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魔女のドウヨウ  作者: Nui
9/10

光の届く場所で

 悠との出会いは小学一年生から。元々俺は違う所に住んでいて、小学生に上がる時に引っ越しをした。だから全く知らない人達だらけで初めは凄く怖かった。そんな中、学校ででは自己紹介することになった。堂々と自己紹介している人もいれば、緊張してもごもごと話してしまう人もいた。俺も人前に出るのは苦手だが、自己紹介だけは何の苦も無くできる人間だった。皆が個性あふれた自己紹介をする中、悠は緊張でも自信満々でもないただひたすらにむすっとした表情だった。自己紹介もすごく簡潔であった。


「悠と言います。趣味はサッカー。よろしくお願いします」


 そのお陰で悠への第一印象は暗い人だった。でも俺は面白そうだと思って話しかけに行った。初めは警戒されてあしらわれていたが、めげることなく話しかけていけば向こうが折れた。


「変なやつだな。すぐに諦めると思ったのに」


「だって、悠は凄く面白そうだって俺の勘が伝えたからね」


 ニコリと笑って言えば、初めて笑ってくれた。その時には分からなかったけど、ここで俺は悠を好きになったんだと思う。そこから悠の友達を紹介してもらった。放課後、ぶっきらぼうに付いてこいと伝えられて分からないまま後ろをついて行った。そして違うクラスの教室へと入っていった。俺は一瞬戸惑ったが、意を決して中に入る。すると悠はとある二人に話しかけていた。少し気まずくて遠くから眺めていれば、悠が振り返りこちらへと歩いてくる。


「付いてこいって言っただろ」


 また少しむすっとして俺の腕を引っ張った。先ほど話していた二人のところまで行き、悠は深呼吸をした。


「こいつ、……僕の友達。優真だ」


「は……悠が、自主的に友達を作った!?おい!隼!聞いたか!?悠が、悠が!友達を作ったぞ!」


「よかったじゃん。智哉凄く心配していたもんね〜。悠が独りぼっちになるんじゃないかってずっと言ってたんだよ〜」


 これまた個性的な人達だ。智哉と呼ばれた子はまるで子どもが初めて家に友達を連れてきた母親のような反応をしている。隼と呼ばれた子は凄くふわふわとした話し方で、それでも嬉しそうに笑って悠を見ていた。すると智哉くんは俺の方を向いて嬉しそうに肩を掴んだ。


「優真!悠の友達になってくれてありがとう!こいつ、俺たち以外の友達は要らないとか言って全く交友を広げようとしなかったんだ!本当にありがとう!」


 凄く感謝をされた。確かに友達を作る気配全くしなかったんだと言えば、そうだよな!と強く肯定された。悠はこれ以上オカンみたいな事言うなと叫んでいるが、多分智哉くんには届いていない。そんな光景を見ていた隼くんはアヒャヒャと笑いだしてもうてんやわんやだ。俺はどうしょうもなくそれが面白くて、隼くんと一緒に笑い出す。そこから一緒に帰ることになり、またもや自己紹介をした。四人とも紹介を終えた直後また智哉くんが俺に話しかける。


「こいつ、常にむすっとしてるかもしれないけど根は良いやつだから。学校でも仲良くしてやってくれ。もう少ししたら優真へと人見知りもなくなるから」


 悠がむすっとしていたのは人見知りによるものだったようだ。智哉くんに言われなくても初めからそうするつもりだった。だからもちろん任せてと言えば安心したように笑っていた。そして四人での楽しい学校生活が始まったのだ。その生活の中で俺は幼ながらに無意識ではあるが恋をしていた。だから悠の一挙一動で俺の心は揺さぶられた。それを恋とは知らない俺はそれを悠自身に伝えていた。


「悠が笑うと凄く嬉しいよ」


「苦しいなら一緒にいるから」


 悠は恥ずかしそうにしながらも、満更でもない表情をしていた。だから調子に乗った俺は悠自身に想いを何度も伝えた。


「今日も会えて嬉しいよ」


「一緒に帰ろ!」


 今思えば本当に大胆だなって笑ってしまう。だってこれだけ漫画みたいなセリフを言って悠に気持ちを伝えていたのだ。高校の時の俺が見たら多分卒倒する。小学四年生にもなると恋というものを理解し始めて、悠のことが好きなんだと自覚した。そこから悠へ送る言葉には好きの文字が増えた。


「悠っ!俺を好きにさせるとはツワモノだねぇ〜」


 普通に考えたらこんな事言わないのは分かっている。でも好きなのは事実だし、言っても悠ははいはいと流してくれる。だから隠すことなく伝えていた。中学生までその生活は続いた。中学になると悠も俺に人見知りすることがなくなって、無邪気に俺を弄ることをしている。それが可愛いんだよとは言わない。悠が恥ずかしがって怒るからだ。そんな時ある時一人の女の子に呼び出された。悠は告白なんじゃないかとからかうがあの子が俺に向ける目は好きという思いじゃなかった。その感情はどちらかと言うと……。曖昧に笑って言われた通りの場所に向かう。目的の教室に入る。中にはもう女の子がいてこちらを見た。やはりそうだよな。女の子の目は俺を恨めしそうに睨んでいた。もし泣かれたら俺が悪くなるよなとか最低な事を考えつつ波風を立てないように優しくどうしたのかと聞く。すると女の子は俺を睨んだまま話し始める。


「私、悠くんが好きなの。でもあんたのせいでいつも邪魔されて困ってんの。だから悠くんから離れてよ。小学校からいたんだから少しぐらい離れても問題ないでしょ?悠くんが可哀想だと思わないの?」


 やっぱりそういう類だよなと心のなかでため息をつく。悠は体が大きくなって凄くカッコよくなった。サッカーをしていた影響か背がかなり高くなり、顔つきも男性らしくなった。だからこういう恋愛の問題がよく起きていたのだ。悠自身も何度か問題は体験していて、少しだけ女の子が嫌いになっている。俺には都合が良かった。女の子に構う時間が俺たちへと向いたのだ。これほど嬉しいことはなかった。


「というか、あんた気持ち悪いんだよ。ベタベタと悠くんに触れて好きだのなんだの。いつまで子ども感覚でいるか知らないけど、悠くんの迷惑を考えたことあるの?」


 その言葉に体は固まった。邪魔だと言われることは何度もあったから慣れてしまったが、気持ち悪いと言われたのは初めてだった。俺が黙ったのを良いことに女の子は言いたいことを吐き出すように俺へと文句を言う。


「同性なのに好きとかずっと一緒とか、聞いていて気持ち悪いんだよ。あんたの好みを悠くんに押しつけないでよ。あんたみたいな男に好かれるなんて嫌に決まってるのに、一応友達だから言えないって分からないの?悠くんの優しさにつけ込んで申し訳ないと思わないの?」


 ……そう、だったの?俺が好きとか言うたびに嬉しそうに笑っていたのは、俺の勝手な記憶だったの?智哉だって隼だって幸せそうに笑っていたのも、全部思い込みだった?俺が傷つくかもと思って言えなかっただけ?ずっと、小学生の頃からしてきたこの行動は、悠たちに迷惑をかけてきたんだ。サァッと血の気が引いた。指先が一気に冷えて感覚がない。気付いた頃には女の子がいなくなっていた。俺は床へとへたり込む。悠に気持ち悪いって思われていたのかな。智哉も隼もどこかで思いつつも黙ってくれていただけなのかな。三人とも優しいから俺に言えなかったんだろうな。そう思ったら年甲斐もなく涙が溢れた。


「嫌……だなぁ……」


 もう気持ちは隠さないと。誰にもバレないように。友達に気持ち悪いと思われないように。でも今日だけは泣くのを許してほしい。今日限りでこの気持ちは全て蓋をしてしまうから。誰に言っているのか分からない言い訳を心の中で繰り返す。涙も枯れた頃、ゆっくりと立ち上がる。帰らないと。外を見れば茜色。ずいぶんと一人でショックを受けていたようだ。繊細すぎる自分の心に嘲笑して鞄を取りに行くため教室へと戻る。部活の子しか残っていない時間でよかった。こんな顔を見られるわけにもいかない。教室の前まで来て涙が残っていないことを確認をして扉を開ける。教室には一人だけ残っていた。一体誰だろうと視線を向けると目が合う。……悠が残っていたのだ。


「悠?どうして帰ってないの?」


 咄嗟に表情を取り繕った。悲しんでいたことも、好きだということも全部隠して。するとスマホを触っていた手を止めて自分の鞄と俺の鞄を持って俺へと近付いた。そして俺の鞄を俺へと差し出しながら不思議そうに首をかしげた。


「今日も一緒に帰るんだろ?」


 ……覚えてくれていたんだ、俺が言った言葉。ただの言葉で悠を拘束するためだけの言葉。胸が温かくなると同時に感情を抑え込む。もう一緒に帰るのもできないよな。鞄を受け取れば、悠は教室から出て帰ろうとする。俺は動かないまま。


「おい、優真?」


 名前を呼ばれただけでこんなにも嬉しくなるのにな。ぎゅっと鞄を抱きしめる。


「もう、いいよ。悠は好きな時間に帰っていいんだよ。俺のことなんか……。智哉と隼と一緒に帰って」


 目を瞑っていないと涙がまたこぼれそうだ。声を震わせないので精一杯で、泣いていることなんて気にしていられない。俺は大丈夫だよ。今まで好きにさせてくれた記憶で、一人生きていくよ。足音が鳴って静かな空間になる。これでいいのだ。元々俺はあの三人に入れてもらえただけの人間。俺がいないほうがきっと。


「……一体、誰に何を言われたんだ」


 頬を撫でる優しい手と、怒っているのがすぐに分かる低い声に目を開ける。目の前には声の通り怒った表情をした悠がいた。怒っているのに、俺の流れ落ちる涙を拭うその手はとても温かかった。全てを言って許しを乞いたくなった。この温かさに包まれたまま全て。でも駄目だと手を握りしめる。これ以上迷惑はかけられない。ゆっくりといつも通りの笑顔を浮かべた。


「何も言われてなんかないよ。ただいつまでも悠を独り占めにするなんてだめだって思っただけ」


「……何年一緒にいたと思ってんだ。それが嘘だってすぐに分かるんだからな」


 今日の女子になんか言われたのかと凄まれる。嘘は許さないと口外に伝えられる。これ以上は悠にもたれ掛かる気がした。だから俺は一瞬の隙を突いて走って逃げた。後ろから待つように言われるが、それを振り切った。この時ばっかりは悠より足が速くてよかったと感謝した。すぐに家に帰ってカーテンを閉めて部屋へ閉じこもった。明日から悠たちに合わないよう時間をずらさなきゃ。なんて考えて明日の準備を始める。お風呂もご飯も終わって部屋で静かに考えていた頃、隣の窓が開く音がして窓を見る。そうだ、開けっぱなしだった。いつも帰った後も悠と窓越しに話していた。その癖が裏目に出た。窓を閉めようと立ち上がったとき、声が聞こえた。


「……優真。聞こえてんだろ」


 確信を持った声にカーテンを握る。悠には悪いが窓を閉めさせてもらう。取っ手に手をかけようと腕を伸ばしたところでまた悠の声が聞こえて、手が止まる。


「優真、全てが終わったら話してもらうからな。……明日もちゃんと学校に来いよ」


 言いたいことを言って悠はじゃーなと窓を閉めた。全てが終わったら?一体何のことだ。それでも不器用ながらにも心配をしている悠にまた温かい想いが溢れる。――今なら、悠も窓を閉じたし大丈夫だよね。


「大好きだよ、悠」


 俺の人生分の好きを乗せた。届かないけれど、今までを思い出して寂しさを誤魔化す。そこから悠を避ける日々が始まった。しかしここで問題が起きた。いつもなら俺が悠の席に行って構っていた。だから俺が悠のところへ行かなければいいと思っていたのに。まさか悠がこちらに来るなんて思いもしなかった。逃げさせる気がないのか、俺の肩に腕を回して話す。普段より距離が近いし、女の子に何を言われるのかと思って二重の意味でドキドキした。必死の思いでやめてと言ってもニヤリと笑って続けるばかり。そんな日が三日続いた。そして俺は放課後にいつもの三人に残るように伝えられた。何を言われるのかと深呼吸をしながら冷静に考える。待っていれば、三人が教室へとやってきた。静かに俺の周りを囲むように座った。気持ち悪いっていわれちゃうのかな。俯いて目を瞑る。静かな雰囲気を壊したのは悠だった。


「言っただろ。全てが終わったら話してもらうって」


「その前に説明がいるだろ。一つずつ話すから聞いてくれるか?」


 そういえばそんなこと言っていたななんて考えていれば、智哉が補足をしてくれるようだ。頷いて話を待てば全部説明してくれた。悠は俺に逃げられた後、二人のところへ行ったらしい。そして二人の協力の下、俺に文句を言った女の子を見つけてその子に悠が正直に全てを話し、二度と俺と悠たちに近付かないよう約束をさせたらしい。その結果女の子は違う学校へ逃げるように転校したとのこと。確かに女の子は急な親の転勤で転校すると言っていたけれど。……あの三日で?転校させるほどに女の子を追い詰めたのか?やりすぎだろとつい叫ぶ。すると三人は見事な笑顔で俺を見た。


「大事な友達を傷つけられて、黙っているだけのやつがいるかよ」


 皆、凄く怒ってる。俺のために、俺なんかのために。そう思ったら凄く笑えてきてお腹を抱えて笑う。急に笑う俺に驚きつつもいつもの表情に戻った。そしてまた四日ぶりの雰囲気になった。智哉は少し笑って悠を指さしながら俺に話す。


「今回、悠がすげー怒ってたんだぜ。俺たちが聞いていて可哀想だなと思うほどには女がボロクソに言われてたぞ」


「はぁ!?そんなん言ったら智哉だって二度と優真に近付くなって脅してただろ!」


「そんなことで口げんかするなよ~」


「お前が一番怖かったんだからな!!」


 智哉と悠が言い合いになっているのを隼が止めようとすると、二人は隼に集中が向いたようだ。見事に二人ハモっていた。何があったのか聞けば隼は女の子のバレてはいけない秘密を探し出して、脅したらしい。……本当にやりすぎだろと頭を抱える。女の子が何をしたって言うんだ。すると隼はいつもとは少し違う、背筋の凍るような笑みを浮かべた。


「そりゃ、俺だって優真が泣くほど傷つけられていたなんて聞いたら怒るよ」


 怒るの次元を超えているだろ。頭を抱えて、もう全てが馬鹿らしくなってまた笑った。ここまでしてくれる友達に出会えたんだなと思ったら、勝手にありがとうと感謝の気持ちを伝えていた。彼らは俺の感謝の言葉に驚いたが、笑って受け取ってくれた。そこまでしてくれた三人に俺は素直に全てを話した。迷惑をかけていると言われたことも、気持ち悪いと言われたことも。そして俺は言葉を控えることも全て。


「優真が遠慮する必要なんてどこにもないぞ?」


「そうそう。気持ち悪いなんて思ってなんかないよ」


「……いいの。智哉も隼も悠も好きだし、もっとずっと言いたいけど、それで皆に変な印象がつくなら止めるよ」


 これができる限りの譲歩だった。本当は好きという感情すらも隠して離れたかったけれど、俺が離れても皆が来てしまうから。俺は友達を演じるよ。あれだけ苦しかった気持ちに蓋をするという行為が今なら彼らのためにできる気がした。想像通り、何の苦も無くとは言わないが友達になるということが慣れてきた。気持ちに蓋をする事にもだいぶ慣れてきた大学生。悠の紹介の元、ゲーム同好会へ入った。元々俺達はゲームが好きだったので、それを活かせると思ったらすごくワクワクしたのを覚えている。そこで悲劇が起きたのだ。同好会には悠也さん、怜さん、蓮さんがいた。悠は一人でゲームをしていた時に出会ったことがあったらしく、初めから仲が良さそうに話しかけていた。


「そう言えばあのゲームさ……」


 その景色に頭を殴られたかのような衝撃が走った。俺と同じ、いやそれ以上に近い距離感にいたのだ。どうして?何年も一緒にいた俺よりゲームで会ったことあるだけの人の方が楽しそうなの?俺に対して今でもたまにぶっきらぼうになる時があるのに、あの三人の時にはその気配すら感じない。なんで。今まで隠してきた感情の蓋が外れかける。顔は歪まないでいられた。しかし俺の心の中は黒い感情で埋め尽くされた。羨ましい、どうして、渡したくない、嫌だ、たくさんの感情がぐるぐると混ざり始める。感情に溺れて息ができなくなってしまう。俺は咄嗟にトイレに行って必死に感情を抑え込む。黒い靄に体が覆われる。これに包まれたら人間ではなくなるとどこか本能的に悟った。いつも通り蓋をしようとしても上手くいかない。それどころか隠そうとするほどに溢れてくる黒い靄。助けを求めた指の先まで靄に覆われて俺は――魔女になったのだ。

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