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⑲大体嫌な予感は当たる……人はそれを『フラグ回収』と呼ぶ。

 

 その夜の晩餐は大変賑やかなものだった。


「とっても美味しいですわ! やっぱり新鮮さが違うのですね……!」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれる。 だが、新鮮さを活かした調理をしてくれた料理人の腕かな。 すぐには出せないが燻製とルイベもなかなかイケるんだ、数日後に食べてみるといい」

「楽しみです!!」


 ──主に、エディトとアーデルハイトで盛り上がって。


 あの後母アーデルハイトは暫く父ルートヴィヒに拭かれていたものの、剣を取り出し巨大魚を捌き出した後、満足気に家人にその後の処理を指示。

 朗らかにふたりに挨拶をした後、抱擁に及ぼうとして『血生臭いから』とルートヴィヒに止められた末、『ならば丁度いい、裸の付き合いと洒落こもうではないか!』と宣い、義娘となったエディトの手を取り、改装されたばかりという湯殿に連れて行ってしまったのだ。


 余談だが、三枚に卸した巨大魚の半身は燻製に、残り半身の更に半分はルイベにし、それ以外を今夜のメインに。骨はよく焼き細かくして雪玉のオヤツにするらしい。

 尚、巨大魚を捌いた剣は、陛下から賜ったものであることも付け加えておく。


 何がウケたのかよくわからないが、母の貴族夫人としては落第点であるあの出迎えは、エディトには大変好意的に映ったらしい。

 母もエディトを気に入ったらしく、風呂から出た後は滅茶苦茶仲良くなっていた。


 久々の母の洗礼を受け上手く対応ができないまま、あれよあれよという間に嫁の人を連れて行かれたユリウスは、父に誘われるがまま『湯殿と同時に改装した』というサウナに入ることになった。

 そこでちょっと恥ずかしいことを含め、直接相談をしたユリウスも多少はスッキリしたものの、悩み自体は解決の目処が立たず。


「父上、酒のお代わりを……」

「ああ……うん、ありがとう」


 それだけに夫達は、尚更妻達のテンションについていけていない。

 これはもう、酔ってやり過ごすしかない。


 ──と、言うのに。


 なにがどうなったか、この後アーデルハイトは夫ふたりの酔いが醒めるようなトンデモ発言を繰り出すのであった。





 そして翌日。


「お義父様、お義母様、行ってまいりますわ!」

「……行ってきます」

「ふたりとも、応援してるぞ!」

「き、気を付けてな……」


 元気よく見送る母をよそに、父ルートヴィヒは引き攣った笑いを浮かべている。

 ユリウスが恨みがましい視線を向けると、一瞬だけ小さく謝罪するようなポーズを取る。



 ユリウスはふたつの大きな失敗をした。


 まず一つ目の失敗──それは父を信用し過ぎたこと。


 前辺境伯である父ルートヴィヒだが、彼は実は入婿。

 若い頃から美しく凛々しく逞しいアーデルハイトには、実態を知らずに美しさと権力を求める者から、実態を知って崇拝する者までと、求婚が後を絶たなかった。

 最初に見初めたのはアーデルハイトの方だが、夢中になったのはルートヴィヒの方。

 並み居る強敵を物理でも他でも薙ぎ倒し、射止めた妻を彼は溺愛している。それは今も。


 ユリウスはルートヴィヒに予め手紙で相談をしていたわけだが、妻が一言『見たい』と口にすれば父が見せないワケはなく、当然、息子の悩みは母も知っていた。


 その結果が今である。


 なにが起こったのか……というと、大してなにも起こってはいない。

 ただ延々楽しく飲んでいただけだが、酒が入ったこともあり、そこそこグダグダだったので詳細は割愛する。

 この晩餐の会話の中で少しずつ出た、アーデルハイトの発言を抜粋し要約すると。


『ふたりの空気が他人の域を出ないのは、遠慮や不安から素を出せずにいるからであり、もっと互いに己を晒す必要がある』


 ここまでは正しい。

 しかしその解決案が酷かった。



『己が出るのは、ピンチの時。 ふたりでダンジョンに行け』



 これである。


 そしてユリウスの二つ目の失敗──


(※ここからは昨夜のグダグダな一幕をダイレクトでお送りします)


「ユリウス! お前は悪くない! そう……ヘタレヘタレと皆から謗られ蔑まれ鼻で笑われようとも……!」

「なんで泣いてるんですか!? つーか俺の評価酷くない?!」

「私も~旦那様は~悪くないと思いますゥ~うふふふふふふ♪」

「ああっエディトまで!?」


 それは、ふたりがガンガン酒を飲むのを止めなかったことである。


 ちょっと泣き上戸になる母と、ちょっと笑い上戸になる嫁の人。

 そして父は止めない……何故ならあくまでも愛しの妻は『ちょっと泣き上戸になるだけ(・・)』なので。翌日に酔いを持ち越さないし、なにより止めると怒られる。


「そうか、可愛い我が娘エディトよ……ならば是非ダンジョンでふたりの仲を深めてきてくれ!」

「はい!!」

「なにその約束!?」


 こうして酔ったノリと共に、ユリウスとエディトのふたりは何故か、ダンジョンに挑むことになってしまった。





 密室にふたりきり──

 狭い空間で近付く物理的距離。

 旅行に高まる気分が織り成す、吊り橋効果。


 要は娘であるゲルトルートと同じような提案だが、(タチ)の悪さは上を行く。

 プラスアルファで、『協力して危機を回避、目的達成』という、新婚旅行から大分離れた任務を課せられたのである。


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― 新着の感想 ―
新婚旅行を考えてたんだから、お母さんグッジョブなんじゃ(笑)←ちがう
そういえば新婚旅行でしたね(笑) あれ? 新婚旅行?(笑)
随分と派手な共同作業で…………
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