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寒がり聖女と巻き込まれ系辺境伯の婚姻~溺愛の方は努力するんで、ざまぁフラグは回収しなくてもいいですか?~  作者: 砂臥 環


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㉚予想外の監視者による、甚だ誤解を招く告げ口

 

 まだ疑っている様子のふたりに、仕方なく『あのダンジョンは私有地であり、自分は持ち主の縁者である』と明かす。


「あそこは辺境騎士団に訓練所として貸し出しているのですよ」

「し、私有地……」


 ハルトムート(※チャラい方)は明らかにショックを受けており、ユリウスは同情した。

 昨日の罠を考えたらそうだろうな、と。


「ああ、私と妻が新婚旅行で立ち寄ったのは事実です。 侵入者がいたので様子を見に、というのもまた別の事実ではありますがね。 こちらの立場を明かして同行を願うこともできたのですが、昨日の様子から貴方がたが悪人には見えず、まあ穏便に……と」


 嘘は吐いていない。


「そ、そうか……」

「それは失礼した」


 彼等も納得のいかない部分はあれど、私有地ならば明らかに分が悪いと理解しているようで、困惑を隠さないまま小さく謝罪する。


「まあ侵入自体は然程気にしてませんが……目的は気になるところでしてね。 あそこにはこれといった物もなかったでしょう、どうしてお入りに? 先程も述べた通り、お困りならば手助けするのも吝かではない」

「……随分寛容だ」

「妻が聖女なもので」


 まさか辺境伯だとは疑いもしていない様子の彼等に、ユリウスは敢えて『聖女』という単語を出した。

 目的がエディトかどうかの反応を探ると共に、そうでない場合であれ彼等が聖女であるマジョレーヌを連れているなら、一定の効果が見込めると考えたのだ。


 それが功を奏したかはわからねど、ふたりは頷き合うと、寡黙な方の騎士アードルフが口を開く。


「あそこに入ったのは、この地で採れる薬草を求めてのこと。 私有地だとは知らずご迷惑をお掛けした。 実は病人を連れている……薬草を融通して頂けないだろうか」


 彼の声は切実で、『聖女(つま)』の繋がりから、自分達との接触を測ってきたのだと疑った感じは全くない。彼等の目的にエディトは関係なさそうだ。


「昨日は手に入りませんでしたか」

「見付かりはしたのだが……ゴーレムに立ちはだかれ、一旦出直すことにした」

「ゴーレム……」


 おそらくアーデルハイドが『息子(ユリウス)のカッコイイところを見せる場面もあった方がいい!』などと思って設置していたに違いない。


(要らんことしおって……)


 予想がつきすぎて頭痛がした。

 そしてそれを『親馬鹿』と言うにはゴーレムは強く、物理的に酷い仕打ちである。おそらくあの母は、息子の結婚をエンタメにしているに違いない。


「元より昨日は様子見、装備も軽かったのでな」

「今日これから、また行く予定だったんだ……ええと、ユリウス殿? やっぱ譲ってもらうのは難しいかな」

「いやいや! それは構いません……が」


 チラ、とヘルミーネを見る。


「私も私有地だとは存じませんで……申し訳ございません」

「いや……成程、それで貴女が……というか薬草は貴女の指示かな」

「ええ、左様でございます」


 実のところ、フェルカー子爵家の生業は製薬。領の特産も、アルニカという多くの薬に使用される植物であり、ヘルミーネ自身も優秀な薬師である。



 余談だがヘルミーネとの婚約は、大規模な山火事により原材料であるアルニカを失い、傾きかけた子爵家の救済が主な理由。

 ユリウスに縁談を持ち掛けた男こそ、現在の彼女の夫である子爵領出身の平民医師・ヴィムである。

 彼は当時は辺境騎士団の軍医で、この時ヘルミーネとは顔見知り程度。


 そんな事情もありヘルミーネは、ユリウスの数いる見合い相手の中で婚約者にまでなった数人のうちひとりであり、彼が唯一結婚まで考え悩んだ末に別れると決めた女性。

 昨日彼女が話そうとした『花畑』云々とは、おそらくまだふたりが婚約していた時に、ユリウスがヘルミーネをこの地に自生するアルニカの花畑に連れていき、全てプレゼントしたというエピソードのことだろう。

 それは、ヘルミーネの薬学への情熱を感じたユリウスが、『やはり子爵家に残るべき』と別れを告げる為でもあった。


 なので、全く後ろ暗いことはないのだが……昨日慌てたのは『今思い返すと随分気障(キザ)な真似を……ッ!』と滅法恥ずかしく、蒸し返されたくなかったせいである。



 ──それはさておき。


「融通するのは構わない。 ただ、薬草があれば治るのかい?」


 ユリウスは全くそんな気がしないまま、それでも一応尋ねた。

 確かにあそこでは辺境でしか採れない薬草を階ごとに栽培しており、それをダンジョン報酬代わりにしてはいる。

 だが結局のところ、訓練の為の擬似報酬であり、土壌と環境が栽培に適していたので『ついでに』程度。

 別に『幻の薬草』とかでもなく、高額ではあるが王都でも手に入る。仮に摘みたてが必要だとしても、苗での出荷が不可能なワケでもない。


 案の定、優秀なヘルミーネでも治すのは難しいそうで


「とりあえず効きそうな物を、調薬し処方してみる……程度です」


 などと、珍しく気弱なことを言う。


「重篤な病なのか?」

「……」


 ヘルミーネは首を横に振り、騎士達の方を見た。


「アンタ……様々な伝手があるって言ったよね?」


 ふたりも他に手段はないと思ったようで、小声で少し遣り取りを行った末にそう尋ねる。


「ええ」

「なら……いや、とりあえず……病人というか、その連れに会ってみてくれないか? 伝染るモノじゃないし」


 事情を話そうにも勝手はできない──困ったようにそう言う騎士達に付き従い、ユリウスは宿に向かう。

 予定していた流れとは違うが、逆にスムーズに事は運んだ。

 いよいよマジョレーヌとのご対面だ。





 ──一方、その少し後。


「ななな、なんですってぇぇぇぇ!?」

「どうしたんだ? エディト」


 いつもの鷹から『旦那、昨日の女と会ってやがるぜ!』という、間違いでもないが非常に誤解を伴う報告を聞いたエディト。


 丁度アーデルハイドとお茶をしていたのもあって、別邸は大騒ぎとなっていた。


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