28話
「ナツ・・・ナツ」
ルイが、私を抱きしめている。
さっきまで、死を迎えてすべてを終わりにしようと思っていたのに、今は世界で一番安心する暖かなルイの腕の中にいる。
胸に張りつめていたものが、ゆっくりと溶かされていくように感じた。
「ル、イ」
私の声にルイは体を少し離して、心配するように見下ろしてきた。
青い瞳の中に私が映っている。
本当にルイの腕の中にいるんだ、とまざまざとした実感が湧いてきて胸がギュッとなった。
「大丈夫か? 無茶なことをして」
私を見つめる瞳が、辛そうに細められた。
「ごめん、ルイ」
擦れた声が出た。
ずっと胸に溜め込んでいた思いを吐き出し、激情のまま泣き叫んだので声がしわがれてしまった。
ルイは首を振って、自分の額と私の額をコツンと優しく押しあてた。
「本当に無事でよかった」
心底ホッとしたように、青息を零しながら言った。
ルイの心情が伝わってきて、今更ながらに申し訳ない気持ちになった。
でも、自分の死を選んだことは間違っていないと、そう思う。
この世界に来てから、来訪者と認められて王宮に来てからも、結局、自分の立ち位置が変わることはなかった。
どこにいても、私は認めてもらえない。
ただ来訪者であるから、黒子であるから、そんなことでしか認めてもらえず、僅かな自由も奪われた。
私はこれまで姿も変えて、この世界で生きていこうと頑張ってきたけれど、降りかかる災難はなくならなくて、自分の死を考えた時初めて、全てのしがらみから解放されて自由になったように感じた。
ルイがこんなに心配してくれているのに、と思うとすごく胸が痛むけれど、それでもこの思いに揺るぎはない。
私を大好きだ、と言ってくれたルイ。
私もルイが好き、大好き。
それなのに死を望む気持ちが消えないなんて、私はなんて残酷な人間なんだろう。
もしまた機会があったとしたら、私は死を選んでしまうかもしれない。
それくらい私が選んだ死は大きい。
(誰も私を認めてくれなくても、私は、私の心は、自分らしくありたい)
「ナツ、すぐに気持ちの整理はできないかもしれない。でも、忘れないでいて欲しい。俺がいることを」
少し顔を離して、私の気持ちを見透かすように、ルイは私をジッと見て言った。
「俺の命は、ナツと共にある」
あまりにもストレートなもの言いに、言葉の重さに気がつくのに少し時間がかかり、二の句が継げないままルイを見上げた。
「ナツが、自分の死を選ぶ理由があるように、俺には、俺の生きる理由がある。それが、七海だ。このことだけは、忘れないでくれ」
(なんてことを言うの? 今、そんな言葉言わないで!)
言葉が、胸にグサリと突き刺さった。
揺るがない心に迷いを感じた。
(私は、自分を守るために死を選んだのに、ルイは、生きるために私を選ぶというの?)
違う、私は間違ってない。
私の決断は間違ってなんかない。
そう思うのに、気持ちが揺らぐ、胸が熱くなる。
(あぁ)
真っすぐに見つめるルイから、私に向かってくる強い思いは、私がずっと望んでいたもの、欲しかったものだ。
涙が滲んだ。
「七海」
私の名前を呼ぶ、ルイの優しい声。
それだけで、あんなに揺るがなかった心がバラバラと崩れていくような感じがする。
涙が零れ落ちた。
頬をつたう涙が、とても暖かい。
(私は・・・)
ルイが頬の涙を拭うように、私の頬に触れた。
優しい手の感触に、また涙が零れた。
「ルイ」
涙がとめどなく流れる。
暖かい涙が流れ落ちるたびに、心の鎧が剝がされていくみたいに感じた。
「ナツ、大丈夫か?」
涙を流す私を気にして、ルイが心配そうに聞いてきた。
大好きなルイ。
見つめられるだけで、胸が暖かくなって高鳴ってくる。
心配するルイに言葉を返したいと思ったけれど、何を言っても薄っぺらな感じがして言葉が出てこない。
と思っていたら、本当に言葉が出てこない。
(なんだか、頭もぼんやりとして、それに、瞼がひどく重い)
「ル、イ・・・なんか・・・」
急に疲弊していた体の疲れが如実に現れてきて、すごく怠い。
「人形魔法のせいか、クソッ」
「人形・・・魔法?」
自分の意思に関係なく勝手に体が動いていたのを、思い出した。
まさに、傀儡のようだった。
「あれは、外道な魔法だ。本来は、使ってはいけないものだ」
「・・・・・」
返事をしたいのに、口を開くのさえ億劫になってきた。
「副隊長!」
激しい靴音と一緒に、別の誰かの声が聞こえた。
ルイが、その人と何か話している。
でも、もう瞼が上がらない。
「七海」
ルイが、私の名前を呼んだ。
(あぁ、そうだ。私もルイスと呼んでみたい。ルイの本当の名前。呼んだら、どんな顔をしてくれるかしら?)
そう思っていると、プツンと意識が途切れた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます
本当は、27話にまとめたかったんですけど、長くなってしまって、28話になりました σ^_^;




