屋根
再度屋根に登り、各所をツタで結び固定する。
勿論俺がじゃない、やったのはエリちゃんだ。
なんだあの驚異的な身体能力と技術力は、ほぼほぼエリちゃんが一時でやってくれましたレベルで俺何もしてないぞ。
山奥の庵レベルの小屋とはいえ、一日で出来るもんじゃないだろ。
「センパ~イ」
頭のおかしいエリちゃんの能力に呆然としながら小屋を見ていたら、後ろから──二日前にあったばかりなのだが──聞き慣れた後輩の声が聞こえた。
振り返れば、犬が尻尾をブンブン振るようにアンが銛を持った手ををブンブン振っている。
そして、振っていないもう片方の手には、掌よりも大きいくらいの魚が何匹も笹の枝に括りつけられぶら下がっている。
「おお~!すごい成果だな!」
感心して褒めると、彼女は嬉しそうにアホ毛をピョコピョコさせて喜んだ。
「えっへっっへっへぇ~。僕才能あります?」
「安心しろ。お前は才能の塊だ」
エリちゃんの陰に隠れているが、この娘も存外に常人離れしているよな。
身体能力が化け物のというか、肉体で解決できる事なら大抵なんとかできるんじゃないだろうか?
「ちょっと、私の成果も見なさいよっ!」
いきなり声がして驚いた。
アンしか見えてなくて気づかなかったが、いつの間にかすぐ横まで来ていた奏が俺に向けてバケツを突き出している。
流石に奏でも逃げない貝程度は採れるだろうし、どれくらい採れたのかね。
「お、おぉ。採れたにゃ採れてるな」
正直多くも少なくもなくて微妙だ。
いや、手付かずの浜で潮干狩りしてこれってのは少ないのか?
大きいのも小さいのも手当たり次第に採ってるし、アサリやハマグリ、バカガイみたいな俺でも知ってる貝もあればよくわからん貝も結構ある。
貝の生息地は種類によってある程度ばらけているとは聞く。
なんだ、必死になって探した事だけはわかった。
「熊手もなくよく採ったな」
「ふふっん!私にかかればこんくらい楽勝よ!」
爪がボロボロな上に砂が詰まって真っ黒だぞ。
「ところでアンタはどうなのよ。雨風がしのげる程度の物は出来たんでしょうね?」
普通一日で出来るわけねぇだろ。
まぁ、エリちゃんのお陰で出来たんだけど。
「ん」
俺は親指で小屋を指した。
「うっそ……こんなの一日で出来るもんなの?」
だよねぇ。
普通出来るわけないよねぇ。
奏の感性でもこんな小屋が一日で完成するのは異常だと思ったらしい。
「エリちゃんが一日でやってくれました」
俺は胸を張って答えた。
まぁ、本当に俺何もやってないし。
「でしょうね。……エリちゃんって本当に何者なのかしら」
「ほんとそれな」
奏は小屋から目を離し俺をじっと見て口を開いた。
「でもまぁ、りっぱね」
珍しく褒めてくれているようだが……
「いやまぁ、さっき言ったように全部エリちゃんが作ってくれたしね?」
そう言って笑うと、奏は溜息を吐いた。
「そんな事言わなくてもわかってるわよ」
まぁそうだろうな。
そうだけどそう露骨に言われると少し悲しい。
確かにエリちゃんが作ったわけだけど。
もしかし、りっぱってエリちゃんが作った事に言ったのか!!
にもかかわらず、俺の事を誉めてくれたと勘違いして……
恥ずかしい。
穴があったら入りたいとはこの事か。
「私はね。はなっからアンタの事なんて期待してなかったのよ」
そこまで言うか!?
「エリちゃんなら一人で出来ちゃうだろうし、アンタが足を引っ張らないか気にしてたくらいよ」
もう起こる気力さえ沸かん。
いくら何でもオーバーキルだ。
「そう思っていたからりっぱって言ったのよ。私と張り合っていたのに俺が作ったどころか、俺だって頑張ったすら言わなかったじゃない」
「いや、実際大した事してないし……」
そう言うと奏は少し怒った顔で俺の手を掴んだ。
「こんなに傷だらけで何言ってるのよ。本当に大した事をしてなかったとしても、こんなになるまで努力したなら十分りっぱよ!」
擦り傷と潰れた豆だらけの俺の手は、奏のボロボロな手に捕まれた。
俺は気恥ずかしくなって手を引っ込めた。
「お、お前だって傷だらけじゃんか。女だったらもっと気を遣えよ」
今度は奏が手を引っ込める番だった。
俺達は互いに手を隠し合い、ただ時間だけが経過した。
どれだけ時間が経ったのか、そんなに長い時間ではなかった思う。
沈黙を破ったのはエリちゃん声だった。
「おお!二人とも大漁じゃないか!」
俺達は慌てて離れた。
エリちゃんはアンの魚とバケツの貝を見て笑った。
「ヨシ!今日は家の落成式にパーッとやるぞ!」
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