聖 女 無 双?
「あとの事は全部任せてください。人類の希望である勇者さんと、その相棒であるこの【聖女】が何とかしますので! 貴方たちは勝手に何処へなりとでも行って、好きなだけイチャイチャするなり、計画性ゼロの子作りに勤しむなり、年中発情期でおバカな猿みたいに盛っちゃててください!」
散々、我関せずのスタンスで傍観者を決め込んでいた美しい少女が、おっとりとした雰囲気を漂わせつつ、でも声はハキハキと喋り出す。
内容は酷いが、話し方がどこか優雅さを感じさせる。
ウルトラマリンブルーの絹のようなとても長い艶髪。
宝石みたいにキラキラとした、ラピスラズリの綺麗な瞳。
万人が万人、美少女認定するであろうその容姿は一種の芸術作品と言っても過言ではない。
そして何より、少女の一番の魅力で特徴的なのは───。
どたぷんっ!! バイン! ボイン! ぶるるんっ!!
と擬音が聞こえてきそうな、そのはち切れんばかりのたわわに実った二つの果実である。
聖装服越しにも分かる、いまにも溢れ落ちそうでとても大きな夢袋(剣聖曰く『脂肪の塊』)を揺らして、恐らく食べ終わったのであろう大量の皿の山から顔を覗かせて発言を続ける。(嘘だろう…。これ全部一人で食べたのかよ…)
「皆さんとの旅は正直…あんまり良い思い出がありませんが、多分楽しかったと思います。まあ、二度とお逢いしたいと思いませんが…。あっ! キタキタ♪」
口調は優しいのに言っている事は辛辣な、おっ◯い美少女──【聖女】ちゃん。
聖女ちゃんは心底侮蔑の色をした眼で五人を一瞥した後、運ばれて来た色とりどりの巨大なパフェの群れを、非常に美味しそうに頬張り始める。(マジかよ…。まだ食べるの?)
俺はその食欲と胃袋の凄さに唖然とし、圧倒されていたがどうにか我に返り、この上ない至福の表情で顔を綻ばせている聖女ちゃんに、少々忍びないが現実を突き付ける。(あの量を身体の何処に…。まあ多分、全部あの“夢袋”に吸収されてるんだろうけど…)
「あの…聖女ちゃん…。まるで自分は関係ないみたいな態度をとっているけど、一応キミも追放の対象だからね…?」
俺がそう言うとキュートな大きな目を更に大きく見開き、驚愕の表情でパフェスプーンを咥えたまま、固まる聖女ちゃん。(かっ、かわいい…)
「なっ、何でですか!? 私なにか勇者さんの癇に障るような事しましたかっ?!」
聖女ちゃんは沢山並べられているジャンボパフェの一つを手に持って、俺の隣に座り詰め寄って来る。(尚、もう既に一つは平らげている模様。早いなぁ…)
「あっ! もしかして……いろいろ注文し過ぎた上に、私一人で全部食べちゃったから…」
健全な男子なら思わず『ゴクリッ…』と生唾を飲み込んでしまうであろう極上の果実を揺らして、悩殺的な上目遣いで恐る恐る訊ねてくる聖女ちゃん。(うわぁ…。めちゃくちゃ良い匂い…)
そんな聖女ちゃんが魅力的過ぎて絆されそうになるが、頭を振って煩悩を払う。
「違うよ。キミが大食いなのは今に始まった事じゃないでしょう? 寧ろキミの何でも美味しそうに沢山食べる姿は見てて気持ちが良いし、微笑ましくて癒やされるから俺は好きだよ! まあ、お金は掛かるけど…」
「それじゃあ、どうして…」
「俺の話を聞いてなかったの? それはその…キミが……キミ達女性陣と戦士が、俺に隠れて『そういった行為』をしていたから…」
ワザとなのか無意識的なのか分からないが、俺の言い淀みに小聡明く首を傾げて頭に『?』マークを付けながら、更に顔を近付けて来る聖女ちゃん。(近い近い近い近いッ!!)
「えっ、誰と誰が何をしていたんですか?」
「いや、だから…。キミと戦士がその……セッ◯スをしていたからって言ってるのっ!」
俺がしどろもどろにそう言うと聖女ちゃんは、綺麗で可愛らしい円な瞳をパチパチとさせて、ちょっと呆けた後に眉を顰めて険しい表情になる。
「はぁああっ!? そんな身の毛が弥立つ冗談はよして下さいっ!! あり得ませんよ気持ち悪いッ!! いくら勇者さんでも、本気で怒りますよっ!」
プンスカプンスカと頬を膨らまして抗議の声を上げて、ジャンボパフェを勢いよく掻き込む聖女ちゃん。
口元にクリームが付いて、それがまた可愛く感じる。
「ふぁふぁひはしょんなふぃっふいひゃふぁりまふぇん!!(私はそんな不仕鱈な尻軽女じゃありませんッ!!)」
「わっ、分かったから取り敢えず口の中に入っているのを……」
「フガフガフガフガフガフガ!!(第一、何が悲しくてあんな穢れたゴリラみたいな男に抱かれないといけないんですか!? それなら私は死を選びますッ!!)」
余程のお怒りだったようで、ジャンボパフェがみるみる無くなっていく。(何気に結構酷い事言っているなぁ…)
鼻息を荒くし、更に掻き込む速度を早くする聖女ちゃん。
よく見たら聖女ちゃんの目尻から美しい雫が頬に伝い落ちているのが見える。(不謹慎だけど、とても美しく見えた)
「ひっく…えっぐ…。酷いです酷いですッ!! 私は勇者さん一筋なのに…。何でそんな悲しい事を言うんですか? 勇者さん以外なんて私にはもう、考えられないのに…」
「聖女ちゃん落ち着いて。俺が悪かったから、取り敢えず食べるのを……ん? 今なんて──」
俺がどうにか聖女ちゃんを宥めようとあたふたしていると、煩い横槍が入る。
「おいおい、嘘は良くねぇーぜっ! 聖女様よお!!」
戦士が「ニチャア…」と下品な笑みを浮かべて俺達を見ていた。
ついさっきまで俺の威圧にビビっていたクセに、水を得た魚の様に再び横柄な態度で、挑発気味に話し掛けてくる。
「アンタだってコイツらと一緒で、俺に抱かれて悦がり狂ってた一人じゃあねぇーかっ! なあ! お前らもそう思うだろう?」
そう言って四人を強く抱き寄せ顎を使って促す戦士。
四人は「これは好機!」といった感じでそれに便乗する。
「そっ、そうよ! 自分だけ追放を免れようとするんじゃないわよッ!!」
「全くだ! それが神聖教会が誇る【歴代最強・最高の聖女】と謳われる者の執る行動かッ!!」
「聖女のクセに汚い! 卑怯者ッ!!」
「うん、聖女も同罪。ボク達と一緒に断罪されるべき…」
それを聞いた聖女ちゃんは怪訝な顔をして、五人を睨み付ける。
「はい〜? 何を言って……あっ! もしかして、この子の事いってますぅ?」
そう発言して指を鳴らす聖女ちゃん。
それと同時に聖女ちゃんの横に、もう一人の聖女ちゃんが突然現れた。
俺も含め、その場に居た全員が目をひん剥いて驚愕する。
俺達の反応を気にもせず、説明を始める聖女ちゃん。
「この子は私の魔力と神聖力で創り出した私の劣化複製体…。名前を『偽聖女ちゃん』っていいます。 ほら偽聖女ちゃん、皆さんに挨拶して下さい♪」
「コンニチハ。ワタシハホントニセイジョデスヨー!」
「「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」」
またもや皆して絶句する。
女性陣なんて四人とも美女・美少女の筈なのに、驚き過ぎて残念なお顔になっている。
開いた口が塞がらないとはこの事を言うのかな…。
其処に居たのは紛れもなく、俺が戦士の部屋で見た聖女ちゃんその者だった。
聖女ちゃんは続ける。
「多分皆さんはこの子と私を見間違いをしたのでしょう。でもこの子は本物より胸が3カップも小さいなのに見間違いするなんて…。ちょっとショックで心外ですぅ!」
そのご自慢の夢袋を強調して不服を唱える聖女ちゃん。(もうそんなに大きいと、数カップの差なんて分かんないよ…)
色々ツッコミ所が有り過ぎて返答に困るが、確かに聖女ちゃんの言う通り、よく見たら本物と所々異なる。
一番の違いは髪と瞳の色だ。
聖女ちゃんは綺麗な濃い青髪に対し、偽聖女ちゃんは濁った青…灰色っぽい青髪である。
瞳の色も輝く瑠璃色ではなく、くすんだ浅葱色だ。
人差し指を立てて、聖女ちゃんは更に話を続ける。
「それにこの子自身、自分で言っているじゃあないですか。『私は偽聖女だ』って! ねぇ〜、偽聖女ちゃ〜ん♪」
「ハイ。ワタシハホントニセイジョデスヨー!」
いやいや、そんな屁理屈な…。
偽聖女ちゃんの頭を聖女ちゃんが撫でるという少々シュールな光景を見ながら、俺は唐突に疑問に思った事を聖女ちゃんに問う。
「何で自分の複製体なんて創ったの?」
俺の質問に偽聖女ちゃんの頭を撫でるのを止めて、顔を赤らめながら、伏し目がちに聖女ちゃんは答えてくれる。
「恥ずかしい話なのですが実は…。皆さんと一緒にお食事を頂いた後も、どうしてもお腹が空くことが多々ありまして、それで偽聖女ちゃんにお留守番を……」
「なっ、成程…。こっそり抜け出して屋台とかに独りで食べに行って、その間俺達にバレないように複製体に身代わりを頼んでいたと…」
「はい…///」小さく呟き、更に顔を赤らめて身を縮こませる聖女ちゃん。
思わず顔が引き攣り、苦笑いになってしまう。
今回だけじゃなく、殆ど毎回もの凄い量の料理を平らげる聖女ちゃん。
見てるこっちが食べる前なのにお腹いっぱいになったり、胸焼けを起こしそうになる。
それなのに、あんだけ食べておいてまだ隠れて食べていたなんて…。
そりゃあ誰だって、こんな顔になってしまうって話だ。
でも以前から聖女ちゃんに感じていた妙な違和感が、これで漸く納得がいく。
夕餉に食べた料理にそれが使われた物はなかった筈なのに、翌朝聖女ちゃんの近くに居たら仄かにエスニックな香りが漂ってきて『あれ?』ってなった事があった。
多分その時もこっそり夜中に抜け出して、独りでどこかに食べに行ってきたのだろう。
改めて、恐るべき食欲と胃袋である…。
「ちょっと待てよ! それじゃあ本当に俺様が抱いていたのは……」
「私達と一緒になって戦士と身体を重ねていたのは……」
俺が聖女ちゃんの違う意味で『食』に対する拘り? に感心と少しの呆れを思っていると、納得出来ない・認めたくないって表情で話に割り込んでくる戦士と剣聖がいた。
聖女ちゃんはそんな二人に、どこか諭すように言葉を返す。
「この子だと思いますよ。ああ成程、だから時々偽聖女ちゃんが汚れていたんですね。ばっちいからすぐに消しましたけど…」
戦士を汚物を見る様な蔑んだ目で睨み、言葉を続ける。
「大方、『四人を籠絡する事が出来たらから、どうせなら聖女も手籠めにして全員俺様の女にしてやるぜっ!w これでフルコンプだッ!!w』みたいな浅はかな考えをして、この子を襲ったのでしょう。基本この子は誰の言う事も聞くように設定してありましたので…」
「はぁ〜…」と深々と嘆息を吐いた後、尚も毒舌な聖女ちゃん。
「通りで最近、矢鱈と戦士さんが馴れ馴れしく絡んでくると思ったら…。言っている事も意味不明で、話も全然噛み合いませんでしたし…。──正直、虫酸が走る相手から話し掛けられるのは、苦痛以外の何物でもなかったですよ!」
容赦なく残酷な言葉を浴びせながら、まるで全部を見てきたかのように言う聖女ちゃん。
戦士は図星を突かれたのか「うぐっ…!?」っと呻き、とても悔しそうな顔になる。
「でも良かったじゃないですか。超粗悪品の劣化複製体とはいえ、それでも原型は私なんですから。私自身は大変不愉快ですけどねッ!!」
ビシッ!! っと指を指す様にパフェスプーンを戦士に向ける聖女ちゃん。(ちょっと行儀悪いなぁ…)
汚い歯茎を剥き出しにして、心底悔しそうに俺達を睨み付ける戦士。
そんな戦士を完全に無視し、深く吸い込まれそうで神秘的な大きい目で俺を見詰めてくる聖女ちゃん。
「これで私が貞操を重んじる、穢れてない純潔な処女だって信じてくれましたか…?」
そう言って聖女ちゃんは潤んだ瞳で、あざと可愛く上目遣いにズイッ!! っと顔を近付けてくる。
豊満過ぎる夢袋が当たり、このままキスでもされるんじゃないかってぐらい密着している。
ぷるるんっ! としたとても柔らかそうな唇が大変魅力的だ。
先程から食べているパフェのせいか、微かに甘い匂いがして何て言うか………かなりヤバイ。
(だから近いってばっ!! あと、そろそろ本気で理性が保てそうにない…)
俺が聖女ちゃんのとんでもない誘惑に抗いながら、どうにか言葉を返そうとすると、
「わっ、分かったよ。しっ、信じるから……ちょっと離れ───」
「おいおい、でもよお! だからって俺様たちだけ追放って言うのはやっぱり納得できねぇーよなあっ!!」
戦士が声を荒げて反論してきた。
「確かにその聖女様がゆうとーりだけどよお…。それなら尚更俺様はコイツらを抱いたから。コイツらは俺様に抱かれたから……処女じゃなくなったからって理由で追放とかちゃんちゃらおかしいぜっ!!」
またもや下卑た笑みを浮かべて、俺を舐め腐った態度で小馬鹿にする戦士。
(何でコイツはこう……)
しかし焦っているのか、先程までのムカつく余裕は無い。
どうにかして再びマウントを取りたいって感じが、滲み出ている。
それを隠すように更に声を荒げて続ける。
「だってそうだろ? コイツらと深いコミュニケーションを図ったぐらいでそんな酷い仕打ちを受けるなんてよお! まあ確かに、勇者様を除け者にしたのは悪かったかもしれねぇーが、だからって追放はあんまりだろう?! それともなにか? やっぱり女共を寝取られたから追放するってゆーのかっ!? なあ! お前らからも何か言ってやれよっ!」
そう言って抱き寄せてる四人に目を配らせる戦士。
四人もお互いに目を配らせて頷き合い、ここぞとばかりに哀願してくる。
「勇者考え直してっ! 私達…本当に反省しているから…」
「頼む勇者殿! 後生だ…ッ!!」
「勇者にぃ…。お願い…許して…」
「勇者クン…。ボクたち何でもするから…」
自分勝手に弁明を計り、情に訴え掛けてくる四人。
なんだろう…。
さっきまであんなに怒り狂って、それぐらい四人の事が好き…?
少なからず好意…意識はしてた筈なのに、いまこの四人を見ても何も思わないし、感じない…。
寧ろ四人には憐れみすら感じる…。
(戦士は赦さないけど)
俺がどう返事を…対応をしたら良いか困り、手を拱いていると、
「いえ。皆さんが追放なのは変わらないですし、当然だと思いますよ! 寧ろ私的には『漸くかっ!』って感じです」
いつの間に取って来たのだろう。
新しいジャンボパフェを片手に再度、俺の側に座り直りながら、五人を一瞥する聖女ちゃん。
顔を綻ばせて、幸せそうに再び頬張り始める。
そしてそのまま話を続ける。
「挙げれば切りが無いぐらい理由がありますが、大まかに分けて三つですね。今からそれをご説明します」