未来へ向かって!
「センパ~イ!これなんてどうッスか?」
子犬が喜びのあまり尻尾を振る勢いで俺の二の腕、いや太もも並みの太さの木をブンブン振ってアンが駆け寄ってくる。
「まて、走るな。そして、走る必要があるほど遠くに行くな。それにもう十分すぎる量が採れているからもういい。そして、一回にいくつもツッコませるな」
木材探しも疲れるが、アンと一緒というのは奏と一緒にいるのとは別のベクトルで疲れる。
「え~、まだ大丈夫ッスよ。一回で沢山運んだ方が効率いいじゃないっスか!」
現代が生み出したモンスターコスパ厨めが。
己と常人の体力を一緒にしてくれるな。
俺の両手両足はもうパンパンなんだよ!
なんで俺の数倍、いや十数倍の量背負ってて、そんなに元気一杯なんだこのフィジカルモンスターめ。
コスパモンスターとフィジカルモンスターの組み合わせとか付き合わされる側としちゃ最悪だぞ!
「エリちゃんだってあんまり奥行くなって言ってただろ?」
ギリギリセンパイとしての面子が体力不足での撤退を進言できず、エリちゃんの言葉を借りる事になった。
いや、身体能力で威厳なんていまさらというか、超人相手に意地を張るのも馬鹿らしいが、男の子としては越えられない一線があるわけで。
「そうは言っても腐ってなくて、乾いてて、塩の沁み込んでない炭用の木材なんてそうそうないっスよ?大丈夫ッス!具体的に何処までが奥かなんて個人の主観ッス!」
コイツもしかして正しい意味での確信犯か?
ええい、こうなったらなけなしのプライドなんて捨ててやる。
「悪いが、これ以上先に行かれると俺の体力がだな?」
察してくれ!
これ以上言わせないでくれ!
センパイ思いのアンならわかってくれるよな?
俺の思いが通じたのか、アンは「ああ!」と納得したように手を打った。
納得されるのは悲しいが、理化してくれたのは助かる。
「センパイの荷物も持つッスよ!」
そうじゃない!
「何だったら荷物は背負って、センパイは抱っこして運んでもいいっスよ?」
止めて!!
流石にそこまでプライドは捨てきれないからもうやめて!!
「……少し休憩にしよう。それから、来た道とは別のルートで拠点に戻りながら木材を探すので手を打たないか?
アンは口の下に手を当て少しだけ考えるとポンっと手を打った。
「なるほど!流石センパイッス!」
どうやら納得してくれたようだ。
これで何とかあのフィジカルモンスターをコントロールできたぜ。
「センパ~イ!こっちに木材落ちてそうっスよ~~!」
アイツ後半しか理解してねぇっ!!!
「俺の前に道は出来ていく……アンの手によって」
アンの通った後は草が踏み分けられ道が出来ているから比較的歩きやすくはあるが、それでも舗装されているわけではないので凸凹しているし滑りやすい。
それでもはっきり言って追い付くので精いっぱいだ。
あの娘、時代が違えば英雄か何かになってたんじゃない?
道を切り開いていく(物理)勇者だもん。
となると、その後についていく俺はお供、抱っこなんてされた日にゃお姫様だよなぁ。
己の情けなさに泣けてくる。
手で額を押さえるとゴワゴワした感触が汗を拭う。
手にはめた手袋にしてもそうだ。
エリちゃんが夜なべをして作ってくれたものだ。
バナナの木に似た木の樹皮を剝ぎ、それを煮たり干したり撚ったり編んだりして作ってくれたのだ。
日本にいた頃は気にもしなかったが、糸一本作るのにどれだけ手間と時間がかかるかなんて想像できなかった。
アンや今ここにいない奏やエリちゃんの手にも同じ手袋が嵌められている。
忙しい時も暇を見てエリちゃんが全部一人でやったのだ。
アンの意味不明な身体能力も英雄、勇者のようだが、エリちゃんはそれ+技術と知識なのだから頭が上がらない。
一応俺は男だ。
しかもこの島唯一の男だ。
時代錯誤な男だから云々という考えはなかったが、それでもこの形無しな有様は堪える。
男の仕事どころかお姫様状態だぞ?
自信が粉砕骨折する思いだ。
いや、ナーバスになったらダメだな。
エリちゃんに励ましてもらったんだ。
超人と比べるんじゃなくて持ち味を生かすんだ!
俺は俺が出来る事をするんだ!
「ヨシっ!!」
気合を入れる頬を叩く。
そして、未来に向かって大きく一歩を踏み出すんだ!
「あっ!センパイそこはっっ!!」
「へ?」
読んでいただきありがとうございました。
ブクマ・評価してクレメンス。




