちがたくさん集められるか勝負よ!!」
与しやすいと思ったのか、それとも相変わらず嫌われているのか、奏は俺を指さし宣戦布告をしてきた。
やれやれ……
「望むところだ!!勝てると思っているならかかってこい!!」
いくら俺がインドア派といえど、女に負けるほど柔じゃねぇってところを見せてやるぜ!!
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