―1― 話を聞け
この小説は作者の精一杯の独断と偏見と努力で出来ています。比率は言えません。
それでも良い、むしろそれが良い!という方はどうか読んでやってくれると喜びます。お願いします。
――いつも通りの毎日
『いつも通り』の定義は人それぞれであり、夕飯が違うだけで日常に変化を感じる人もいれば、何が起こっても全て『いつも通り』で済ます人もいる。
俺はおそらく後者なのだろうが、まぁそんなことはどうでもいい。
とにかく俺は、朝食を摂って学校に行って、帰って夕飯を摂る。少なくともそれはしばらく変わらないと思っていた。
そしてある程度未来を選択することの出来るこの世の中、それは決めた道をただ歩いていくだけ。そんな風に生きてなんなのかと、つまるところそんな人生に意味を見出だすことが出来ないでいた。
学生の身分で何を考えているのかと自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うが、それでも考えずにはいられなかった。
やがて、俺は世界のあらゆることに関して『面倒だ』と感じるようになった。
――俺は、ただの『面倒臭がり』になった。
~~~
「……?」
数秒前まで、鬱陶しい友達の話に適当に相槌を打っていた。ような気がする。
つまり、学校にいた。昼休みになって学食に行く途中で友達に会い、一緒に行くはずだった。ような気がする。
――なのに、なんで周りは森なんだろう?
――なんで目の前に甲冑を身につけた人が沢山いるんだろう?
――なんで俺の後ろに気絶した女の子がいるんだろう?
うん、全くもって分からない。何一つ理由が思い浮かばない。日頃の行いか?確かに宿題はほぼ全て出していなかったけれど、テストの点数じゃカバーしたことにはならなかったのか。
ってよく見れば一人の兵士っぽいのが剣を振り回しながら走ってくるではないか。
「……はっ!?いやいや意味分からんし!え!?は!?」
予想通りに俺に向けて剣が振り下ろされる。…初対面で人を殺そうとするか普通!?
咄嗟に左腕で受け止める。
肉が裂かれる血が吹き出る。熱い熱い。……冗談じゃねぇ!服が腕が血が大変なことになっている!
「いってぇっ!」
「うぉぉおお!!」
何を叫んでるんだこのイカレ野郎は!まさか本気か!?本気で初対面の相手を殺そうとしているのか!?
「おい待て馬鹿!話を――」
「おおぉぉ!!」
――ザシュゥッ!
「いっ!!!」
左腕が!左腕から鮮血がぁっ!
ってこれマジでヤバいんじゃないか!?絶対殺す気だ!
「待て!待てよ!お――」
――ザクッ!
首を狙われた。左手で掴む。……首?今首だった!左手で掴んでいなかったら死んでた!ってああ!左手が!俺の左腕パーツが破損する!再起不能になったらどうしてくれる!
とにかくコイツの動きを止めないと……冷静になれば少しは話も通じるはずだろ。通じなくても攻撃に出ないと間違いなく殺される!
「くぁっ!てめぇぇえ!」
左手を刃から離さずに右腕を首に巻く。そしてすぐに足を払う。
「うるぁぁぁああ!!」
決まった。よし、後は冷静に俺は敵でないことを訴えるだけ!これで――
――ドドドドッ
「っづづづづ!?」
矢が刺さった。……いや嘘だろ、弓矢?生身の高校生相手に甲冑装備で斬り掛かって、隙が出来たら弓矢で射る?どこまで容赦無いんだよ……
……こんな、明らかに一方的かつ極めて冷酷に、俺は殺されるのか。
「ハハハ……」
笑えてくる。こんな理不尽があるか?突然見知らぬ場所に立って、何も分からぬままに、話も聞いてもらえずに死ぬ?
ハハハ!力が入らねぇ!座り込んで立ち上がれねぇ!腕が上がらねぇ!顔も上がらねぇ!
――チャッ
こんなになってもやっぱり容赦無いのか……戦意喪失しても話を聞く気は無いのか……
話くらい、聞いてもいいじゃねぇか。
理不尽過ぎるんだよ畜生め。
――ガッ
「っ!?」
「あーあ、左腕、どうしてくれんだよ」
俺らしかり親しかり先生しかり、話を聞かない人間が嫌いなのは全人類共通だと思うんだ。
「決めた。説得止めだ。俺は死ぬ」
この場合、最終的にはキレるしかないじゃないか?そうだろうそうに違いない。
「だけど、てめぇはぶん殴る」
「きっ、貴様っ!」
左手で掴んでいた刃が抜かれる。左手の痛覚なんてもう既に吹っ飛んだ。
立ち上がれる!もう一度左腕を犠牲にする!唯一見える肌色――顔面を……
「死ねやゴルァ!」
――ゴッ―
「ぶっ!」
倒れたコイツに怒りの鉄拳をー!
「人のっ!」
――ゴッ!
「ぶぅっ!」
「話をっ!」
――ゴッ!!
「ガッ!…は!」
「聞けやぁぁあああ!!」
――ドガッ!!!
「…………」
気絶した……?じゃあ次はさっき矢を射った奴らを……
「…………あー…ダルっ」
気付けば弓を構えた奴が複数いやがる。これ以上頑張れないなぁ……面倒臭すぎる。
「………?」
「諦めましたー。どうぞ殺しなさーい」
手を挙げれば捕虜とかにしてくれるかな?そうだったら頑張った甲斐があるんだけど。
……そりゃ無いか。
――ドドドッ
「っつ……チキショー、いてぇ」
でも頭に矢を射られるのは怖い。反射でまた左腕に犠牲になってもらった。そろそろ貫通ダメージとかくるんじゃないか?
それよりも人って何本矢が刺さると死ぬんだ?もう七本なんだが。
……死んだ振りすりゃ良かったかな?
あー、血を吸って制服が重い。
左腕の傷は自分でも見たくない。というか意識したら痛み始めた。熱い、痛い。
右腕には傷が無い。矢が二本刺さってるくらい、あと拳がジンジンするだけ。あれ、二本刺さってる『だけ』?んなアホな。
あとは背中に三本横腹に一本。横腹痛いよガチで。
……ハッハッハッハッハ。あと何本で死ぬかな、俺。
――ジュッ
「な、何だ!!?」
いや、こっちが聞きたい。今の紅い閃光って……もしかしなくても
「……え?レーザー?」
んなアホな。
レーザーって言うのは空想の産物であり、現代男子の夢じゃ……ちなみにロマンはドリル。これは譲らないぜ。
「ちっ!分が悪いっ!退くぞ!!」
あ……助かった……?
とにかく、今レーザー(?)で助けてくれた(未確定)女の子(妄想)は誰だ?
「そこの少年!大丈夫か――って……大丈夫か?本当に」
「ああ、今レーザーで助けてくれたのはあんたか?」
「まぁ、うん……それよりも傷、遠目じゃ気付かなかったけど大丈夫か?矢が……」
どうやらこの紅い髪を揺らす女の子(現実)がレーザー(らしい)で助けてくれた(確定)らしい。
「実は刺さってないんだなこれが」
「ええっ!って重傷なのは流石に見れば分かる。……歩けるか?」
「……多分」
頭がボーッとする。
血が足りないんだろうな。
「……それよりも、そっちに女の子がいるんだけど」
気絶した少女を指して言う。このまま置いていくんだったら担いでやる。右腕と両足はまさかの無傷だしな。……おっとそういえば矢が二本あったか。いやぁ、参った。
「ちょっと待っててくれ」
紅い髪の彼女は気絶した少女の前でしゃがみ、手をかざす。
すると手の平から一瞬光が溢れたように見えた。んなアホな。
そして手を下げて様子を見る。
見ると少女の髪は金色だった。
「…………う」
「あ、起きたかい?」
「あー…、…………(ペコッ)」
少女は周りを見渡した後、目の前の彼女を見て頷く。
目が半眼なので冷静なのか寝ぼけているのか判断がつかないな。一体どっちなんだろう?
「立てるかい?」
「立てる」
かと思うと、次にはやけにハッキリとした声で返事をした。やはり冷静なのだろうか?いやここは敢えて寝ぼけていることにしよう。意味は無いけどな。
「……あ、貴方…」
「…………え、俺?」
見つめていたのを不信に思ったのだろうか。だとしたら第一印象最悪じゃないか、どうにか誤解を――
「貴方が……黒龍?」
「は?黒龍?どうして俺が――」
「っ!!?」
紅い髪の彼女が突然俺と距離を取って手をこちらに向ける。謎ばっかり増えて俺はもう泣きそうだ。
「いやいや待て待て!!違うから!俺はただの人間だから!黒龍なんて大層なもんじゃ決してないから!」
「……え?………人…間?」
「何故そこで不思議な顔をする!?どう見ても龍より人間に見えるだろ!?」
「くっ………!おい君!まさか召喚したのか!?」
「召喚っ!?待て、説明を」
「貴様じゃないっ!そこの女の子に聞いている!」
どうやら金髪の少女に聞いたようだった。
その少女はふらつきながら立ち上がっている最中だったが。
「……確かに黒龍を喚んだ感覚があった……」
「ならば何故結界を解いた!?」
「解いた筈は無い……リミッターもかかっている」
「ちっ…!何がどうなっているんだ!?」
俺が聞きたい。
まぁ言ったところで状況は変わらないんだろうけど。
そんなことより叫ばないで欲しい。血の足りない頭に響く。
そこで金髪の少女が助け舟を出してくれた。
「でも、もし黒龍だったら私達はもう死んでいる」
「それは……!……確かに、その通りだな…」
紅い髪の彼女があっさり警戒を解く。
もう半分以上諦めたが、出来るならもう少し分かりやすくお願いしたい。深く考えると意識が混濁しそうになる。
「それで……結局貴方は何?」
金髪の少女がふらついた足取りで近寄ってくる。
「あのさ……人間以外何に見えるよ?」
「……悪魔かもしれない」
「それじゃあ言わせてもらう。俺は正真正銘、人間だ」
「……そう」
何か腑に落ちないのか、それからは俺の左腕をじっと見つめている。まさか人間なら死ぬ筈だとか言われるのか?反論のしようがねぇなそれは。
「そうか、そういえば人間じゃないとあの結界は通れなかったな。……いやぁ!悪かったな!」
「はぁ、分かってくれたようで安心しましたー」
紅い髪の彼女が手の平を返したように話しかけてくる。
殺されなかっただけマシかと思った俺はもうすぐ悟りを開けるんじゃないだろうか?
「なんだその返事は?今にも死にそうな声だぞ?はっはっは」
「……いや、あんまり笑い事じゃないような気が――」
――フラリ
「へ?」
静寂。
ゆっくり倒れるのは重傷らしいが、まさにそれだろう。
目の前の彼女が反射で支えることも出来ずに、ゆっくりと倒れる。
「……重い」
それでも金髪の少女は、咄嗟に俺の傍に寄って前のめりに倒れる俺の身体を支えようとした。
しかし足に力が入らないのか、尻餅をついてしまう。
結果的に、いたいけな少女に抱き着く構図になった。
「……悪い、血まみれだ」
「いい。……でも思ったより気持ち悪い。それに割と暖かい」
血がほどよく糊状になっててべっちゃべちゃしている。暖かいのであれば尚気持ち悪いだろう。
……冷たくてもそれはそれで気持ち悪そうなのだが。
「ん?ええっ?あ、えと…ナイス!ナイス君!」
突然の出来事についていけなかった紅い髪の彼女をわき目に、俺の意識はブラックアウトした。
……ここまで見た方は次も見てね!
さもないと私は……おや誰か来たようだ。