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魔女のドウヨウ  作者: Nui
3/10

一日目

 体を芯から冷やす風を感じて目が覚める。隼のやつまた俺の布団取りやがったな。隼はとにかく寝相が悪い。隣の人を蹴るとかではなくて人の布団を奪っていく。かなり厄介なタイプの寝相だ。だからこいつは端にするべきだってずっと言ってんのに。なんて文句を呟きつつ、体を起こして取られた布団を奪い返そうとする。”赤い床”を見て思考が停止する。……はっ?なんで赤なんだ?ゲーム同好会の床は白のタイルだというのに……。そこで何かがおかしいと感じて顔を上げる。7人寝転がっているというのにまだまだ広いと思わせる程、大きな部屋に俺達はいた。そこはまるでホラーゲームに出てきそうな洋館だった。壁にはロウソクの明かりがあり、炎は揺らめいでいる。そのゆらぎに合わせて起き上がっている俺の影が蠢く。そして高級そうな赤い絨毯。壁はシンプルに白で統一感がある。作り物のように完成されている部屋だ。どうして……寝る前はゲーム同好会の部屋にいたはずなのに。ここは――知らない場所だ。その事実に恐怖を覚え血の気が引く。とりあえず寝起きが一番良さそうなゆーさんを起こす。


「ゆーさん、ゆーさん!起きて!」


 他の人が寝ているだなんて考えられる程の余裕はなかった。いっそドッキリであってくれ。今なら怖かったんだからなって笑って済ませられるから。しかしそんな願いも虚しくゆーさんは起きない。それどころかこれだけ大声で叫んでいるのに、近くにいる隼や優真ですら身じろぐことをしない。嫌な予感がして冷や汗をかく。腕を伸ばし隼の顔に震えた手を置く。かすかだがしっかりと呼吸をしている。怖くなり、その他の全員が呼吸しているかを確認する。全員生きている。それを確認し少しだけ安心する。……ならばなぜ起きないのだろうか。そんな夜中なのか?周りを見るが時間を知ることができる道具は一切ない。怖いなんて言ってられないな。覚悟を決めて立ち上がり、恐る恐るカーテンがかかっている窓へ向かう。これで窓の外に何かあったとき叫ばずにはいられないなとどこか冷静に考える。カーテンを持ち深呼吸を一つ。そして一気に開ける。


「……は?昼?」


 開けた先の景色は光が差しこみ反射し眩しいであろう草むらであった。眩しいであろうと曖昧にいうのも太陽が見えないからだ。それなのに草木には光が差し込んで影ができている。どういうことだ?一体何が起きて……。分からないという事実が俺を恐怖に陥れる。誰か一人でも起こさないと……。その思考に駆られてマットレスの上で寝ている三人の頭側に立つ。この中で一番寝起きがいいのは……。


「おい!!優真!起きろ!」


 普段ならこんな叫ばなくても起きるというのに、まだ起きない。俺はそれがとてつもなく恐ろしく、優真の頭を叩くように揺らす。視界は軽くぼやけて頬に冷たい感覚がある。


「おい!起きろ!起きろってば!優真!」


 泣き叫ぶような声に反応したのか、優真がもぞもぞと動き始める。


「ん〜、はる……いたっ、痛い痛い、起きたから……痛っ、ちょ、ちょっと落ち着いて!悠」


 その声に叩いていた手を止める。起きた、生きていた。そのことに安心して涙が余計に出てくる。優真はもうなに?と文句を言って俺の方に顔を向ける。そして俺を見て分かりやすく慌てだす優真。刺激しないためか優しく声をかけられる。


「どうしたの悠?なんか怖い夢でも見ちゃった?」


「どんだけ叫んでも起きないお前が悪いんだよ……」


「叫んでた?ごめん……全然分からなかった」


 ごめんねと背中を擦られる。ちゃんと温かくて安心できる。なんとか涙も止まって、みんなが起きない恐怖も少し小さくなったところで優真に聞いた。


「ここ……どこだ。それに皆起きないんだよ」


 俺の質問に改めて周りを見る優真。全く見覚えのない部屋に顔を青くして嘘だろと小さく呟いた。体が震えているせいか声も震えている。ぎこちなく俺の方を向いて問う。


「これ……ドッキリ?」


「俺だってその説を信じたかったよ」


 窓を見てと指差せば、ゆっくりと歩いていく優真。そして景色の異常に気がついたのだろう。どういうことと俺に聞いてくる。知らないと応えようとした時、優真がヒュッと息を飲んだ。そして俺の方に走り抱きしめた。さっきより真っ青になった顔で俺を抱きしめている。だがカタカタと尋常じゃないほどの震えだ。どうしたのかと聞けば、震えた小さい声で言う。


「そ……外に……女の子がいて、俺、目が合って……笑ったんだ」


 即座に外を見るが女の子なんていない。しかし嘘を言っているような感じでもない。大丈夫だと今度は俺が優真の背中を擦る。体の震えが少し収まったところで、皆を殴ってでも起こすことにした。試しにもう一度叫ぶが、身動ぎ一つしない。なので隼と智哉は優真に任せる。そして一番叩いても許されそうなれーさんから起こすことにした。頭を思いっきり揺らすようにして起きろと叫ぶ。


「んん、怜!頭揺らすな!……って悠くんやん」


「れーさん、説明は全部後にするからとりあえずりょーさんを起こして」


 俺の真剣な表情と周りの見慣れない景色に驚くれーさん。そうだよな、でも皆を起こすのが最優先なんだ。お願いと頼めば、起こせばいいねんなと言ってりょーさんを殴っていた。……そんな殴っていいのか?そういえばさっきもりょーさんの名前言ってたな。夢の八つ当たりか?なんてことはどうでもいい。俺はゆーさんの傍に行き頬をペチペチ叩く。


「ゆーさん、ゆーさん。起きて!」


「んえ……はるぅ?何……トイレ?」


「寝ぼけてないで起きろ!ゆーさん!」


 お前らよくこの異様な館で寝ぼけていられるな。俺はこんなにも怖かったというのに。りょーさんは大丈夫かと見ればれーさんと軽い言い合いをしていた。これで年上組は全員起きた。後の二人は……と見れば顔を青くさせて優真から距離を取る二人がいた。……一体どんな起こし方をしたというのだ。しかしこれで全員が揃って起きた。やっと第一歩進んだ。だが問題はまだまだある。怯えてる二人と言い合いをしている二人をゆーさんが宥めて俺の言葉を待ってくれる。最年長は伊達じゃない。


「話すって言っても俺も分からないことが多いんだ」


 それでもいいな?と聞けば静かに頷く。今は情報がなさすぎるから、少しでも情報があるのなら聞きたいと。なので俺が起きたときからの話をし始める。一番最初に起きたこと、大声で叫んでも誰も起きなかったこと、優真が見た窓の外の女の子のこと、些細なことまで全部話した。しかし全てを合わせてもこの状況を理解する程の情報とはならなかった。こんなことなら怖がらず探索するべきだった……。ゆーさんとかなら役立つ情報をどこからか取ってくるだろう。自分の弱さに情けなくなる。その気持ちのまま皆に謝る。


「ごめん……もっと行動するべきだった……」


「ううん、逆に悠が動かず俺らを起こしてくれて助かったよ」


 ゆーさんは俺の肩に手を置いて優しく微笑んだ。名前を呼べば頭をゆっくりと撫でられる。


「何がいるか分からない状態で1人で対処するのは多分無理だ。それに起きた時にお前がいないと俺らは絶対パニックになるし、怪我をしていてもパニックになる。この状況では混乱を避けるべきだ。だから怪我もせず、まず起こしてくれて良かった。ありがとう、悠」


 本当にこの人は……。これだからパパって呼ばれるんだよ。でもその言葉でさっきまでの自己嫌悪は消えた。また先輩というものに頼ってしまったが、今だけはこの優しさに救われていたい。心も落ち着いて状況理解を進めようとした瞬間、どこからともなく誰でもない女の子の声が聞こえた。


「ゲームの始まりだよ。逃げ切れるかな?」


 女の子は幼い声で、無慈悲に、残酷に笑った。その瞬間ゲームが始まる。


「なんだ……さっきの声、しかもゲームって……」


 その言葉に、優真が一瞬だけ視線を落としたのを俺は見た。そしてりょーさんが険しい顔をして呟く。結論付けるには早いが、もしかしたら優真の見た女の子が大きく関わっているのではないかと考えてしまう。頭の中で逃げ切れるかなという言葉が反芻する。ゲーム、逃げる、女の子。この三つから出てくるものはやはり鬼ごっこ。この館には何かがいて、それから逃げつつこの館から出る必要がある。と言ったところか?ほぼ全員が同じ思考をしていたが、1人だけこの意見に難色を示している。――りょーさんだ。


「逃げるっていう言葉だけで、鬼ごっこと持って行くには少し飛躍していないか?そりゃ、鬼から逃げるともとれるが、主語は別にこの館、運命とかでも全然使える。……まぁ何かがいるって思って行動する方が安全か」


 りょーさんは邪魔したなと謝るが、よくよく考えればそうだ。あまりにも結論を急ぎすぎている気がする。しかし実際警戒しながら行動する方が安全だ。気を付けつつ頭を切り替える。そしてゆーさんが真面目な顔をして言う。


「俺ら以外の人間がいる前提で動こう。あと、武器になる物はここのものだとしても持っていて。相手は話が通じない可能性があるから」


 皆頷く。ゆーさんはそれぞれの顔をしっかりと見た後、玄関を探しつつ探索しようと立ち上がり扉へと進んでいった。ゆーさんとりょーさんが先頭を歩き、一番うしろにれーさんがいる。似たような道をもう10分ぐらい真っ直ぐ歩いている時、俺に変化があった。歩いている間ずっと視線を感じるのだ。――俺達の行動を後ろからじっと観察していると確信する程度には。そのせいか緊張感が俺を包む。我慢できずに後ろを確認するがろうそくによって写し出された影しかない。確認したというのに未だ感じる視線、背中に気配が絡みつく感覚。一体誰が俺を監視するのだ。なんとも言えない恐怖を抱えながら皆に着いて探索を進める。そして探索して30分、とある一つの部屋を見つけた。そこは図書館と言っても過言でない程本がたくさんある場所だった。通り過ぎようとした時、優真が声をかける。


「悠也さん、ここなら館の歴史とか知れるかもしれません。ここで情報収集しませんか」


「でも出入り口を探すほうが優先だと思うけど……」


「さっき窓が開けられないか確認したんですけど、叩いても揺さぶっても全く動きませんでした。この感じだと扉も同じだと思うのですが」


 試しに近くにあった窓を叩く。たしかに動かない。揺さぶってみても変化はない。もはやこれは窓ではなく圧迫感のある壁だと錯覚してしまう。30分歩いても見つからない玄関、進んでここに戻ってこられる確証はない。それならば情報を集めるのもアリだ。ゆーさんも納得して図書館へ進む、そして一言。


「最低でも二人、できるなら三人以上で行動しよう」


「それならいっそ3と4で動きませんか」


 それを智哉が止める。それもそうだ。いっそ決められた人と行動するほうが、何かあったときも対処しやすい。それならばとグループを作った。俺と優真とゆーさんの三人。そしてりょーさん、れーさん、智哉、隼の四人で別れて行動することになった。早速本を探すことになった。この館に関する本を探すといったてここまで多いと中々……探し出すのに苦労しそうだ。本を探すのに当たって俺は一番上の段を、ゆーさんが真ん中二個、優真が一番下の段を見ると、役割を分担して探していった。歴史と書かれている本を見つけては中身を確認し違うものであるという行為を何回か繰り返していたときのこと、れーさんが俺達を呼ぶ声がした。声がする方へ向かえば一つの本を囲む四人の姿があった。


「隼くんが見つけたんやけど、この館の人の日記やと思う」


 指さす物を見れば確かに日記だ。中身を少し読めば、お嬢様という言葉が出てくる。ということはこの人はメイドや召使いと言った立場の人だろうか。こんな広い洋館だ、そういった存在がいてもおかしくはない。次のページに進むと二つ折りされた紙が挟まれていた。日記によるとお嬢様の魔法使い像を描いたものらしい。どういうことだ?紙を広げて伸ばす。すると幼い字で書かれていた。


『まほうつかいは歌で悪いひとをたおす!

 かごめかごめ 悪いひとをこうげき!つたで捕まえてお花を咲かせる!

 ひらいたひらいた 悪いひとを見おくる。てんごくに行けるようにいのるうた!

 とおりゃんせ すなになるまほう、体がすこしずつくずれる』


 この子が描いた魔法少女は童謡で戦う人らしい。子どもらしくて微笑ましい。頑張って漢字を書いたのが分かる筆跡だ。少しだけ和やかになる。周りを見れば子どもが好きなりょーさんと優真はまだ紙を見ていた。りょーさんは微笑みながら眺め、優真は筆跡を辿るように指でなぞった。どうしてか優真の顔が悲しそうにしていた。だがここの歴史とは関係がなさそうだ。少し悲しいがこれは本に戻しておこう。二つ折りにしてまた元の位置に戻す。戻したとき本に赤いシミができているのに気が付いた。裏写りしてるのかな?と軽い気持ちで次のページを捲る。


『慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない慈悲はない 慈悲はない 慈悲はない』


 全員が息を飲んだ。次のページには真っ赤な太い字で慈悲はないとなぐり書きされていた。ページの端まで埋め尽くすほどのその文字は血のように滲んで、今もゆっくり広がっている気がした。な……んだ、これ。怖いのに……目が離せない。恐怖で心臓が鳴り響く。文字が変形して笑っているように見える。大きな口を開けて――文字に喰われる。直感がそう伝えた瞬間、本は机の上からなくなった。いや誰かの手が伸びている。――優真だ。


「すみません!怖くて勝手に手が……」


「助かったよ。あれは多分長く見ちゃいけないやつだ」


 優真とゆーさんが何か言っているが、俺はあの文字が忘れられなかった。あれは誰が書いたものだ。ぐるぐると頭の中で文字が蠢く。慈悲はない、一体何の慈悲だ?それに誰の……。


「それ以上は考えるな。なんか嫌な予感がする」


 思考に深く落ちる瞬間、りょーさんが俺の肩を叩いた。――確かに、深く考えないでいよう。これ以上はあの文字に飲み込まれる気がした。頭を振って切り替える。りょーさんに感謝を告げて整理する。今のところここに関する情報は揃っていない。お嬢様と召使いがいるぐらいか。どうしたものかと考えていれば、隼が落ちた日記を拾い上げてパラパラと捲る。大丈夫かとハラハラしたが少ししてニヤリと悪役のように口角を上げた。


「ビンゴ、始めの方に少しだけ情報が載ってたよ~」


「ナイス判断。要約してくれる?」


 この館は今から85年前にできた館。名前は「幻歌館」。当主は差別を受けてこの場所に館を作った。その差別が今でも続き人ではないものが住んでいると噂が広がっていたみたいだ。そして幻歌館はもう一つの噂があった。それは館自身が生きているというもの。二つとも身も蓋もない噂でしかないが、ここに住んでいる人は全員短命であるらしい。


「ということは、逃げ切れるかなっていうのはこの館と人ならざる者から……ということでしょうか」


 智哉の仮説が断定できるほどの情報量はなかった。だが噂から考えるのであればそう考えるのが妥当であろう。曖昧に答える。生きている館に人ならざる者。考えれば考えるほど現実離れをしている仮説しか出てこない。館から逃げるはまだしも……人ならざる者から逃げる。これが一番の難問だろうか。今日一日周りをずっと気にしていたが俺達以外の気配は全くしなかった。視線はひしひしと感じるが、俺たち以外の人がいるとは言えない。今までに干渉が一度もないというのが謎である。ここまで好きに動いているというのに妨害をする気配すら感じない。所詮は噂と考えていいのだろうか。全員が何も言えない中ゆーさんが手を叩いて俺たちを注目させた。


「今日はもう進まないでいよう。いつまで閉じ込められているか分からない以上体力の温存をしておきたい」


 それに賛成して本を元に戻しておく。不安を残して俺たちは図書館を出た。そして探索しているときに見つけていた寝室へ帰る。見つけた寝室は初めに居た場所とよく似ていた。違う場所はベットが置かれていることか。まるで俺たちが来ることを知っていたかのようにあらかじめ7つのベットが置かれていた。しかしベットの位置が異常だ。7つのベットが円を描くように配置されている。しかも足が中心に向いていて、まるでその何もないはずの真ん中に誰かがいるのではないかと錯覚させられてしまう。試しに動かしてみたがまるで動くのを拒んでいるみたいに全く動かないベット。この館の主またはゲームの主催者は俺たちをとことん気味悪がらせたいようだ。そうして諦めて寝ることになったわけだ。


 「いきなりこんな所に来て怖いのは分かるけど、体力温存のためにも目を瞑ってね。じゃあ、おやすみ」


 寝られないのを見越してか、優しく俺たちに言うゆーさん。そして寝ることになった。今までの情報を少しだけ整理するために、今日の一日で謎のままで終わったものを思い出す。まず優真が見たと言っている女の子。探索中に何度か窓を確認していたが、女の子と思われる存在は見られなかった。ゲーム開始の合図を出した声がその子なのだろうか。その場合、なぜ少女が俺たちを閉じ込めるのだ。閉じ込める方法もわからない。あと謎なのは日記に書かれた慈悲はないという言葉。日記を記していた本人の字とは正直思わなかった。殴り書きをしたにしては崩れすぎている。まるで子どもがまねをして書いたように歪んでいて拙さが感じられた。その場合誰が、誰に対して慈悲はないと言ったのだ?……分からない。そもそも情報が少ない。そういえば寝られるわけがないと考えていたが、今はうとうととし始めた。初めてのことばかりで緊張し続けていたからなのか、簡単に意識は落ちていった。



 ――布団ではない布が擦れる音で目が覚める。よく周りからは無神経や図々しいと言われることがあるが、こんな不気味な館に閉じ込められて何も考えず寝られるほどに図々しくなったつもりはない。ため息をついて体を起こす。何となく全員いるかを確認する。うん、ちゃんと7人いる。よかった。皆張り詰めた空気を出していたから、やはり疲れてしまったのだろう。寝られて良かった。勝手に年上組と呼んでいる3人は特に張り詰めていた。年上だからという責任のせいか何をするにしても自らが先に動いた。だが3人とも瞳が常に揺れ動いているのを見ていた。彼らだって不安なのだ。それなのに俺たちにその不安を伝えないように取り繕っていた。先輩は凄いな。俺たちにはできないや。どこからか冷たい風が吹いて布団に包まろうとして、違和感に体を勢いよく起こした。景色が一変したのだ。そこはステンドグラスがあり、長椅子が置かれた教会のような場所だ。布団も他の6人もいない。一体何のつもりだと周りを警戒すれば後ろから足音がする。咄嗟に振り返る。そこにいたのは黒いマントを頭まで深々とかぶり俯いている人。そのせいか顔は見えない。


 「っ!ここに連れてきたのは君?」


 相手は答えない。そうだよなとどこか冷静に考える。どうしたものか。逃げ道は相手を通り越した先だ。動いた瞬間に奇襲をかければなんとかいけるか?じっと相手を見る。静かな空間の中動いたのは相手であった。


 「【かごめ かごめ かごのなかのとりは】」


 聞き覚えがある曲だ。なぜ急に童謡を……。なんて考えているのが駄目だった。どこからか出てきた蔦に俺は捕まった。本気で暴れても振りほどけない。普通ならあり得ないほどの硬い蔦だ。殺されると本能が察して勝手に生き残ろうと動く。しかし手足が拘束されて完全に動けない状態になった。俺はどうしてかとても冷静になった。多分諦めてしまったのだろう。こんな現実離れしたものから逃れるなんてできないと。そして相手の歌が止まると同時に蔦も動かなくなった。


「最後に言い残す時間でもくれるの?」


 問いかけるが何も言わず動かない。ということは肯定。その行動に笑う。それならば。


「じゃあ、最後に教えてよ。君は誰?」


 出会ったとき、どうしてか君に安心したんだ。迷子になった子どもが母親を見つけたときのように、失敗したときに仕方ないなと手を差し伸べてくれた皆と居たときみたいに。質問しても動かない。そりゃそうか。教えるわけがない。と諦めたとき、相手がフードを取った。顔をみて目を見開く。そんなこと知ったことはないと言うかのように最後の歌を歌う。


「嘘……どうして……」


「【うしろのしょうめん だあれ】」


 歌い終わった瞬間突き刺されるような痛みと共に心臓から花が咲いた。花は俺の血を吸って赤く、紅く染められる。暗くなる視界の中手を伸ばす。

 ――ねえ、どこで間違えちゃったの?

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