海へ
俺とエリちゃんは二人で海を目指して歩いている。
海産物飽きてきたから山に行こうと提案したのだが、エリちゃんは首を横に振った。
「この島は謎も多いが木々、植物も多い。ワシは兎に角、もっと準備してからでないと皆が危ない。何かあってからでは遅いのじゃ」
そう言われると確かにそうだ。
一見本土でも見た事のありそうな植物だからといって、ここが日本と同じかどうかなんてわからない。
毒蛇はいるか、毒蜘蛛はいるか、毒蜥蜴はいるか?
毒はなくとも危険な猛獣がいるかもしれない。
動物だけでなく、食べると危険な植物、食べなくても触れるだけで危険な植物──ギンピ・ギンピなんて絶対触りたくない──があるかもしれない。
まぁ、そもそも植物や動物を見てもあまり知らないのだけども。
何にせよ一見未開の島、何が襲ってくるかわかったもんじゃない。
「大昔の何とか探検隊みたいにカメラさんが先に進んで欲しいな」
「動かないサソリが襲ってくるかもしれんしのぅ」
エリちゃんが昨晩みたテレビ番組を思い出すように頷く。
冗談はさておき、ある程度の食料に枝を掃う山刀、出来るなら医療品程度は用意してから探索に出たくはある。
「そうなると、当面は海岸で食料調達をしつつ、使える漂流物の調達と各種道具の作成をするしかないな」
俺がそう言うとエリちゃんはよくできましたというようにニッコリ笑った。
「うむ。チョーヘイは理解と切り替えが早いのぅ」
照れる。
当たり前の事を言っただけだが、ちゃんと褒めてくれるのは嬉しい。
家の親や学校の教員にも見習ってほしいものだ。
しかし、そうなると今俺に出来るのは海での食糧確保と漂流物の捜索。
食料の保存はエリちゃんがやってくれるだろうから俺は考えなくていいだろう。
うん。あのうっそうとした山の中進むよりも楽でいいな。
とりあえず、生活が安定、慣れてくるまでは下手な事はしない方がいい。
うんうんと一人納得しながら歩いていると、エリちゃんが俺の方になんかを差し出してきた。
「ほれチョーヘイ」
それは昨日アンが持っていた銛っぽい何かだった。
いや、多分銛だと思うのだが、俺が知っているそれとは形が違った。
細い棒の先に返しのない細く鋭い笹製の穂先がまるで剣山、いや花のない花束の様に突き出している。
「これはパラライザーというタイプの銛じゃよ」
パラライザー、麻痺って意味だっけ?
こんなので魚が獲れるとは想像しづらいが、エリちゃんがそんなもの渡すとは思えないし、何よりアンはこれで魚を獲ってきた。
まぁ、彼女だったら素手でも魚を獲りそうなものだが……熊みたいに。
俺の戸惑いを見てかエリちゃんが苦笑して言った。
「まぁ、手作りじゃから見た目は悪いかもしれんが、色々と利点の多い銛なんじゃよ」
「いや、別にエリちゃんを疑ったりはしてないんだけど、こう魚を突く様が想像できなくて」
焦って弁明しようとする俺をエリちゃんは大丈夫と制すると銛の穂先を指さして説明を始めた。
「まず、これは返しを作ってないタイプなので細い竹や笹の枝で簡単に作る事が出来る。つまり修理も簡単にできる」
確かに、熟練者じゃない俺が使ったら下手すれば獲物を捕る前に銛を壊すかもしれない。
そういう点では使いやすくて助かる。
「チョッキ銛みたいな一本銛も同じように簡単に作れるが、アレは玄人向けじゃ。最初は穂先が何本かある方が捕らえやすい」
そう言いながらエリちゃんは担いでいたもう一本の槍を見せてくれた。
それは穂先が一本で尚且つ刺さった際、魚が暴れると先端が外れるようになっている。
そして、その先端には銛と紐で繋がっているので逃げられない。
「見た目はそっちの方がカッコイイなぁ」
そう俺が呟くとエリちゃんはカカッと笑った。
「それじゃあ、こっちを使ってみるか?」
「いえ、こっちでいいです」
恰好はいいけど、ゴムで飛ばすような発射機構のない銛で魚を突ける気がしない。
こっちのパラライザーも同じではあるが、これなら小魚くらいならまだ当たりそうだ。
「うむ、ワシが説明せんでもパラライザーの特徴が分かったようじゃな」
いや、十分説明してましたよ。
だがまぁ、いくら初心者用小物狙いでも簡単に取れる気はしないな。
小学生の頃網を使って魚を捕まえた事ぐらいはあるが、それでも逃げ回る魚を追っかけたのではなく、追い詰めたり隠れてる処から追い出して網に追い込んで捕まえていた。
それなのに、網より小さい銛で泳いでいる魚を突くなんてのは至難の業じゃあないんだろうか?
「チョーヘイ期待しておるぞ?」
エリちゃんが俺を見上げ軽く拳を上げた。
「バケツ一杯ついてやる!!」
至難の業だからと言ってエリちゃんの期待に答えないわけにはいかないよなぁ?
俺はニヤリと笑い小さな拳にコツンと拳を合わせた。
おっし!やるぞ!!
いざ行かん大海原!!
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