優真の運命
ゆっくりと顔を上げた。随分と昔からの記憶を辿っていたなと考えて、ふと重さを感じて視線を下げる。俺の腕の中には悠がいた。あぁ、そうだ。俺は、嫉妬に狂った俺は友達と先輩を殺し、好きな人すらも手に掛けたんだ。どこか冷静に、それでも夢の中のような感覚。ただ何となくもう冷たくなってしまった悠を抱く。そして頬に触れる。それから投げ出された手を繋ぐ。握り返す力も温かさも感じない。その瞬間脳裏で映像が流れる。ーー小さい女の子がとある女の子を抱いて泣いている。懺悔するみたいに歌を歌っている。
「っはは!あはははは!」
全く同じじゃないか。涙を流しながらその滑稽さに笑う。結局俺も魔女だったのだ。あれだけ抗いでいたつもりだったのに、魔女にならないと思っていたのに。……結局、悠に恋をした時点で俺はこうなる運命だったのだ。歴史は、悲劇は繰り返されたのだ。なんと愚かなのだろう。なんとちっぽけなのだろう。笑いすぎて苦しい。それでも笑いは止まらなくて。この涙も笑いすぎたことによるものなんじゃないかと思い始めた。
「ははっ!は…、は………っ!」
笑いは収まり、涙だけが流れる。あぁ、ちゃんと俺は泣けていたのだな。悠の、皆の死に悲しめていたんだ。少しだけ冷静になった頭で思い出した。悠也さんのへにゃりとした笑い顔。怜さんの釣られてしまう笑い声。蓮さんの仕方ないなという呆れ声。智也の心配そうな瞳。隼の穏やかな雰囲気。そして……悠の温かい手。全部なくなった。俺が壊したのだ。俺が!全て!!
「あああああああぁぁ!!!!」
どうして、なんていう意味のない言葉が頭を埋め尽くす。亡くした命は戻らない。ずっとずっと前から知っていたことなのに。どうして理解できなかった。どうしてもっと抗おうとしなかった。何よりも大切なものだったのに。恋が叶わないなんて関係なかった。ただあの温かい空間を、あの温かい表情を守りたかっただけなのに。
「悠!!!はるっ!!!」
もう手は差し伸ばされない。ひしひしと実感して絶望感が俺を包む。もう何もなくなってしまった。叫ぶ力もなくなり、ただひたすらに涙を流す。ごめんなさいなんて言えなかった。この責任から逃れるために使いそうだから。あいつらはそういうのが嫌いだ。だから。だから俺は……。
「【とおりゃんせ とおりゃんせ】」
あの子がしたように、あの子の運命をなぞるように歌う。懺悔と後悔、そして別れ。いろんな感情が混ざる。すると俺の体が砂のように崩れていく。ははっ、全く同じだ。あの子も震えた声で歌っている。幼い優真の声で、いや、優真の中の “彼女” の声で。子ども特有の高い声に合わせて俺も歌う。
「【いきはよいよい かえりはこわい
こわいながらも
とおりゃんせ とおりゃんせ】」
歌い終わり、そして覚悟を決める。
「【ひらいた ひらいた】」
ごめんね。その言葉がこぼれ落ちる。でも俺はもう逃げない。この重くて苦しい責任を全て持つよ。だから。
「【つぼんだと おもったら
いつのまにか ひらいた】」
こんなにも後悔してるのに、悠を好きになって良かったって思っちゃうのはどうしてだろう。例え許されなくても悠を思っている時間は何よりも幸せだった。悠と皆で笑い合っている時間が何よりも楽しかった。もう腕も崩れた。もう時間は残されてなかった。
「悠也さん、怜さん、蓮さん、悠、智也、隼、ごめんね。……悠、大好きだよ」
最後の涙を一筋流して崩れ去る。ーーとある部屋で1つの死体があった。それは周りにあった砂の塊を抱きしめ、悲しそうに笑っていた。そこにはひたすらに温かい想いだけが存在した。
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