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寒がり聖女と巻き込まれ系辺境伯の婚姻~溺愛の方は努力するんで、ざまぁフラグは回収しなくてもいいですか?~  作者: 砂臥 環


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㉟帰路の途中で

 

 雪道をひとり、ユリウスは雪玉・ブランカに引かせたソリに乗り、森を駆けていた。

 スピードを出すなら、技術はいるがムースに引かせるソリよりも圧倒的に早い、雪玉ソリ。

 こうしてショートカットも可能という利点もある。行きの半分くらいの時間で本邸に着くだろう。


 両親の予想に反し、ユリウスは怒っていた。

 そもそも誰の為に色々しているというのかを考えたら、怒るのもやむなし。


(まあ、俺にも悪いところはあったけど!)


 だが、反省すべき点は己にもある。

 怒ってはいても、ちゃんと自分の悪いところも振り返るのが、彼のいいところ。



 いつまで経っても迎えない初夜。

 新婚旅行で元カノ合流。

 ファースト・キスはまさかのダンジョン。

 いつまで経っても迎えない初夜。(ループ)



(悪いところは……あった、確かにあった…………)


 思い返すと大分酷い気がしてきた。


 特に二番目のは、間違いなく毅然と対応すべきだった。

 別に相手がヘルミーネだからとかではなかったが、性格的に女性には強く出にくいタイプなのは事実。『男だったら断ってただろ』とツッコまれた場合に反論し難く、また後ろ暗いところがなかったとはいえ、新婚旅行に妻の知らない既知の女性の参加を許すなど『デリカシーがない(ノンデリ)』と謗られても文句は言えない案件。


 もし自分が前世で読まされたWeb異世界恋愛小説のヒーローならば、感想欄で読者から『押し弱すぎ草』『こんなのが辺境伯とか無理筋』ともっともな叩かれ方をするだけでなく、『気弱クズ』という不名誉な称号を賜った挙句、『ヒーローがダメ過ぎて魅力を感じません。 もう読むのをやめます。』という要らんお気持ち表明つきでブクマを外され、作者に大ダメージを残すに違いない。


(ヤバい、なんか落ち込んできた)


 ついでにさっき、ヘルミーネにちょっとドギマギしてしまった。

 単純にそれだけであって、いうなら小説でヒロインがヒーローではないイケメンにドキッとしてしまう程度のことで……言い訳がましいが本当にだからどうこう(・・・・・・・)というのは一切ないのだ。

 とはいえ、なんならそれも鷹に報告されているかもと思うと、もう。自分がエディトの過去の想い(※事実無根)にこだわっているだけに、居た堪れなさが酷い。


(でも、だからって──)


「うわっ!?」


 余計なことを考えていたせいで、カーブに身体が対応できず、ソリから投げ出されるかたちで転げたユリウス。

 雪まみれになりながら、ついでにやり場のない怒りをぶちまける。


「……帰ることはないだろうッ!?」


 人気どころか動物の気配もない雪の森。

 彼の怒声は、広大な森を包む雪がひっそりと吸い込んでくれた。


 自然って優しい。

 両親とは大違いだ。


『森は生きている』という何故かカタコトでの謎フレーズや、『森へお帰り』という多分アニメかなんかの台詞と思しきモノが頭に過ぎる。溜息を吐きつつ『前世の記憶、全然イイ仕事しねぇな……』などと諦念と共に思いながら、再びソリに乗った。

 帰るのは森でなく、辺境伯邸なので。


(伯爵令嬢になにがあったのか、肝心なところも聞けてないし……本当、なにをやってんだか)


 まさに後悔先に立たず──だが、森を抜けたユリウスの行先には、立っている者がいた。


 馬車と、おろおろしている馭者と、主と護衛といった風情の男がふたり。


 明らかに雪道に嵌ってしまっている様子。

 おもわずユリウスは舌打ちした。


(こんな時に……面倒だな。 何故途中でソリに乗り換えない)


 そうは思えど、流石に放置してはいけない。夜までこのままだと危険だ。人や獣などの外敵よりも、気温が。


「お困りのようだが」

「あ、ああ……見ての通りだ。 すまないが助けを呼んでくれないだろうか」


(貴族だな。 お忍びか)


 特徴のない簡素で古びた馬車だが、よくよく見ると作りが非常によく、馬もなかなかだ。それに、護衛の男は雪道でのトラブルに不慣れな様子ではあるものの、品の割に隙がない。


(平民のところってワケにはいかないな)


 お忍び用の馬車は持っていても、見た目だけを念入りに誤魔化したいい馬車をわざわざ作るのは、高位貴族か裕福なやり手の商人くらいだ。そしてやり手の商人なら、まずこんな下手はこかない。

 ますます面倒臭ぇなぁ、と思いつつ。

 自領での貴族のトラブルである。目的を聞くのを含め、一緒に来てもらうよりない。


「どうやら高貴なお方とお見受けする。 私はユリウス・ブラシェール。 ここの領主だ」

「へ辺境伯閣下……?!」

「ッ!」


 名乗ると戸惑った様子を見せた護衛だが、後ろの主と思しきフードを被った男が前に出ようとすると直ぐに我に返ったらしく、腕で遮りこちらに慇懃に尋ねる。


「……失礼だが、なにか証拠は」


 単身で、普段着だ。

 信じなくとも無理はない。

 だが忍ぶ事情がどうあれ、こんなところに馬車で来た愚か者に、そこまで親切にしてやる気は今のユリウスにはない。


「そこで長く凍えていたいなら信じなくて結構。 生憎こちらも急いでいる、信じる気があるなら馬車は諦めて馬だけを連れ、ソリの轍に従って進むがよろしい。 そのうち迎えと落ち合うでしょう」


 そう言い残し、再びソリに乗る。

 結局のところ、救出するにも邸宅に戻った方が早いのだ。道さえ逸れなければ待っていても助けは来る。ユリウスの言う通り、凍える時間が長くなるだけのこと。


「お待ちください!」

「……まだなにか?」

「先の失礼な発言をお詫び致します。 ですが……」

「ギディオン、俺が」


 ギディオンという名らしき護衛の言葉を遮り、後ろの男が深く被っていたフードを取りながら今度こそユリウスの前に出た。


「! ……貴方は」

「お会いするのは10年振りくらいになるだろうか。 もっとも、貴殿は覚えていないかもしれんが」


 輝く黄金の髪に、エメラルドのような瞳。

 長身という程ではないが、それなりの高さを備えたスラリと細い肢体。その上には、整った美しい顔。


 王都の学園に通っていた極短い間、一度だけ挨拶を交わしたことがある。その時のことは確かに然程覚えていないが、当時の彼の兄によく似たその面立ちから、誰だかはすぐにわかった。


「カールハインツ殿下……?」


 青年は、嫁の元婚約者──第三王子カールハインツその人であった。


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