尽くし系女子
尽くし系女子の朝は早い。愛する人、愛する家族のために、おいしいご飯を作らねばならないからだ。
尽くし系女子は空になった皿を見過ごさない。空いた皿はすぐにさげ、おかわりを提供する。いらないと言われれば、デザートをすすめ、最後にお茶をすすめる。そのお茶が空になれば、すかさず新たなお茶をそそぐ。
尽くし系女子のもてなしは終わらない。
そうして、暴君が誕生する。
その一番の被害を被るのは、そんな家に生まれた子供である。はじめは優しかった男も、尽くし系女子のおかげですでに家族を召使いとしか思っていない。
尽くし系女子の調教で、自分では何もしなくなった男はあらゆることを家族に命令する。
あれを持ってこい
あれを買ってこい
あれをどこへやった
あれを探せ
それをしろ
これをしろ
果ては、目の前のテレビの「チャンネルを変えろ」
少しでもさからうと、「なぜしない、なぜできない」と暴力をふるいはじめる。
当然、子供には嫌われる
尽くし系女子は子供にも尽くすので、子供は母親が大好きで、母親の味方だ。
子供は母に別れた方がいいのではないかと思うが、尽くし系女子は言う。
あなたのためにがまんしているの。
あなたがいるから、がんばれる。
あなたのためにがんばるの。
だってあなたのためですもの。
あなたがいるから
あなたのために
子供はいっしょうけんめい母を守ろうと、つらい毎日を過ごしてゆく。
だがある日、子は気付く。
父がこうなったのは、母のせいだと。
母が尽くして尽くして、なんでもやってあげるから、父も、自分も、何もできない人間になったのだ。
子供のためなんて言ってるけれど、別れないのは、ただひとりで生活する自信がないからだ。
そうして、子は母を憎む。
大人になった子供は家を出て、そのまま帰ってこなくなる。
電話のベルが鳴り続ける。
お願い聞いて
あなたのために言ってるの
あなたのために
あなたのために
尽くし系女子にはわからない。なぜあの子は私に冷たいのだろう。
あんなに尽くてあげたのに。
もっとあなたのために尽くしたいのに。
何が良かったのか、何が悪かったのか。
わからないまま寂しく人生を終える。
一方的に尽くすだけの、さみしい女の物語。