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寒がり聖女と巻き込まれ系辺境伯の婚姻~溺愛の方は努力するんで、ざまぁフラグは回収しなくてもいいですか?~  作者: 砂臥 環


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⑭『劇的な合流』

 

(これでは『劇的な合流』なんて無理だわ)


 ちなみに。

 エディトの考える『劇的な合流』はというと。


【※以下、エディトの脳内イメージ】

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

 戦うユリウス達。

 そこに、ばばーん!と現れるエディト。(※頃合を見て登場)


 エディト「旦那様ー!」

 ユリウス「エディト?!」

 エディト「今祈りを捧げますわ!!」

 ユリウス「ち……力が漲っていく!!

 うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ユリウス、討伐に成功。


 エディト「ごめんなさい……心配で来てしまいましたの」

 ユリウス「危険を省みず?! なんて心優しい……まさに聖女だ! 『トンチキ聖女嫁』なんて言ってすまない!(※言ってない)」

 皆「「「素晴らしい! 閣下に相応しい優秀な聖女様だ!!」」」

 皆「「「おふたりに祝福を!! ブラシェール家万歳!!」」」


 めでたしめでたし☆

 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


 ……みたいな感じ。

 大変短絡的であり、ご都合主義。

 作家としては大成しなさそうなタイプである。


(でもまあ、合流はしないにせよ帰らなきゃならないわけだし。 あんまり悲観的になっても仕方ないわ)


 ボヤを出した初夜の時のことでもわかるように、エディトの諦めは早い 。

 内心で引き摺る割に。


 いずれにせよ、とりあえずは身体を休め食べて回復に努めたいところ。

 そう思い、結果的にそうなった『辛子の塗られているパンを折り畳んだベジタブルサンド』を口に入れた。


「これはこれで美味しいわね……なんか釈然としないけど」


 他にもスコーンなどをアマロと鷹に分け与えながら、のんびり食べ進める。

 匂いが気になって目を覚まさないよう、熊にも1個お裾分けしておいた。良く眠れるよう、祈りを込めて。

 寝ながら幸せそうに食べたので、もう安心だ。多分。


「ちょっとモサモサするわ~。 お水お水……」

『お? 用意周到だなぁ』

「ふふ……でしょう?」


 バスケットにはしっかりコップも入れておいてあったので、それに雪を入れ溶かして飲み、残りはアマロに与えた。


「ふう。 やっぱりご飯を食べると元気が出るわね」


 飲み水の確保に出た際、外は激しく雪が吹雪いていたものの、その時がピークだったようだ。

 一息ついているうちに、少しずつ収まってきた。


(『山の天気は変わりやすい』って言うし、そろそろ移動した方がいいかしら)


 様子見がてら、熊の巣穴を出ることにしたエディトだったが。


「あら……? なにかしら」


 なにやら外が騒がしい。





 再び、話はユリウスサイドに戻る。

 雪はもうチラチラと降るのみで、時折顔を出す太陽の光を反射し美しく光る。

 それは穏やかで、少し離れた場所ある数体の凄惨な遺骸が、先程までに起こっていた出来事を物語るのみ。


 ──あの後はあっという間だった。


 首を切り落としトドメを刺したのは、一番近くにいたヘルムート・シェンデル。


 精鋭部隊は、特殊任務の時のみ編成される部隊。階級の最も高い者が(おさ)の役目を担う。

 ヘルムートは辺境騎士団の騎士団長のひとりで、壮年。長はユリウスだが、年長者で経験豊富な彼はこの隊の纏め役である。


「……閣下。 今回はお見事でしたが、あんまりオッサンをヒヤヒヤさせないで頂きたいですなぁ」


 苦虫を噛み潰したような顔で、ヘルムートはそう言う。


 本件は討伐対象がなにか不明だっただけに、現場では隊長指示を基本とした適宜対応。

 道中でユリウスが出ることをフリードリヒとレオのふたりに話していたのは、通常は若く攻撃力の強い彼等が、まず前衛として動くからである。


 グラムのソリを利用し、最も速く対象の前に出られるユリウスが初手を、というのは悪くない。

 しかし普段の彼ならば『もっと対象から距離を取り、更に上方へ。ソリを降り自身はスノーボードを使用。グラムはソリから離し陽動させ、全体へ挟撃指示』……という慎重な戦い方をしただろう。

 シュピュルクの群れが向かってくる、という突発的な出来事があったのは事実だが、ユリウスが無理に出る必要があったのか、というとそうでもない。

 普段通りの選択をすることも可能だった筈だ。


 とはいえ、結果だけを見て論じるならば、『最適解だった』と言っていい。


 賢く俊敏なシュナイトファルの個体で、既に『溶けない氷』を取り込み変化を遂げていた。

 捕食量とタイミングを考えると、戦いの最中に更なる変化を遂げた可能性は高い。


「はは、ごめんね」

「あっちょっと閣下、動かんでくださいよ~」


 レオに治療をされながら、ユリウスはヘルムートのお説教にそうヘラッと笑う。


 彼の左脚……切り裂かれた範囲は広く、出血は相応。

 だがわかって受けただけあり、軽傷とは言えないが今後に左右する程の裂傷でもない。

 人的被害はユリウスの負傷のみ──例年と比べても異例な被害量で済んだ。


(シュナイトファルにしても、閣下の動きは想定外だったのだろう……あの速さも。 それに、仄かに光っていたのはシュナイトファルだけじゃない。 あれは……)


「──ええい、さっきからモタモタと……貸したまえ!」

「あっ?! なにをする!」


 フリードリヒも、ユリウスの戦いを見て思うところがあったようで。

 口は出しても普段ならば絶対にやらないであろう彼の治療を、レオから奪うように代わる。


「貴殿の熊のような手では、包帯を巻いているうちに閣下の脚が凍傷になってしまうわ!」

「ななっなにをぉぉぉ!?」

「ははっ。 助かるよ、ライゼガング卿」

「フン……血止め薬と包帯を巻くだけですよ。 このままでは帰還もままなりませんから」


 不器用にぶつかり合いながら切磋琢磨する、若者達の姿。

 その微笑ましさに頬を緩め『自分も歳を取ったもんだ』と感じ、ヘルムートの思考は途切れた。



 ──しかしこの少し後、その続きを否応なく考えることになる。



「器用だね。 で、でもちょっと強いような……?」

「ふっ、帰還の為ですので」

「そ、そう」


 わざと少し強めに包帯を巻くという地味な嫌がらせをしつつも、フリードリヒは素早く丁寧に包帯を巻いていく。

 そんな中──


「……あれは」

「シェンデル団長?」


 白い空間が続く雪山の、下の方から近付いてくるなにかの集団の気配。


「シュピュルクだ」

「えっ……?」


 逃げた場所にすぐ、再び群れが戻って来る──そんな事例など今まで聞いたことがない。


「──!?

  閣下、あれを……!」

「え?」


 雪が煌めく中、(おごそ)かにゆっくりと闊歩するシュピュルクの群れ。

 彼等に守られるようにした中央。

 小ぶりなシュピュルクの背に乗っているのは、厚手のコートの下、聖衣を身に纏った聖女エディト……ユリウスの妻であった。





 ──尚、着膨れを作っていたコートと聖衣の間の服数枚は脱いで鞄に入れ、アマロの引くソリに載せてある。

 演出は大事なので。


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― 新着の感想 ―
降臨………! 満を持して……! みたいな?
>聖衣  「クロス」と読んでしまった鷹羽…  フリージングコフィン!
あはは、『劇的な合流』の理想と現実がだいぶ違う感じ!(笑)
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