40話
「オーーーーッ」
防御壁を展開したと同時に内側へ移動すると、当然のように雄叫びを上げて男達が襲い掛かってきた。
手にした剣をすくい上げ横に払うと、剣から放たれた魔力に男達が吹き飛ばされた。
(他愛ないな)
全力で行こうと、結構な魔力を放ったのだが、ガッカリするほど手ごたえがなかった。
持ちこたえた者もいたが、こんなのは一刀両断、とばかりに飛び上がり剣を振り下した。
ガッ!
相手の剣と剣が交わった瞬間、一瞬の手ごたえの後、握っていた魔法の剣が消えた。
自身の落下する勢いそのままに相手の剣が顔前に迫り、
「っ!」
慌てて、剣を握る相手の手に片手をついて、空中で体を反転させて着地した。
間髪入れず、数人が襲い掛かってきた。
体勢を下げて剣を避け、目の前の男の腹へ一発打ち込み、横から剣を振り下ろす男の手を腕で防ぎ、その男の腹に蹴りを入れた。
後ろから来た男には、回転しながらしゃがんで懐に入り、下から顎に向けて拳を打ち上げた。
またすぐに、数人の男達が切りつけてきたので、後方へジャンプして距離をとった。
「こりゃ大変だ」
アルドが軽く手を叩いて笑いながら言った。
横には、息も絶え絶えのジーク。
「魔法が使えなけりゃ、側近様もただの人、ってね」
「・・・・・」
「あー、今、スッゲー、考えてるでしょ。どうして魔法が消えたのかって、クククッ」
「ああ、考えている」
「だったら、もっと困った顔してくれよ。楽しさが半減するだろう」
「俺は、もともとこういう顔だ」
「そうだっけ?人形魔法にかけられてた時は、もっといい顔してたけどなぁ」
舌打ちが出そうになるのを飲み込んで、真顔のままアルドを見返した。
勝利を確信したように笑うアルド。
魔法陣を展開した。
「うわっ」
「な、なんだ、イッター」
「ぎゃー、腕がっ、き、切れてっ」
「鳥が、切り裂いてくるっ」
途端にあちこちで悲鳴が上がった。
周りの空気に魔力をのせると、無数の小鳥が生まれて舞った。
飛び回る小鳥達が縦横無尽に男達に群がり、刃物のような羽で切り裂いていく。
(直線的な攻撃が無理なら、多方面ならどうか)
そう思って作り出した魔法の鳥。
ジークの無効魔法が気になったが、
「クッソ、言うこと聞きやがれっ」
アルドがジークの胸ぐらを掴んでいた。
あんな状態になってもまだ自制心を保っているジークに、ただただ感服する。
この機を逃すまい、と一気に男達に集中攻撃をかけた。
バン、バン、バン。
バン、バン。
あちこちで銃声が鳴った、と思ったら撃たれた鳥達が消えていた。
剣に切られた鳥も、触れた瞬間に霧散している。
魔法の鳥の攻撃にたまりかねた男達が、なりふり構わず剣を振り回し、銃を撃って応戦したのだが、普通の弾丸や剣で魔法の鳥が消滅するはずがない。
彼らが持っている銃をよく見ると銃身のトリガーの上部分が赤く光っている。
他の男達が持っている剣の鍔部分も赤く光っている。
(なんだ?)
そう思った瞬間、男達の銃口がこちらに向いた。
バーーーンッ
一斉に撃ってきた。
バシッ
間一髪だった。
後ろにあった防御壁に弾が当たり、亀裂が入った。
「もっと、パワーをあげろっ」
「できねーって。これで、いっぱいいっぱいだ」
「ほかの魔石は?」
「ないっ」
「俺のは、もう使えねーぞ」
木々の後ろに滑り込んだ俺の耳に、男達の声が聞こえてきた。
見ると、赤く光る部分をいじっている。
(魔石?・・・魔石がはめ込んで、あるのか)
月明りの下にいた時には気づかなかったが、空が白み始めた夜明け前の薄暗闇の中では赤い光がよく見える。
からくりは分からないが、武器にはめ込んだ魔石で魔力を消したようだ。
状況から理解はしたが、そんな武器は現状存在しない。
他国でも聞いたことがない。
一般的に魔石は家内製品の動力として広く使われているが、武器に転用など野盗崩れごときが出来るはずがない。
わが国でも以前、発案した者がいたが、結局ダメだったと聞いている。
(それを可能にするとは。レッド・ウィドウ、いったい何者なんだ。そもそも、人なのか?)
バァッ、ギーーン!
ジークが防御壁を蹴破り、壁の外へと走り去っていく。
「ジークッ」
そのジークをアルドが人形魔法で操ろうとしたが、
「クソッ、魔力が足りねぇ。お前ら、そいつを始末しておけよ」
ジークを追って駆け出していってしまった。
すぐに防御壁を塞いだが間に合わず、七海を思って躊躇していると気配を感じて、ハッと振り向くと男が真近に迫っていた。
ザンッ
虚を突かれ下がったところへ剣が振り下ろされ、空を切った。
新たに迫る次の剣をかわしてジャンプすると、皮肉にも赤く光る魔石で男達の居場所を把握できた。
こちらを狙う銃口。
すぐに張り巡らしていた防御壁を消して自分の周りを覆うと、放たれた銃弾で壁に亀裂がいくつも入った。
貫通せずに突き刺さったままの数弾の先には、魔石が光っている。
飛んできた時には、弾は光っていなかった。
着弾すると光る。
(そういうことか)
魔法騎士は、魔石を自分の術を増幅する道具として、その中にある魔力を活用する。
でも、この魔石はその逆だ。
集団の中に降り立ち、薙ぎ払うように手から魔力を放出すると、男達は構えるように剣先をこちらに向けた。
すると、魔力が消え魔石の輝きが増した。
(やはりそうだ。魔石に魔力を吸収させているんだ)
切り込んできた男の刃をすんでのところでかわす。
薄暗闇も夜明けと共に明るくなってきているとはいえ、やたらと正確に打ち込んでくる。
(これも魔石の効力なのか?)
性能の分からない武器に、いろいろな疑問がわく。
大振りで無駄な動きが多い男達の斬撃を後退しながら避けていると、大きな男が力任せに振りかぶってきた。
足に魔力を込めて素早く懐に入り、みぞおちに肘を打ちつけた。
崩れ落ちる男の手から剣を奪って見ると、やはり鍔に魔石が光っている。
かなりの魔力を保有しているようだ。
突然、森の奥からガァ、ガァ、と鳥達の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
目覚めた鳥達が動き出したのか、応援部隊が来たのか、どちらにせよ、俺には終焉の狼煙のように聞こえた。
〈 着くぞ 〉
ライアット殿下の声が頭に響いた。
〈 殿下、七海が木場にいます 〉
〈 分かっている 〉
今にも襲い掛かろうとする男達に、
「さぁ、形勢逆転といこうか」
一瞥して言うと、気圧されたように一瞬足を止めた。
が、多勢に1人だ、とばかりに一斉に襲い掛かってきた。
その瞬間、自分の中にある濃度の濃い魔力をグワリッと膨れ上がらせた。
普通の人なら、触れれば失神してしまうだろう。
それもそのはず、ライアット殿下とライアン王子、お2人の魔力なのだから。
バキッ、バッ、バキッ、ビシッ。
バッ、バキッ、バッ。
男達の鍔の魔石が、剣先が魔力に触れた瞬間次々に割れた。
魔石の剣の性能を見てやろうと魔力を開放したのだが、容量はそこまで多くないようだ。
「ウッ」
「オエッ」
魔力に当てられた幾人かの男達が片膝をつき、吐いている者もいる。
ザァァーーーーー
突然、頭上から突風が吹き下ろしてきた。
叩きつけるような強い風に、魔力が煽られ、ないまぜにかき回された。
「ゴフッ」
「・・・ッ」
男達の顔が死人のように青黒くなり、白目をむいたり、泡を吹いて、バタバタと倒れはじめた。
すぐに魔力放出は止めたけれど、周りは見るも無残な惨状となっていた。
おまけに、武器に埋め込まれた魔石がことごとく弾け飛び、明らかに魔力の吸収オーバーだ。
「流石ですね、マティリス」
隣で声がして、見るとサラリとした淡い薄茶の髪をかき上げながら感嘆するクリスが立っていた。
「応援は必要なかったですか?」
その隣にはアーロン。
片手に持っていた剣を静かに鞘におさめた。
「そうでもないけど、タイミングが悪かったな」
持っていた剣の鍔を見ると、ぽっかりと穴が空いている。
2人の登場は有難いけれど、大事な証拠品がダメになってしまった。




