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⑨絶好調な時ほど要注意

 

 たかが1ヶ月の健康増進法と侮る勿れ。

 当代一と言われるだけの聖女であるエディトの身体は、打てば響く良い身体。

 見た目こそさほど変化はないものの、規則正しい生活と適度な運動、健康的な食事及び良質な睡眠によって基礎代謝と体温が爆上がりしていた。

 それは『むしろ今までどれだけ不摂生してきたんだ』というツッコミが不可避な程に。



「寒いぃぃぃぃッ!!!!」



 ──なのにコレ。


 そこには明確で明白な理由があった。

 エディトは今、雪の舞い散る山で遭難しているのである。

 彼女はまたも、やらかしてしまったのだ。


 どうしてこうなったかと言うと。

 話は数日前に遡る。





 俄然やる気になったエディトは、いつもなにかと面倒臭がる彼女には珍しく『華々しい聖女嫁デビュー』を目論み出した。


 なにしろこの1ヶ月、全く祈らずに緩やかに健康増進を重ねたエディトの体調は、今までに感じたことがない程の絶好調。

 どうやらこれまでの無気力さは、性格だけでなく体調も関係していた模様。


「トマスさん」

「おや、エディト様。 どうなさいました?」

「この土地や騎士団のことをもっと知りたいな、と思いまして。 特に今の時期のお仕事内容とか」

「それは素晴らしいですな。 少々お待ちください。 比較的わかりやすいものを纏めて、お部屋の方へお持ち致します」


 トマスは快く資料を用意してくれた。


 これまで自主的な調べものなど、自分が困った時や困りそうな時にしかしなかっただけに、エディトの本気度はかなり高い模様。


(これで『トンチキ聖女嫁』のイメージを払拭してみせるわ!)


 自身が上手いこと伏せたので、ユリウスに言われたのは『変な嫁』程度。

 だが、エディトは何気に初夜でのやらかしを気にしており、『トンチキ聖女嫁』と皆に思われた気がしてならなかった。

 まあ、自覚があるからだろう。(辛辣)



 この時期の辺境騎士団には、年間を通しても最も危険度の高い任務があるようだ。

 実におあつらえ向きである。


 それは『溶けない氷(エーヴィゲス・アイス)』と言われる、この時期に自然発生する魔石を飲み込んだ魔獣の討伐。


 この『溶けない氷』はブラシェールにそびえ立つトラウト山の中にある『冬の魔(ヘルツ・デス・)女の心臓(ヴィンターツァウバー)』と呼ばれる魔素の塊から発生するらしい。

 この山は湧水や川を伝い、通常は緩やかに魔素を排出するが、冬になると必ず『溶けない氷』を作り出す。


 そして毎年、必ずこれを取り込む魔獣が出るのだが、面倒なのはこれだ。『溶けない氷』を取り込んだ魔獣は、激強で凶暴な魔獣として変貌を遂げるのである。

 冬を越すための身体強化では、などと言われているが定かではない。


 そもそもの原理がよくわからないあたり、ユリウスは『ファンタジーだなぁ~』などと思っているのだが、それは兎も角。


 どこかに大きな魔石となって出現するだけに、魔獣が取り込むのを未然に防ぐのは実質不可能であると言っていい。

 なので最初の仕事は、(もっぱ)らトラウト山とその裾野に拡がる森の、塔からの監視と巡回警備が主。

 魔石を体内に取り込んだ魔獣はゆっくりと変貌し凶暴化していくので、早期発見が早期解決の鍵となるのだ。


 危険度は高いものの、遺骸から取り出した『溶けない氷』は希少鉱石。宝石としても魔石としても、超高額で取引され、ブラシェール領の重要な資源でもある。



(ふんふん、成程なるほど?)


 勿論、この討伐に参加するつもりだが。

 問題なのは、ここから。


(旦那様に頼んでも、きっと連れて行って貰えないわよね~。 お優しい方だもの……)


 だからといって、別の人に頼むのは気が引ける……大して知らない、というのもあるけれど、夫であり指揮官であるユリウスを無視して誰かに頼むなんて、『コイツ舐めてんのか』と思われても仕方ない暴挙。


 長らく社蓄同然で人生が聖女業だっただけに、その辺の気は使えるのである。


(ここは騎士団が討伐に向かったあと、別のことをするフリをしてそこから穏便に離脱、合流……コレよ!)


 そうと決まれば、追い掛けやすい状況とそれらしい理由(イイワケ)──まず考え、整えるのはソレだ。

 ついでに、どうせなら『離脱は穏便に、合流は劇的に』が望ましい。


(一人じゃ難しいわ、協力者が必要ね)


 そして着々と動き出したエディトだったが。





 ──結果、この回の冒頭に戻る。

 これはもう、『トンチキ聖女嫁』待ったナシ。


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― 新着の感想 ―
『離脱は穏便に、合流は劇的に』←やばい、もうフラグにしか見えない(笑)
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