32話
「何しやがる、ジーク」
アルドはジークを睨みつけた。
「この人を傷つけてしまったら、本当に犯罪者になってしまうだろ」
ジークの言葉にアルドは驚いた顔をして、すぐにクッと笑い出した。
「ナニが可笑しい」
「いや、知らないってのは悲しいねー」
ジークを馬鹿にするように、アルドは言った。
「は?」
「公爵が言ってたぜ。お前らはホント、イイ子ちゃんだってな」
「なんだと」
「クククッ、本当さ」
ジークは、嫌な顔をしてアルドを見た。
「馬鹿なクソガキ、とも言ってたな」
「ウソを言うな。公爵様は、そんなこと言わない」
「ハハッ、なーんも知らねーんだな、ジーク。それともワザと知らないフリをしてるのか?」
アルドが、楽しそうに笑いながら顔を近づけて来るので、ジークは顔をしかめて片手で払いのけた。
その途端、後ろに回していた片手がなくなり、背負っていた七海がズルリと落ちかけた。
「ジーク、ナツが落ちるよ」
イゴが後ろから、ナツを抱えるように手を添えた。
ジークがもう一度、背負い直そうとしたけれどバランスを崩した七海の体は背中からずり落ち、そのまま頭が地面目がけて落ちそうになった。
俺は、慌てて下から受け止めた。
(はぁー、よかったぁ~)
七海が落ちる一瞬、脳裏に副隊長の顔が浮かび、ゾッとした。
「わわっ、大丈夫?」
地面にへたりながら七海を抱えている俺に、イゴが心配そうに声をかけてきた。
そんな俺達を見ていたアルドが、
「なんだかんだ言って、お前らもそいつを利用するつもりなんじゃねーの?」
片方の口角を上げて言った。
「どういう意味だ」
「わざわざ危険を犯してまで黒子を連れてくるってことは、そーゆーことだろ。黒子は珍しいから、どこに行っても高く売れるしな」
「売る?ナツは、そんな為に連れて来たんじゃない。そもそも、俺達は人を売ったりしない」
アルドは、目を大きく見開き笑い出した。
「アハハハハハハ、マジで言ってんのかよ。こりゃ、本当に馬鹿だな。知らぬは本人ばかりってか。アハハハハハハ、ヤッバ腹イテー」
腹を押さえて笑うアルドを、ジークとイゴは訝しむように見た。
「うっ」
「あ、七海」
腕の中に動きを感じて見ると、七海が目を覚ましていた。
「マ、ティリス?」
「あぁ、体はどうだ。大丈夫か?」
「う、うん。ダルい、けど」
見下ろす俺から目線を外し、夜上を見上げた。
「ここ、外?」
不安いっぱいの顔で俺を見た。
どう言えばいいのか、複雑な思いで頷き答えると、
「ナツ、良かった」
イゴの心配する声がして、七海は驚きの声を上げた。
「えっ?イゴ? どうなってんの?って、えーっ? なっ! イヤーーーッ」
自分の格好にも気がついて、包まっていたマントを胸元まで急いで引き上げた。
「うっせーな」
面倒臭そうに文句を言うアルドを見ると、驚愕の顔をして七海は顔を背けた。
「な、なんでいんの?」
「察しがいいな、アンタ」
「人形魔法の人でしょ」
「そうそう。また魔法をかけてやろうと思ったのに、残念だな」
「七海、立てるか?」
俺は、ふざけて話すアルドを無視して七海に声をかけ、先に立ち上がった。
七海の言う通り、ダルさはあるが体に支障はないようだ。
頷く七海に手を差し出すと、俺の手を掴んできたので、力強く引っ張り上げると七海は立ち上がった。
少しフラつく体を支えてやるとパラリとマントがはだけて、ナイトドレスの胸元が見えた。
七海は俺の視線に気がついて、胸元を閉じるようにマントを掴んだ。
「なんで外? どーしちゃったの私」
怪しむようにアルドの方をチラッと見た。
「俺じゃねーぞ」
七海の懸念を感じてアルドが答えた。
どうやら、七海は人形魔法で操られて来たと疑っているようだ。
「俺達が連れて来たんだ」
「え?イゴが?どうして?どうやって?」
イゴが笑顔で答えると、七海は訳がわからない、という顔をした。
「背負って医務室に連れて行く途中で、彼らに会って、ここまで来たんだ」
俺は、簡素に経緯を伝えた。
「そう、なの? でも、背負ってって」
「七海は小さいからマントに包まっていたし、大丈夫だったよ」
「そうじゃなくて。私、なんで連れてこられてるの?それにマティリスも」
七海は不安そうな顔で、俺を見た。
「自由になりたがってただろ、ナツ。だから、話をして納得してくれたら一緒に行こうと思ってたんだけど。急展開で、話をする前に行くことになっちゃったんだ」
横からイゴが言った。
「自由?行くってどこに?? 私はただ、家に帰りたいだけなのよ」
「だからさ、そこにまた家を借りたらいいじゃないか。ユースフェルト公爵様の領地に行こうよ、一緒に。絶対、公爵様も力になってくれるよ。あそこは誰もが自由で、平等にチャンスがあたえらる所なんだから」
唐突なイゴの話に、違和感を感じた。
確か、殿下の話では、彼ら2人は人身売買の斡旋役だったはず、それなのに話がおかしい。
「なんでそんなとこに? 行かない、私は家に、アルバに帰りたい」
七海の答えにイゴは、信じられないというような絶句した顔を見せた。
「でもここじゃ、自由に暮らせないじゃんか」
「イゴ、言ってる意味が分かんないんだけど。私はどこにも行かない」
「そんな、誰も自分を見てないって、認めてくれないって言ってたじゃないか」
「だから、それは、」
必死になって話すイゴの勢いに押されて、七海は後ろに下がった。
「もう、やめろ」
声をかけたが、俺の静止など聞こえていないようにイゴは、七海に食い下がって話し続けている。
「交渉決裂だな」
2人のやり取りを見ていたアルドが、半笑いを浮かべて言うと、
「こっちの話は、まだ終わってないぞ」
ジークが闘志をむき出して言うとアルドは、はぁ、と大きく溜息をついた。
「そんなに知りたきゃ、公爵に直接聞けばいいだろ。もともとこっちはビジネスで付き合ってるだけなんだから」
「話を逸らすなよ。・・・・・俺達は、犯罪者なのか?」
「あぁ、そうだ」
あまりにもストレートな答えに、ジークはたじろぐように押し黙った。
「さっき、王子を縛ったからか?」
「ハッ?、ちっげーよ。ホント、おめでたい奴だな。お前もイゴも、頭のてっぺんから足の先まで真っ黒なの、どーっぷり浸かっちまってるんだよ」
「ナ、ナニに、ナニをしたんだ?」
「俺の口からは言えねーなー。でもまぁ、お前らは被害者みたいなもんだよ。公爵に上手いこと言われてこき使われてただけなんだし。悪い奴だよなー、公爵は。今頃はどこぞで悠々とワインを飲みながら高みの見物なんだろうぜ」
「違う」
アルドはゆっくりジークに近づき、囁くように言った。
「なんで分かるんだよ。面倒ごとお前らに押し付けて突然、姿をくらませたんだぜ」
「公爵様は、今は、」
話し出すジークを見て、アルドはニッとアルカイックな笑みを浮かべた。
「だからイゴ、私はどこにも行きたくないの。ルイのそばにいたいのよ」
七海が大きな声が、割って入りアルドとジークは声の方を見た。
「特務隊の奴だろ。王族の犬じゃないか、ナツのこと理解出来るはずがないよ」
「そんなことない。さっき言ったもん、私が生きる理由だって言ってくれたもん。私、ルイのとこに帰るっ」
強い口調で説得してくるイゴを振り払うように、七海はイゴの胸を押した。
「ちょっと待て」
アルドの鋭い言葉が飛んだ。
その場の誰もがアルドを見た。
俺はすぐ七海を後ろに庇うように、前に進み出た。
「おい、黒子。特務隊の魔法騎士と一緒にいたのか?」
「彼女は体調が悪くて医務室に行くところだったんだ。お前の人形魔法のせいで」
七海の変わりに話す俺をアルドは無視した。
「おい、どーなんだよ」
「七海は部屋にいたっ、」
急に、動けなくなった。
(クソッ、また人形魔法かっ)
「マティリス? ・・・っ!」
オロオロしながら七海が俺の名前を呼んだが、すぐに異変に気づいた。
「あの魔法騎士、ルイスって奴といたのか? サッサと答えろ。コイツが死ぬぜ」
「うっ、グッ・・・」
喉が詰まり、息が出来なくなった。
体の自由も奪われ、立ったまま気を失いかけた時、
「いいっ、一緒にいたわっ!」
七海が叫ぶように答えた。
その瞬間、魔法が解け崩れ落ちそうになるのを七海が支えてくれた。
「マズいな、見張られていたのか?」
アルド、ジーク、イゴの3人は気配を探るように周りを見渡した。
来た道の先に城門の灯りが遠く見え、左右に広がる城壁に灯る明かりの向こうに王城が黒く浮かび上がって見えた。
それを睨むように見上げたアルドは、はっ、と息を吐いた。
「ジーク。無効魔法、すぐに出せるようにしとけよ」
「あぁ」
「わ、私は、」
七海がアルドに何か言いかけたが、動きが止まった。
また、人形魔法だ。
「ヤ、メロ」
「・・・ッ、ハッ、ハッ、ハッ、」
すぐに魔法が解けて、七海は急いで呼吸しようと肩で息をした。
「ウダウダ言わず、ついて来い。妙な真似をしたら殺す。イゴ、黒子を背負え。アンタは自分で歩けよ。また、魔法にかけられんのはイヤだろ」
そう言って歩き出すアルドに、それぞれが従って後に続いた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます
毎週金曜日に投稿させてもらっていましたが、今後は不定期になります…、すみません
1週間に一回ペースは崩さずにいこうとは思っていますが…
また読んで頂けると嬉しいです
少し空きますが、次は再来週に投稿予定です
よろしくお願い致します m(_ _)m




