41話
「殿下から面倒な奴らがいると聞いて来たんですが、こいつらですか?」
いぶかしむように、クリスが地面に倒れた男達の顔を見て言った。
「あぁ、魔力を吸収する武器を持っていた」
「エェッ! 本当ですか?」
男らの周りに転がる剣を持ち上げ、まじまじと見た。
「これですか? 見たところ、普通の剣に見えますけど」
クリスは首をかしげた。
「仕組みはわからないが、鍔に魔石をはめ込んで、剣に触れた魔力をそこに吸収させていた」
「えぇっ! マジで!! そんな物があるなんて、信じられない」
「銃型のもあった」
「魔石がはまっていないようですが」
辺りを見回っていたアーロンが言った。
「全部、消し飛んだみたいだな」
俺の言葉に2人は、こちらを見た。
「殿下と王子の魔力を使って、魔石の吸収度合いを確かめようとしていたんだ。でも、丁度お前たちが来た時の魔風で消し飛んでしまったようだ」
あー、というように、今度は2人で顔を見合わせた。
「殿下の魔風、魔力の塊みたいにデカかったからなぁ」
クリスが天を仰いで言った。
「殿下のあの魔力を直接受けたのなら、無事なワケないか」
男達を一人一人確認していたアーロンがボソリと言った。
「それにしても、こんな武器を使う相手に1人で。本当にすごいです、マティリス」
「ん-、どうかな」
感心するクリスに、釈然としない思いで答えた。
「何かありましたか?」
一通り確認し終えたアーロンが、クリスの隣に立って聞いてきた。
「もっと劣勢になっていてもおかしくなかったはずだ。
こんな武器を持っているんだから。でも、こいつら、この武器を全く活かせていなかった。
思ったほど性能が高くなかったのも納得いかないが。
それにして戦い方があったはずなのに、中途半端というか、あやふやな感じがして仕方ないんだ」
「彼らが正規の兵士ではなく、ごろつきの集まりだからなのでは?」
倒れる男達の顔を見た。
確かに、統率された動きはなかったし、武器の扱いにも慣れた様子もなかった。
でも、こんな武器を持っている。
「うー、わからない」
答えの出ない疑問に頭を抱えて、ハッとした。
「副隊長は? 七、ナツのところに向かってくれたのか?」
「はい、もちろんです。途中、急に飛び降りたのは驚きましたけど。小隊長にこちらの状況を報告した時に、来訪者ナツを無事保護した、と聞きました」
クリスが、こめかみを指でトンッとついた。
魔力通信。
特務隊ならではの伝達手段。
「アルヴァンも来てくれたのか」
ケガを負ったと聞いていただけに、申し訳ない気持ちになった。
「今回は、副隊長がいつもと違っていまして。何というか、」
「冷静さを欠いている、と殿下が気にされていました」
「そうなんですよ。いつもの無表情ではなくて、すごい怖い顔をされていて、迫力が半端なかったんです」
クリスとアーロンの話に、気を失った七海を見つめていた副隊長の顔を思い出した。
名残惜しむように、七海の額にかかる前髪を払い、涙の跡が残る頬に触れていた。
七海を大切に思う気持ちがひしひしと表れていた。
それなのに、医務室へ行ったと思っていた七海が連れ去られたと知った時の衝撃はどれほどだったのか、そう思うと副隊長に同情する気持ちと同時に、自分の体温が急に下がるのを感じた。
(その場の状況だったとはいえ、原因を作ったのは俺なのでは・・・)
ゴクッ
人知れず、生唾を飲んだ。
「誰が、怖い顔だ」
「!!」
後ろから声が聞こえた瞬間、肝が一気に冷えた。
「マティリス。よかった、よかった無事で。本当に、よかった」
七海の声が聞こえ、見るとルイス副隊長に横抱きに抱かれた状態で涙ぐむ七海がこちらを見ていた。
「七海。君こそ良かった、無事で。1人で行かせてごめん。大変だったろう」
「まったくだ」
「・・・・・」
駆け寄り七海の手を取ろうとしたが、頭上から副隊長の声が降ってきて固まった。
「ううん、そんなことない。お互い様よ、マティリス。
あなただって、ひとりで頑張ってくれたじゃない。
だから私も、頑張れたのよ」
「いいや。お前が悪い、マティリス」
「もう、ルイ。やめて、そんなこと言うの」
見上げる七海を見下ろす副隊長。
表情は変わらないが、その目から注がれる慈愛には、怖いくらいの一意専心な思いが感じられる。
(これは、本当にヤバいかもしれない・・・)
どう謝ろうか、と思っていたら、
「これ、1人でやったのか? マティリス、すごいなっ」
副隊長の後ろからアルヴァンが現れた。
「アルヴァン、・・・・・と、アルド」
アルヴァンの背中に、アルドが背負われていた。
「誰かさんが、加減なしに蹴っ飛ばすから、この有り様さ」
「当然の報いだ。まだ髪の分が残っているからな。コイツ、七海の髪を、」
「スゴむなよ、ルイス。これ以上やったら、マジで死んじゃうって」
アルヴァンが背負いなおすと、アルドの顔が見えた。
頬が腫れあがり、垂れ下がった腕も服もズタズタだ。
「殿下から解除魔法の使い手がいるかもって聞いて、先にこっちまで飛んでくるつもりだったんだけど、ルイスが先にナッちゃんを見つけちゃって。そしたら1人で飛び降りるもんだから、俺も一緒に降りたんだよ」
驚く俺に、アルヴァンが説明を始めた。
「結果的に、飛び降りて正解だったんだけど。
コイツ、ナッちゃんに悪さ仕掛けててさ。そんで、怒り狂ったルイスに蹴り飛ばされたってワケ」
とんでもない蹴りだったのだろうと、アルドを見て思った。
あながち他人事でない気持ちもあり、背中がヒヤリとする。
「その前に、ジークにも殴られてたから」
思い出したのか、ギュッと両手を握りしめた七海が小さく答えた。
「あんなのは、死んで当然だ」
「死んでないからっ」
副隊長の言葉にアルヴァンが答えた。
「ジークは?」
「手が酷かったけど、無事だよ。俺もさすがに2人は背負えないから、応急処置して置いて来た」
「私、歩くって言ったんだけど」
横から七海が言うと、すかさず副隊長が挟んできた。
「ダメだ。足を痛めているだろう」
「でも、」
「ダメなものは、ダメだ」
「早くジークも手当てしてあげないと」
「あいつは頑丈だから大丈夫だ」
「えー、そんなこと、」
「って、ずっとこんな感じだから、置いて来たんだ」
アルヴァンが呆れたように言った。
「じきに救助部隊も到着するよ。でも、体より精神的に大丈夫かな。人形魔法なんて禁止にしてくれればいいのに」
全く同感だ、と思った。
感情を抑圧してくるあの感覚は、ものすごく嫌な感じだった。
「にしても、これってどういう状況?」
アルヴァンが俺に言った。
手短に、クリスとアーロンに伝えた内容を話すと、
「マジか・・・・・」
アルヴァンは驚きの声を上げて副隊長を見た。
副隊長は緊張をはらんだ面持ちで押し黙っていた。
魔石を使った武器の存在に、2人はかなり驚きがあったようだ。
「かつて、我がフロルス国でも魔石利用の武器を発案した人がいたんだ」
重々しく、吐き出すようにルイス副隊長が言った。
「知っているよ。でも、できなかったんだろう」
「公にはそう言われているが、実際は違う」
想像もしていなかった話に、そこにいた全員が副隊長の次の言葉を待った。
「元々は、少ない資源を有効に使えるように、という思いから始まった開発だったんだ。魔石の魔力を消費するばかりではなく、増やして誰でも平等に使えるようにしようと、そんな製品を作ろうと考えた女性がいたんだよ。
そして、その構想はほぼ出来上がっていた」
「えっ! じゃ、どうして、」
初めて聞く話に驚きと疑問が交錯する。
(作らないんだ。構想ができているなら、後は作り上げるだけだろう。自国で作っていたなら、もっと良い物ができていたはずだ。それに、他国との軋轢にも、もっと優位に立てていたかもしれない。というか、何故、そんな武器がここにあるんだ?)
色々な思いが渦巻く中、副隊長は驚きの名前を口にした。
「これが、彼女が考え出した物と同じかは、調べてみないと分からない。だが、魔力吸収、と聞いて思い描くのは、アリアナ・ポーリエル だけだ」




