⑭『劇的な合流』
(これでは『劇的な合流』なんて無理だわ)
ちなみに。
エディトの考える『劇的な合流』はというと。
【※以下、エディトの脳内イメージ】
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戦うユリウス達。
そこに、ばばーん!と現れるエディト。(※頃合を見て登場)
エディト「旦那様ー!」
ユリウス「エディト?!」
エディト「今祈りを捧げますわ!!」
ユリウス「ち……力が漲っていく!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!」
ユリウス、討伐に成功。
エディト「ごめんなさい……心配で来てしまいましたの」
ユリウス「危険を省みず?! なんて心優しい……まさに聖女だ! 『トンチキ聖女嫁』なんて言ってすまない!(※言ってない)」
皆「「「素晴らしい! 閣下に相応しい優秀な聖女様だ!!」」」
皆「「「おふたりに祝福を!! ブラシェール家万歳!!」」」
めでたしめでたし☆
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……みたいな感じ。
大変短絡的であり、ご都合主義。
作家としては大成しなさそうなタイプである。
(でもまあ、合流はしないにせよ帰らなきゃならないわけだし。 あんまり悲観的になっても仕方ないわ)
ボヤを出した初夜の時のことでもわかるように、エディトの諦めは早い 。
内心で引き摺る割に。
いずれにせよ、とりあえずは身体を休め食べて回復に努めたいところ。
そう思い、結果的にそうなった『辛子の塗られているパンを折り畳んだベジタブルサンド』を口に入れた。
「これはこれで美味しいわね……なんか釈然としないけど」
他にもスコーンなどをアマロと鷹に分け与えながら、のんびり食べ進める。
匂いが気になって目を覚まさないよう、熊にも1個お裾分けしておいた。良く眠れるよう、祈りを込めて。
寝ながら幸せそうに食べたので、もう安心だ。多分。
「ちょっとモサモサするわ~。 お水お水……」
『お? 用意周到だなぁ』
「ふふ……でしょう?」
バスケットにはしっかりコップも入れておいてあったので、それに雪を入れ溶かして飲み、残りはアマロに与えた。
「ふう。 やっぱりご飯を食べると元気が出るわね」
飲み水の確保に出た際、外は激しく雪が吹雪いていたものの、その時がピークだったようだ。
一息ついているうちに、少しずつ収まってきた。
(『山の天気は変わりやすい』って言うし、そろそろ移動した方がいいかしら)
様子見がてら、熊の巣穴を出ることにしたエディトだったが。
「あら……? なにかしら」
なにやら外が騒がしい。
再び、話はユリウスサイドに戻る。
雪はもうチラチラと降るのみで、時折顔を出す太陽の光を反射し美しく光る。
それは穏やかで、少し離れた場所ある数体の凄惨な遺骸が、先程までに起こっていた出来事を物語るのみ。
──あの後はあっという間だった。
首を切り落としトドメを刺したのは、一番近くにいたヘルムート・シェンデル。
精鋭部隊は、特殊任務の時のみ編成される部隊。階級の最も高い者が長の役目を担う。
ヘルムートは辺境騎士団の騎士団長のひとりで、壮年。長はユリウスだが、年長者で経験豊富な彼はこの隊の纏め役である。
「……閣下。 今回はお見事でしたが、あんまりオッサンをヒヤヒヤさせないで頂きたいですなぁ」
苦虫を噛み潰したような顔で、ヘルムートはそう言う。
本件は討伐対象がなにか不明だっただけに、現場では隊長指示を基本とした適宜対応。
道中でユリウスが出ることをフリードリヒとレオのふたりに話していたのは、通常は若く攻撃力の強い彼等が、まず前衛として動くからである。
グラムのソリを利用し、最も速く対象の前に出られるユリウスが初手を、というのは悪くない。
しかし普段の彼ならば『もっと対象から距離を取り、更に上方へ。ソリを降り自身はスノーボードを使用。グラムはソリから離し陽動させ、全体へ挟撃指示』……という慎重な戦い方をしただろう。
シュピュルクの群れが向かってくる、という突発的な出来事があったのは事実だが、ユリウスが無理に出る必要があったのか、というとそうでもない。
普段通りの選択をすることも可能だった筈だ。
とはいえ、結果だけを見て論じるならば、『最適解だった』と言っていい。
賢く俊敏なシュナイトファルの個体で、既に『溶けない氷』を取り込み変化を遂げていた。
捕食量とタイミングを考えると、戦いの最中に更なる変化を遂げた可能性は高い。
「はは、ごめんね」
「あっちょっと閣下、動かんでくださいよ~」
レオに治療をされながら、ユリウスはヘルムートのお説教にそうヘラッと笑う。
彼の左脚……切り裂かれた範囲は広く、出血は相応。
だがわかって受けただけあり、軽傷とは言えないが今後に左右する程の裂傷でもない。
人的被害はユリウスの負傷のみ──例年と比べても異例な被害量で済んだ。
(シュナイトファルにしても、閣下の動きは想定外だったのだろう……あの速さも。 それに、仄かに光っていたのはシュナイトファルだけじゃない。 あれは……)
「──ええい、さっきからモタモタと……貸したまえ!」
「あっ?! なにをする!」
フリードリヒも、ユリウスの戦いを見て思うところがあったようで。
口は出しても普段ならば絶対にやらないであろう彼の治療を、レオから奪うように代わる。
「貴殿の熊のような手では、包帯を巻いているうちに閣下の脚が凍傷になってしまうわ!」
「ななっなにをぉぉぉ!?」
「ははっ。 助かるよ、ライゼガング卿」
「フン……血止め薬と包帯を巻くだけですよ。 このままでは帰還もままなりませんから」
不器用にぶつかり合いながら切磋琢磨する、若者達の姿。
その微笑ましさに頬を緩め『自分も歳を取ったもんだ』と感じ、ヘルムートの思考は途切れた。
──しかしこの少し後、その続きを否応なく考えることになる。
「器用だね。 で、でもちょっと強いような……?」
「ふっ、帰還の為ですので」
「そ、そう」
わざと少し強めに包帯を巻くという地味な嫌がらせをしつつも、フリードリヒは素早く丁寧に包帯を巻いていく。
そんな中──
「……あれは」
「シェンデル団長?」
白い空間が続く雪山の、下の方から近付いてくるなにかの集団の気配。
「シュピュルクだ」
「えっ……?」
逃げた場所にすぐ、再び群れが戻って来る──そんな事例など今まで聞いたことがない。
「──!?
閣下、あれを……!」
「え?」
雪が煌めく中、厳かにゆっくりと闊歩するシュピュルクの群れ。
彼等に守られるようにした中央。
小ぶりなシュピュルクの背に乗っているのは、厚手のコートの下、聖衣を身に纏った聖女エディト……ユリウスの妻であった。
──尚、着膨れを作っていたコートと聖衣の間の服数枚は脱いで鞄に入れ、アマロの引くソリに載せてある。
演出は大事なので。




